付き合いが長いと大変ね
夏休みもラストスパートとなった私は、案の定宿題に追われていた。
「ん゛ーー!づがれだーー!」
「まだ1時間も経ってないわ、カスミ」
蔑むような視線と凍てつくような声で私を責め立てるのは、幼馴染のコトネだ。やんごとなき良家の一人娘なコトネと一般ピーポーな私では基本スペックが桁違い。宿題どころか自主学習してしまうような優等生に泣きつくのはもはや必至で、言ってしまえば私の夏の風物詩なのだった。
今日も今日とてコトネを呼び出し、3日後に迫る締切に向けて数学の問題集を開いたのだけど…。
「こんな暑いのにやってられっかぁ!」
と、大の字に倒れる程度には集中出来ていなかった。倒れた拍子にシャツが思い切りはだけて、丸見えなお腹に扇風機の風が当たる。来年は思い切ってヘソ出しするか、などといらん考えをしていると、
「は、はしたないわっ!しゃんとしなさい!」
私のだらけ具合いを見兼ねたコトネに、お母さんばりに叱られるのだった。普段クールなコトネが顔を真っ赤にして怒る様は実際レアものだ。正直かわいい、怒り慣れてないのがグッド。まあ、キッとした視線がお嬢様なコトネには似合ってるのもあって、わざとこういう態度を取っている、という所も多少、ある。
それに、コトネの可愛らしい姿はこれだけでは無い!
「そー言うコトネだって、どこ見てんのさ?」
そう言ってわざとらしく胸元を隠せば、コトネは慌てたように顔を背けてしまった。と言うのも、はだけたシャツがいい具合に私の下乳を晒してしまっていたのだ。
唯一コトネに勝る要素である我が乳は、随分コトネの劣等感を煽るようでこんな感じで強調すると、思わず目が行くらしい。それを咎めれば、帰ってくるのが男子みたいな反応だから、なんだか可笑しくて時折からかってしまうのだ。
「う、うるさいわね…。と言うかっ!何故、下着を付けてないのよ?!」
「えー、別に外出る予定ないし、人と会っても家族かコトネなら別に…」
特にコトネなら女同士だし、幼馴染ともなれば一緒にお風呂に入ることも何度もあったから、いまさら恥ずかしくもないんだけどね。
「ダメよ!オオカミは何処にいるのか分からないのよっ!?」
「オオカミて…。少なくとも此処には居ないじゃん」
何というか、コトネは心配性というか、私に対して過保護な嫌いがある。お嬢様故の奥ゆかしさもあるんだろうけど、特段、私に対しては神経質だと思う。
今だって聞き分けの悪い私を見て、怒ってるのか息が荒いし、何だか視線も怖い。
(うう、ちょっと煽りすぎたかな…)
いたたまれなくなって体を起こすと、空気読めてない私の乳共がユサッと揺れてしまった。
ハハハ、まったくこやつらめ。
ま、ブラつけて無いし揺れちゃうわな。私、貧の乳でないのでな。
ガタッ
音の方を見れば、立ち上がったコトネの姿。前髪のせいで表情は分からないけど、握り締めた両手が怒りを如実に示している。
まさか、煽りすぎてガチギレなのか…?
「コトネ…?あはは、ごめんねぇ、私のおっぱいがさー」
と、茶化すもまるで効果無し。
徐に近付いて来るコトネに恐ろしい威圧を感じた私は、無意識に後退っていた。
「ええ…本当に、カスミのおっぱいはいやらしいわ…」
「え?」
コトネの様子が明らかにおかしい。いつもなら、こんな感じに乗って話すはずが無い。
コトネが更に詰め寄ってくる。
「本当、本当にいやらしい…。こんな、愛らしい顔にぷっくりな唇を付けて…」
う、唇厚いのちょっと気にしてんだぞ!
「肌ももちもちで、ずっと触れていたくなるわ…」
いよいよ壁に追い込まれた私の視線に合わせるように、コトネが膝を着けば、スベスベの両手が私の頬を包むように触られた。
至近距離にコトネの顔を見れば、幼馴染ながら今までに見たことがないような表情をしていた。
淫靡に弧を描く唇。上気した頬。凄まじい熱量をぶつける瞳。
これは、正しく──!
