第14話『お菓子は200円まで』
僕は荷物持ちとして、家の近くのスーパーまであかねさんと来ていた。
家から徒歩五分くらいの場所にあるが、普段料理はしないため、こうやって中に入るのはすごく久しぶりな感じがする。
今日は鍋パーティーをするための材料を買いに来た。
「何買うか決めてるの?」
「はい。野菜とお肉、それと他に鍋に使えそうな食材を」
「あのさ、お菓子売り場行ってきてもいい?」
「なぁくん、お菓子を食べたいんですか?」
「そういうわけじゃないけど、欲しいものがあってね」
僕が欲しいものというのは、カード入りのウエハースチョコだ。
ネット小説ではかなり有名で、今期アニメ化もしたほどの人気作。その人気作のウエハースが今日発売日らしい。
今日あかねについてきたのは荷物持ちをするため。でも、せっかく来たんだし、ウエハースも買っておきたいところ。
「お菓子は200円までですよ。叔母さんからもそう言われているので、なぁくんお願いしますね」
「一応高校二年生なんだけどなぁ……」
文句は言いつつ、僕はお菓子売り場へと向かう。
あかねさんの言う200円が税込なら、ウエハース二つも買えない。
「へ?」
お菓子売り場に着くと、フードを被った身長の低い少女と目が合った。
見覚えのある顔だ。僕を見るなり、間抜けな声を出す。
一瞬小学生のようにも見える容姿だが、実年齢は違う。高校一年生だ。
「姫野十花……?」
「なっ! なんでキモキモ弁当がここにいんの!」
「いや、僕もお菓子売り場に用があって……って、それ!」
僕は思わず、十花の右手に持っている物に指をさして、声を上げた。
十花が持っていたのは、僕のお目当てのウエハースだ。
「もしかして、十花ちゃんも好きなのか? そのアニメ……」
「べ、別に。好きじゃない。というか、いきなり名前にちゃん付けとかキモすぎなんだけど。さすがキモキモ弁当ね」
「いや、千聖の妹だし、さすがに苗字で呼ぶってのも慣れないからね……というか、キモキモ弁当って僕のこと!?」
「それ以外に誰がいるってのよ、キモキモ弁当!」
深呼吸して、一旦落ち着く。
どうやら服装からして、学校の帰りではないようだ。もしかして帰宅部なのだろうか。周りを見渡すが、十花の知り合いは見当たらない。
「一人で来たの?」
「違うわ。お姉ちゃんと来たのよ」
「千聖と来たのか」
「気安く私のお姉ちゃんの名前を呼ばないで、キモキモ弁当」
「そろそろその呼び方やめて欲しいんだけど。前にも言ったよね、あの弁当だけは馬鹿にしないでって」
「いくらでも言ってやるわよ! キモキモ弁当!」
子供と会話しているような気分だ。
十花はフードを外し、ふん、と鼻を鳴らすと、踵を返して僕とは逆の方向へ歩き始めた。
ウエハースを三つほど片手に持って。
「話は終わってないんだけど!」
「もういいわ、あんたと話してても楽しくないし!」
そう言って、十花が角を曲がる直前、千聖がやってきた。
「あ、お姉ちゃん!」
「もう! 200円までって言ったでしょ! 早く戻してきて!……って、なつっち!?」
僕に気付いたのか、千聖はこっちにやって来た。千聖に引っ張られ、十花も再び僕の元へ戻ってくる。
「なつっちも買い物に来てたんだね。もしかしてあかねっちと一緒に?」
「あぁ、うん。あかねさんなら夕食の具材を集めに行ってるよ」
「待って、お姉ちゃん。あかねっちって栞田あかねのこと!? なんでキモキモ弁当と栞田が一緒にスーパーに来てるわけ!?」
「こら! 栞田さん、でしょ! それになつっちに変なあだ名つけない!」
「むぅ……」
千聖に窘められ、十花の頬が膨らむ。
それにしても、千聖も結構お姉ちゃんをしていることに驚きだ。
普段からじゃ想像もできない。
「よかったら、千聖たちもどう? 今日鍋パーティーする予定なんだよね。僕の妹も昨日帰ってきてさ」
「うーん、誘いは嬉しいけど、さすがにお邪魔出来ないよ〜。お金も今日そんなに持ってきてないし」
「じゃあ映画館のチケットのお礼ってことで。僕的には、大人数で食べた方が美味しいしね!」
「じゃあなつっちの言葉に甘えようかな!」
結局僕達四人、プラス姫野姉妹も参加することになった鍋パーティー。
一先ず、あかねさんに許可を取ることにした。
メッセージを送ると、すぐに返事が来た。
「六人分の材料買っておきますね、だってさ」
「なんで私まで入ってるの、キモキモ弁、イッター!」
あだ名を言いかけた十花に、少し強めのゲンコツが千聖から飛んできた。
「十花もお礼言って!」
「ありがと……」
「声が小さいー!」
「あ、り、が、と!」
僕は思わず苦笑いを浮かべた。
とはいえ、感謝すべきなのは僕じゃなくてあかねさんなんだけどね。
そういえば、叔母さんにも千聖たちのことを連絡しておかないといけない。
ダメだって言われることは100%ないけど。
「ちさ、あかねっち探してくるね!」
そう言うと、千聖はどこかへと行ってしまった。
「なに?」
「いや、何も……」
残された僕と十花は、気まずそうにお菓子売り場をウロウロした。