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業物漂流異譚  作者: 有智ユウ
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序-1

農民も平民も武士も関係なく、屍血山河を造り上げ、合戦の場を地獄が如き野晒しを造り上げた戦国乱世から、徳川が平和安寧の時代を構築した江戸時代の時節のことである。


一寸の虫にも五分の魂というが、供養の対象から離れた屍の亡骸が曝首しゃれこうべを晒しがしゃどくろなる、皮はカラスや野犬共に啄み、時には食まれ、外皮はなくなり、肉は刮げ陥るように腐敗し、血液に至っては大地に黒い染みを作るように僅かに遺った腐敗液と共に流れ、戦火の影響で長い間草木も生えない大地に染み込み濾され、どれほど長い年月が経過したのであろう。


数千年ほどの長い年月は経過していないが、数十年を有に超えた数百年後の武士・民草・武士を交えた民草の存在が、時には徳の高い和尚や坊主の手により丁重に供養されたが、戦火の跡地である戦場に赴き、草の根を搔くように細かい細部を確かめれば、戦火の名残が確認できる既に終わった出来事として、戦国の忌避にして大量の戦死者を生み出した戦渦は人々の記憶から忘れ去られる……と云うことはなけれども、意識が薄れ始めていたことは確かであった。


二千年現代の人々に分かり易く敢えて説明するならば、ナガサキとヒロシマに二度投下された人類史上最悪の熱兵器が投下された事実を、今の若人と中年の年代にあたる人物は、歴史上とそして知識上、認知認識していたとしても、自己と自身にはあまり因縁浅い出来事だと捉えてしまうように、禍の瑕疵はどこか茫漠と薄れていってしまっていた。


人々が羽虫のように死に、塵芥のように散り命を潰えた乱世の記憶を如実に語ることが出来るものがあるとするならば、その時代に生きてた者に限られる。


だが――安寧なる時代が訪れた現在、数百年ほど前の戦争を生々しく語ることが可能な生き証人というものは存在しない。


それは大名の血腥い派遣争いにより戦争にかり出され死亡したというよりも、人間の寿命が数百年という年月を生きるほど長寿の生き物ではないからだ。


だがしかし……生き証人ではないが、殺し合いの体験と経験者ではないものの、その時代の話を語るものが存在していたのは確かだ。それは子守歌のように先祖から昔話を聞かされ、命の儚さについて実情のある憐憫の悟りの感情と共に、徳川幕府の庇護下のもと無邪気に生きる子供達に、とある老人が昔話や伝承のように云い聞かせていたのである。


……とある、秘密だけを隠して。

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