序-6
無論、陰間茶屋には女性の接待客もあり、子を産むか流すかどうかについて、一定数の人間に情念濃い波乱に満ちた騒動が勃発したこともあるであろう。
名無しの権兵衛……語り部の老人に色を鬻ぐ前に拾われた毒薬研の生い立ちは、詳細な情報こそ不明のままだが、京育ちのそれなりの家系であったものの、没落零落した華族が金の工面をするために、我が子をどこぞと知れぬ茶屋に売り渡したというのが、大まかな事情である。
なにゆえ、金に喘ぎ苦しむようになったのかその事情は未だ未知のままであるが、語り部の老人が今代の毒薬研を買い取っていなければ、人知れずひっそりと春を売り、最悪の場合、性病やら何やらに罹って死んでしまったかもしれない。毒薬研が物を右から左へ移すように売買された場所は、色を売り夢を見せる水商売の場所としてはあまり環境の良いところではなく、露骨な表現を用いれば、買い取った若いつばめを使い捨てにする場所であり、ほとんど奴隷と表現して躊躇迷いのない、最悪な環境だったのである。
そうして……九死に一生ほどではないものの、窮地から脱することが出来た毒薬研ではあるが、彼が次に渡り鳥のように移り渡った場所は、陰間茶屋とどちらがマシなのかと問われれば、答えに窮する。
簡潔に事情を述べるのであれば、毒薬研の新しい当主を造るべく肉体改造を受ける。その製造法はとてもではないが、地獄における餓鬼のような有様で、脱走か逃走か脱獄して、路傍でうち捨てられるように死に、無縁仏になった方が余程、人道的で潔かったことであろう。