死体であっても心は錦?
納得のいかない勇者20名とゾンビ1体は、しかしながらどうすること出来ず、仕方なく指示通り城の一階ロビーに向かう。
「オレたちは、無力だ。とりあえず現時点では! だが、神様に選ばれた勇者なんだ。魔法や伝説の剣とか使えるんじゃないのか?」
「そうだよね、意外と何とかなるかもね。すぐ、大魔王倒しちゃったりしてぇ~。」
「それな。つーか、とりま風呂入って飯食って寝たいんすけど。スマホないとかマジ積んだー、みんな荷物持ってきてないもんね」
ライトグリーンに鮮やかな黄色のラインが入ったユニフォームを着た男が、皆を励ますように明るく言う。野球のユニフォームのようだが、見たことがない。草野球チームの監督とかだろうか?
次に続いたのは、10代の男女だ。黒いセーラー服を着たショートカットの活発そうな女子高生と、だるそうにポケットに手を突っ込んで歩くマックのバイト君。
鬼畜眼鏡(コーちゃん♥)もポケットに入れていた財布がなくなっている、とぼやいている。そういえば、日本時間で朝10時くらいに召喚されたからもうお昼はとっくに過ぎている。
なにやら、自己紹介が始まっている勇者達のうしろを少し離れて歩いて行く。先ほど、女子高生に話しかけようと近づいたら、ダッシュで逃げられた。ゾンビの宿命かと、今は諦める。決してオレ自身がキモイとかじゃないはずだ。生前の容姿は、それなりだったんだ。自己評価だけど。
「お。来たか!! こっちだ」
廊下の踊り場にさしかかったとき、下から大きなダミ声をかけられる。60歳くらい、ドワーフのような太い腕をした元気なおっさんが手を振っている。その後ろには、鉄の鎧を身に着けた戦士や水着のようなアーマーを身に着けた女性、盗賊服、侍の着物と、これぞ、「ザ・冒険者」の見本市みたいな人間が所狭しとひしめいていた。
想像していたより、人数が多い。50名は集まっている。
「歓迎するぞ、新米勇者。俺は、臼井 猛。城下の商業組合の、一応会長をやっとる。また、お前らみたいな異世界から来る新兵の世話役もだ」
「あと、名前からわかると思うがお前達の先輩でもある。俺も40年ほど前に異世界勇者として召喚されたんだ。今は、ドロップアウトして、しがない鍛冶屋のジジイだかな。遠慮なく、頼ってくれ! とりあえず、飯と住むところ、用意しとるからついて来い」
「マジかよ、ホント!? 助かるわ」
マックのバイト君が、小躍りする。
「おうさ。ここにいる冒険者も半分は、日本人だ。この世界の冒険のイロハも、一からちゃんと教えてやるぞ」
「やったぁ!! 日本人同士なら安心だよね」
女子高生も笑顔だ。みんな、まさかの同郷勇者の登場に”ほっ”としている。しかし、オレは嫌な予感がしていた。40年ほど前と言っていたが、そんなに戦っても戻れない。それどころか、カマ大臣ヨナタンは、大魔王の手がかりさえもないと言っていた。と、いうことは・・・
「ド阿呆! こいつ、40年も元の世界に帰れてないんだぞ!? それどころか、この世界に永住する気やないか。そんな奴が頼りになるんかい?」
コーちゃん♥こと、山本鋼太郎が吼えた。
「お、けったいな兄ちゃんやな? もう元の世界は諦めな。皆ここで所帯持ったり、冒険者として、この世界に根付いとる。住んでみれは、いいところも結構あるぞ。心の整理がついたら、この世界で身のふりかた、早いとこ考えたほうがいい。」
そして、クルリとふりかえりオレを指さす。
「ただし、そこのゾンビはすぐ出てってくれ。事情は聞いとるが、ゾンビは弱いが感染する危険がある。その気がなくとも人間とは暮らせん。犠牲者が出んうちに、森にでも行ってくれ。」
「待ってください!!!」
オレは、今日はじめて声を張り上げる。元の世界にも人間にもすぐには戻れないなら、仲間が必要だ。今、頑張らねば、外に出ても魔物にやられるか彼ら勇者達に狩られるか、どっちかしかない。
そうなれば、今度こそ本当の死が訪れるだろう。
「オレは、ゾンビでも勇者になります。お願いです。仲間に入れてください!」
「えっ、でもさっきヨナタンが言ってたし。王様命令だしさぁ・・・」
「いつ完全なゾンビに覚醒するかも分からない、危なくてうちのPTは無理ね。」
「臭いし、ムリムリ。」
周囲は一斉に、冷ややかな反応を示す。オレは、手をついて土下座をした。すべてを賭けるしかない! 誠意をみせて、とにかく誰か一人でもいい! 味方を作ろう!!
「さっきは、近衛兵に撃たれるかもしれないから反論できなかったんです。オレはいいゾンビです! 誰も襲いません! 約束します! 下っ端でいいので、何でもしますので、どうかお願いします!!」
頭を下げ、10秒間心の中で数えあげて、顔を上げる。今までの人生で一番長く感じた10秒だ……。しかし、残念ながら、みんなの心を動かすことは出来なかったようだ。畜生、なんでオレなんだ。オレだってみんなと一緒だったはずなのに、オレだけが…。涙がこぼれそうな程なのに、目は乾いていた。そうして、オレは森へ……。
「待ってください!!!! 勇者さま、待って!
僕がいます!! 僕を連れて行ってください!!!
あなたと共に行きます。何処へでも行きます。
この命を懸けて、あなたをお守りします!」
みんなに見送られ、重い扉に手をかけて城から出ようとしたとき、そんな必死な声がホール中に響いた。
黄金で出来た鐘が奏でるような、美しい声だった。一瞬、何ごとか分からなかった。まさか自分を今さら、勇者さまと呼ぶ者がいるとは思っていなかった。だが、咄嗟にふりかえっていた。ただ、この、必死で美しい声の主を見たかったからだ。
そうしてふりかえった先にいたのは、階段の踊り場で弾む息を必死に整えオレを見つめている、ピンク色の薔薇の花びらのような美しい少女だった。
皆だいすき美幼女登場。思ったよりも話が進まない・・・