表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/19

第16話『花火大会の話題』

「どうですか、なぁくん」

「ん、すごく美味しいです!」


 野菜を一口食べると、あかねさんがすぐに感想を聞いてきた。

 出汁の味がしっかりと染み込んでいて、すごく美味しい。他の具材も口に入れた。言わずもがなだが、美味しい。


「なにあんた。栞田さんに『なぁくん』とか呼ばれてんの? キモイんですけど」


 俺の右隣に座る十花が、ジト目でそんなことを言ってきた。

 声のボリュームを下げているせいか、千聖も十花の発言に気付いてない。


「不本意ながらね……」

「ふん、満更でもなさそ」

「うっ」


 確かに呼ばれ方に関しては不本意だが、『なぁくん』と呼ばれることに関して正直嬉しい。

 図星をつかれ、僕は押し黙る。



「そういえばなつっち、今年の花火大会行くの?」

「あー、どうだろ。康太郎に聞いたら今年は千聖と行くって言ったんだよね。さすがに一人では行かないかな」

「え、ちさ、康太郎からそんなこと聞いてないんだけど! 康太郎から誘われちゃうのかな! 浴衣準備しないとっ!」


 話題が花火大会の話へと変わる。

 今年の花火大会は夏休みの終盤にある。夏休みを締めくくる大きなリア充イベントだ。

 去年は康太郎と一緒に見に行ったんだけど、今年はそうは行かないらしい。


「夏斗、康太郎からその話いつ聞いたの?」

「うーん、ついこの間?」

「あいつ! ……約束が違う!」


 僕の返答を聞いた十花の機嫌が、少し悪くなってしまった。


「もしかして、この間食堂で話してた約束のこと? 約束の内容までは知らないけど」

「そうよ。毎年花火大会は一日しか開催しないのは知ってるでしょ。私は毎年お姉ちゃんと行ってるの。アホアホ夏斗でもここまで言えばわかるでしょ」

「そういう連続させるの好きだよね、十花ちゃん……まぁ、つまり康太郎に千聖を取られたくないと? なるほど、シスコンか」

「ちょ! アホ夏斗! 声が大きい!」


 食堂で話していた約束の内容はなんとなくだけど理解した。

 康太郎の浮かべていた表情にも納得がいく。


「大変そうだね。頑張って」

「多分あの男、お姉ちゃんを完全に奪う気よ……」

「あの男って康太郎のこと?」

「話の流れ的に康太郎以外誰がいるっての! ほんとバカね!」

「す、すみません……」


 ずっとコソコソ話しているせいで、お皿の上に盛られた牛肉が、どんどん無くなっていく。

 高そうなお肉……。


「手伝って」


 しゃぶしゃぶしたお肉を口に入れようとした手前で、十花ちゃんがそんなことを言ってきた。

 手を止め、十花ちゃんの方を見る。


「えっと、十花ちゃん? 僕の聞き間違いじゃなければ、手伝って、って聞こえたんだけど……」

「そう言ったの」

「いや、仮にどちらかの味方につくとしたら、普通に康太郎の方なんだけど……」

「私に逆らう気? あんたの黒歴史は今、私のスマホの中にも入ってるのよ」

「やります。やらせてください」


 すまない、康太郎。友情より保身を選んでしまった。責めるなら十花を責めてくれ……。


「とりあえずお肉食べていいかな」

「素直なあなたにはご褒美として、この私があーんしてあげてもいいわよ」

「遠慮しておきます……」


 あかねさんの目の前でそんなことできるはずがない。というか、いなくても後輩にあーんなんてしてもらわない。


「なぁくん、大丈夫ですか? 汗かいてるみたいですけど」

「あー、うん。鍋食べてたら体が熱くなったみたいで、はは……」

「そうですか」


 怪訝な顔を浮かべるものの、納得した色を見せるあかねさん。


「夏斗、いいわね。今年の花火大会、あんたは私の味方につくの。康太郎はあんたと花火大会に行く。わかった?」

「もし無理だったら?」

「その時はその時で考えるわ」


 今年ももう少しで夏休みだ。長期休暇を謳歌出来ると思っていたのに、始まる前からこんな予定を立ててしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