(発情したドSの顔!)
私はここにきて漸く自分が、コトネというまな板の上に居るのだと気づいたのだ!(上手い!)
「っ!」
「カスミ?…どうして、逃げようとするの…?」
爆笑ボケの勢いそのままに逃げようとして、堪らず身をよじる。が、私の逃げ場をなくすように、コトネの体が覆い被さってきた。
残念ながら私の力ではコトネの体を押し返す事はできない。
コトネの顔がより近づくと、さっき逃げようとしたのがマズかったのか、完全に目のハイライトが消えていた。
恐怖に震える私を余所に、コトネが口を開いた。
「私、我慢したのよ?貴女と出逢って15年と8ヶ月と21日、カスミのすぐ側で、カスミの顔も、カスミの体も、カスミの言葉も、カスミの全部を、ずっと見てきて…。それでも、私、今日まで我慢してたのよ?……それなのに…」
「こ、コトネ?」
あ、あかん、これはドSやない!ヤンのやつや!
「どうして逃げようとしたの?私がこんなに思ってるのに、私が誰よりもカスミをアイシテルのに…!どうして?ねえ、カスミがイケないのよ?カスミがあの時私を仲間に誘ってくれたから、カスミが私の髪を綺麗って言ってくれたから、カスミが私に生きる意味をくれたから…!全部、カスミが……!」
私は覚えてなかったけど、幼稚園の頃のコトネは無口でいつも一人だったらしい、だから当時ガキ大将だった私が声をかけたらしい。
髪がどうのは、たぶん小学生の頃だ。コトネの母方のおじいさんが北欧の人で、クウォーターだったコトネの髪は黒く無かった。それを気にしてたから、当時カラフルな髪色のアニメにハマっていた私は別に気にせず、綺麗だからいいじゃん。的なことを言った気がする。
生きる意味とかはたぶん中学生の頃かな。当然私より優秀で良いとこのお嬢様なコトネが、私みたいな庶民と同じ高校に行くのは、コトネの両親が難色を示したのだ。それがだいぶ拗らせた大喧嘩になっちゃったようで、それにちょっかいをかけた時のことだと思う。
「全部、全部カスミがくれたから…。だから、…そんなの好きになっちゃうじゃない!」
「!」
大胆な告白は女の子の特権とか何とか。
鈍い私でも、こんだけ迫られてライクとラブの好きを間違えたりは、流石にしない。というか、薄々勘付いてたところは、正直あった。
でも…。
「でも、コトネ。私達女同士だよ」
「分かってる!…分かってるわ…。だから、我慢して…」
噛み締めるようなコトネに、私も思うところはある。
でも、きっと私はコトネの気持ちに応えることは出来ないと思う。私にとってコトネは、最高の"幼馴染"だから。
「あのね、コト──」
「なのにっ!なのに、どうして?!カスミは、いっつもいっつも私を誘惑してっ!手を出せないのに、手を出しちゃいけないのに!私に何度も見せつけて!」
あれ!?何だか雲行きがおかしいぞ?
「私が何回カスミを思ってシたか!カスミの横で、どれだけ我慢したか!なのに、お構いなしに女同士だからっていやらしい格好して、そんなの、そんなの我慢しきれないじゃない!もう、カスミの匂いを嗅ぐだけで昂ぶっちゃうの!カスミの近くに居るだけで…、私、もう下着が1枚じゃ足りなくなっちゃったのよ!」
「コトネっ?!」
「カスミのせいなんだから♡私をこんなにして、それなのに今日もそのエッチなおっぱいで誘惑して♡」
ヤバい、コトネの瞳にハートマークが見える!?
もはや身の危険を感じて、精一杯の抵抗をするが…。
「あれ、どうしたのカスミ?そんなにおっぱい押し付けて…。また、私を誘ってるわけ?」
密着した状態で体を動かせば、無駄に大きな私の乳がどうしてもコトネを刺激してしまうのだった。
「ち、違っ」
「はぁ、はぁ…。もう、我慢できないの♡だから、だからぁ…♡優しくするから、ね♡」
鼻息荒く迫るコトネに、もはや私に為す術はなかったのだった。
「いただきまぁす♡」