勇者の大冒険最終章~魔王死亡、そして…~
2019年3月12日午後6時39分。魔王城謁見の間入り口付近にて。
「遂にここまで来たか。この扉の向こうに魔王がいるんだな。」
勇者と呼ばれる男が言った。
「ソウダヨ。扉ノ向コウニイルハズナノニトテモ強イ力ヲ感ジルヨ。今マデノ敵ト比ニナラナイヨ。」
ノワールと呼ばれる妖精が言った。
「…そっか。足がガクガクしてるよ。…正直魔王と戦うのが怖い。でも、こいつを倒さないと姫様を救うことはできないし、村の人たちも平和に暮らせないんだ。」
「ソウダヨ。ソレニ、魔王ヲ倒セル力ヲ持ッテイルノハ、アナタダケ。コレハアナタニシカデキナイコト。…世界ヲ救エルノハアナタニシカデキナイコト。ダカラ、ヤルシカナイ。」
「ノワール。…魔王を倒したら全て終わるんだよな。魔王を倒したら、…まずお前の大好きなチョコレートでも食べるか。」
「イイネ。チョコレート。早ク食ベタイ。」
「よし。そしたら早く倒すぞ。準備はいいか。」
「ソレ私ガ言ウコトダヨ。私ハイツデモ大丈夫ダヨ。」
「そしたら行くか。おし。」
そう言って勇者は扉を開けた。
同時刻。魔王城謁見の間にて。
「遂に来たか勇者よ。」
魔王と呼ばれる男とも女ともつかぬ人間らしき者が言った。
「出たか魔王。さあ、姫様を返せ。」
「返してほしいなら、我を倒してみせよ。」
「当たり前だ。お前を倒して、世界を救うんだ。うおおおおおお…」
勇者のその一言を皮切りに、魔王との戦いが始まった。魔王はやはり強く、打撃一つ与えるだけでもかなりのダメージであり、完全回復の効果を持つポーションを何十個も消費した。勇者の攻撃力も高いと言えるものではなく(人間離れの数値ではあるものの)、魔王の弱点である胸部の宝石に何度も攻撃を入れたものの、魔王へのダメージは大きいと言えるものでなかった。しかし、少しずつではあるが確実にダメージが入っているようであり、魔王も少しずつ攻撃の勢いが弱まっていった。そして、何発目かの勇者の一撃により、魔王は大きなうめき声をあげ、倒れた。
「勇者がこれほどまでとは…」
そう言い残して、魔王は消えた。魔王がいたところには、何も残っていなかった。最初から何もいなかったかのように。
同日午後7時17分。魔王城謁見の間にて。
「よっしゃー。魔王を倒したぞ。…ノワール。姫様はどこか…ノワール。どうしたのか。何か様子がおかし」
グサッ。ノワールの口から鋭利な舌が出てきて、それが勇者の心臓を突き刺した。
「ノワール…なぜ…。」
「…姫様ト呼バレル彼女ハ…ハジメカラ存在シテイナイ…ソコニアルノハプログラム…私ハソレヲ統括スルプログラム…ソウイウ世界ナノ…。」
「姫様は…いない…のか。そしたら、…俺は…そしてプログラム…とは…一体。」
「コノ世界ヲ司ルモノ…コノ世界ソノモノ…アナタモ、私モ、プログラム。魔王モ、モンスターモ、ソシテコノ場所モ。…ソシテ、勇者ガ一度死ンダラ、セーブシタ場所二戻サレル…。」
「セーブ…ってなん…だよ…。どうして…俺に…こんなことを…。」
「…プログラムダカラ。魔王ヲ倒シタラ自動的二発動スルプログラム…私ニハドウスルコトモデキナイ…言ワバ呪イノヨウナモノ…ソレハ、アナタモ同ジコト…アナタガ死ヌト…コノゲームモゲームオーバートイウ形デ終ワッテ…セーブシタ場所ニ戻ル…ソノ繰リ返シ…デモ、誰モ知ラナイ…ダカラ、…誰モ止メル事ハ出来ナイ…終ワリノナイ大冒険…。」
「…どう…して…誰が…そんなこと…を…。」
「時間ガ来タヨウダ。…サヨナラ…勇者…ソシテ、セーブシタ其ノ先デ、マタ会オウ…。」
ノワールは終始淡々とそう語った。彼はどのような表情を浮かべているのだろうか。勇者の目には写らなかった。そして、絶望に打ちひしがれ、涙を流しながら、勇者は倒れていった。
そして、世界は書き換えられた。
GAME OVER
2019年3月13日午前7時11分。魔王城謁見の間入り口付近にて。
「遂にここまで来たか。この先に魔王がいるんだな。」
勇者と呼ばれる男が言った。
「ソウダヨ。扉ノ向コウニイルハズナノニトテモ強イ力ヲ感ジルヨ。今マデノ敵ト比ニナラナイヨ。」
ノワールと呼ばれる妖精が言った。
「…そっか。足がガクガクしてるよ。…正直魔王と戦うのが怖い。でも、こいつを倒さないと姫様を救うことはできないし、村の人たちも平和に暮らせないんだ。」
「ソウダヨ。…世界ヲ救エルノハアナタダケ。…アナタ…ダケ。」
「…どうしたんだノワール。」
「…ナンデモナイ。ソレヨリ魔王ヲ倒シニ行コウヨ。」
「…そうか。…魔王を倒したら…あれ。何か大切なことを忘れているような。忘れちゃいけないとても大切なこと。…気のせいか。…そうだよな。…魔王を倒したら、まずお前の大好きなチョコレートでも食べるか。」
「…ソウダネ。チョコレート…アナタト一緒ニ…。」
「…さっきからおかしいぞノワール。いつもだったらチョコレートって聞くだけで機嫌良くなるのに。」
「…魔王ノ前ダカラ…チョット緊張シテイルノ…カナ。」
「そっか。それは俺も同じだから…早く倒して、一緒にチョコレート、食おうぜ。」
「ソウダネ。行コウカ。」
そう言って勇者は扉を開けた。
ノワールの顔から一筋の雫が、ぽたりと小さな音を立ててそこに落ちた。
勇者の冒険は終わらない。
そこに端末があり、そしてそれを誰かが操作している限り。
といったところですかね。
長編を前書きからほったらかす適当屋さんですが(長編の方はいろいろと考えてますけど気が向かないので更新とかは未定ですかね?)、星野さんのようなショートショート書いてみたいと思ってちょっと書いてみました。
まあもちろんあの人に比べたら全然なんですけどね。
とりあえずしばらくは短編でも書きだめて気分で上げていこうかなという感じですね。
ここまで読んでくださりありがとうございました。