第1話 少女
「ねえ、パーティー組まない?」
「えっ?」
目の前の知らない少女が、僕の方を向いて言った。後ろを振り返ったけど、誰かいるわけでもない。
「あなたに聞いてるのよ」
「あ、僕?」
「あなたも、まだ初心者なんでしょ?」
少女に言われて、自分の装備を見る。腰に巻いたベルトに、安っぽい剣。鎖帷子もその辺で買った安いやつだ。なるほど、駆け出しの冒険者にしか見えない。
パーティのメンバーが死んだか抜けたかして、一人になったのだろう。ぱっと見、年が一緒くらいで、そんなに強くなさそうな僕は誘いやすかったのかもしれない。
「えーっと、まあ、しばらくの間なら良いよ」
暇だったし。
「えっ、ほんと! ありがとう!」
少女はにこっと笑った。かわいい。
少女の装備は、胸当てに何かの魔物の皮装備、それに短剣と、軽くて動きやすそうだった。実用性は十分だろう。
「ところで……」
僕は周りを見回す。ここは酒場を兼ねた仕事斡旋所、いわゆるギルドだ。依頼を受けたり、座って談笑したり酒を飲んでいる人たちは多く見かけるけど、ほかにパーティーに誘えそうな人は見当たらない。
「残りのメンバーはどうするの?」
「えっ、ふたりもいれば大丈夫でしょ」
「えっ」
ふつうダンジョンに潜るには、最低でも3人か4人のパーティを組む。少なくとも、回復要員は絶対に必要だ。この子は剣士みたいだし、僕だってこの見た目だから剣士として誘われたはずだ。
「ふっふっふ……」
目の前の少女が、何やら不敵な笑みを浮かべている。……ちょっと変わった子なのかな。
「実は私、回復魔法も使えます!」
「おー」
珍しい。
回復魔法自体は、冒険者の五人に一人が使えて、別に珍しくはない。だけど、回復魔法が使えるのに、少女のように剣士になる冒険者はかなり珍しい。なぜかというと、回復魔法が使えると大抵のパーティーに歓迎されるので、わざわざ前衛として戦わなくてもやっていけるからだ。
「というわけで、いざ、ダンジョンに潜りましょうか!」
本当はもっと大人数の方がいいって言うべきだろうけど、まあ第1層ぐらいならこの子も安全に戦えるだろう。
「わかった、行こうか」
「私はレイナ、よろしくね」
「僕はカイ。こちらこそ」
俺たちはギルドの扉を開いた。
よろしくお願いします。