空気よんで・・・
――ワタクシは、このかたに命を助けられたのです!!
――このかたは、ワタクシの命の恩人なのです。
――だから、この勇者さまについていきます! 恩返しをしたいのです。
なんて、義理堅い良い子なんだ!! なかなか、いないよ~、最近は。ちっちゃいのに立派だなぁー。命の恩人だなんて、相手もさぞ立派な人。いや、立派なゾンビなんだろう…。いったい全体、そいつはどこのどのゾンビなんだ!!
なんて、のん気に感心している場合じゃない。マズイ! オレじゃない。オレはこんな子を助けた覚えはない。だいたい一目、見れば忘れられないほど、可愛い子だ。
いや、助けたいのは山々だけど、この異世界、来たばっかだし。むしろ、オレのほうも助けを必要としている感じだし? オレにもギブミー命の恩人!
「この勇者さまは、ワタクシの身代りにゾンビに噛まれたのです。ワタクシを抱きしめ、必死にゾンビから庇ってくださいました。」
「あんなに、温かく、安心できる腕に包まれたのは初めてです。家族ですら、そんな風に…されたこと無かったのに…。異世界から召喚されたばかりだったのに、何て、勇敢なかたなんでしょう! ワタクシは震えてばかりで、何も出来ませんでした。昔、剣や弓を習っていたことすらあるのに…。自分が恥ずかしいです。だから、今度はワタクシがどんな魔物からも貴方をお守りいたします。」
そう頬を染め決意をにじませて微笑む少女は、気品に満ち溢れ神々しさすらある。
「そうだったんですか。私、さっきひどいこと言ってごめんなさい!」
「私も、誘拐犯だなんて言って申し訳ないわ。この子のヒーローだったのね」
「女の子の身代りになるなんて。やだ、何! このイケ死体!」
(トゥンク・・・・)女子の目は、先ほどの汚物を見る蔑ずみの目から尊敬とトキメキの目に変わる。すがすがしい程の掌返しだ! 女子高生!! 許す。
「なんと! そんなことがあったのか。はよう言え、大馬鹿者!!! そんな事情なら、お前の世話も喜んでするぞ。すまんかったな、俺はお前さんを誤解しとったようだ」
ドワーフ爺(日本人)はそう言って、さらにオレに対する誤解を(勝手に)深めている。「そうっすよ~。水臭いっすよ。同じ勇者仲間じゃないですか-」「奥ゆかしいのね」「見かけによらず、根性あるな。お前。ウチの若いやつよりミドコロあるじゃねえか」
オレの持ち株が突然のストップ高状態。今売りきれば大儲けか? いや、駄目だ。正直に知らないと話せば、「最低!!!」「騙したのね?」「やっぱりゾンビは信用できない」「卑怯者」「死んで!」
「あ、ゾンビ違いでした。ワタクシ、やっぱり違う勇者さまに付いて行きます」
って、ことになるかもしれない。いや、なる。なに、この騙してないのに、騙した感。泣きたい。
「あ、あ、、あ、、、あ、アレ? あの時は、まあソレでそんな感じで。お互い大変だったよね。何はともあれキミが助かってよかったよ」
笑顔を貼りつけ、美幼女に向かう。圧倒的な胡散臭さを自分でも感じる。美幼女から目をそらしつつ、自分の頬を掻く。あ、やべ頬肉はがれた。
「おっそろしい、ゾンビだったからねえ。キミが震えて動けなくてもシカタナイヨー」
「いえ、おじいちゃんゾンビでした。ヨボヨボでした。よわよわでした」
「・・・そうだったんだけどね~。初めてだったから怖かったんだよ!!! hahahaha☆」
キレてはいけない。意外とこの美幼女空気が読めない。命の恩人が困っているんだから助けてくれよ…。オレは嘘が下手くそなんだ。具体的には、長年勤めた会社を辞める時、最後の挨拶で「悔しいです!」って言いながら、満面の笑みを浮かべて最後上司にタコ殴りにされた位だ。
「…お前さん、何か変だろー。本当にこの子を助けたんかー?」
「もちろん、その、助けてたらいいなぁと。ほかにも、たくさん助けていたような、いないような? ちょっと、記憶が曖昧で。」
「ゆーて、覚えてないって、こんなカワイイコ見たら忘れないっしょ?」
苦しい! そうだこんな美幼女忘れるわけがない。
あらためて、美幼女をじっくり観察してみる。年のころは、14歳くらいだろうか? 西洋風の顔立ちだから、大人っぽく見えるだけで実際はもっと幼いかもしれない。
腰までの長い金髪は枝毛なんかない(断言!)ツヤツヤでサラサラでウルルンだ。今期、シャンプーのCMで使いたい娘No.1だ。
目は碧眼で海のように深くて、でっかい。まつ毛まで金髪だ。マッチ棒も余裕で乗りそうだ。びっしり。
鼻筋は通っているが、高すぎず低すぎず、完璧な鼻梁だ。バタ臭さは皆無。
手足は当然のごとく、すらりと細く、白さと長さが美しい。身長は130後半?
着ているものが、地味でそれだけが残念だ。露出は少ない。誠に残念。一般的な綿で出来たワンピース。ベージュの柔らかく動きやすそうな服だが、彼女にはもっと…。まあ。服が地味だったとしても、本人が可愛すぎるので問題ないが。もしも、もっと可愛い服なら、さらにドン! 倍、可愛くなるのに残念だ。まだ幼いので体つきは、正直ツルペタだ。問題ないけど、あってもいいけどね。
「身に覚がないんだな!」「ハイ、スイマセン!覚えがな・・」「そうですね。当然覚えてないと思いますよ。」
小心者のオレは速攻、謝ってしまったが、何故か美幼女があっさり肯定する。
「「「「「えっ?」」」」」
いや、チョッ、待てよ? そういえばこの子、さっきゾンビを「おじいちゃん」って言っていた。そうだ、オレを噛みやがったゾンビはヨボヨボでよわよわの翁ゾンビだった。何故、それを知っているんだ。美幼女をじっと見つめると何故か目を逸らされた。
(……?)
「あの、ゾンビに噛まれて失神していたので、覚えてなくても全然、不思議ではないと思います。むしろ!! 思い出されないほうがいいかと思います。」
こちらを気遣ってくれているようだ。美幼女は、くるりと後ろを向いてしまった。
その瞬間、オレはすべてを思い出してしまった。
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次回、(やっと)運命の出会い!思い出話編
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おまけ
しかし、なんだろう? なにか…こう、違和感っていうか、近視感が。これがデジャビュ?
ジーーーーーっと見つめる。
マジマジ・マジマジ・・マジマジマジ・・・マジぁチアチアッチチ!!!!!
「目ぇええがああああ!! オレの目ぇええがああああ!!!」
「どうした、ムスカ!?」「いや、誰?ムスカ!?」
オレの目が~! 美幼女と目が合うと神々しさで、目玉焼きのように焼かれる!
「どうやら、あの子『光属性』のようね。貴重だわ」
「ゾンビは『闇属性』だ、浄化されるぞ」
「どうやって一緒に旅するんじゃ…」