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野に帰るゾンビ

「ただいま王よりご紹介頂きました、あたくし、大臣のヨナタンと申しますわ。んっふふ! 今から、ゾンビきゅんでもわかる簡単説明をしますので、聞いてねん☆」


チョビ髭 カボチャパンツの大臣おっさんが あらわれた!

こちらに 攻撃ウインク♥を しかけてた!

勇者は こころが しんでしまった!


 紫のルージュにアイシャドウ、濃いピンクのチークの化け物だ。生足にはすね毛が見える。恐ろしい。まだこの伏魔殿しろには魔物がいたらしい。SAN値が、ごりごり削られる。


「皆、もう分かったように、この世界にはこわぁ~い魔物がイッパイいるのん。いくら勇者さまでも、一人じゃペロって食べられちゃうわ。

いや~ん! ヨナタン、そんなの見たくない!!」


 オレは、もうこいつを一秒たりとも見たくない…。しかし、魔物おかまが人の心を解すわけもなく話を続ける。


「だぁ~から、皆でパーティーを組んで、敵を囲んでボコるのよ。嫌、野蛮!! ……でも、そういうのも嫌いじゃないわ。」


 会場にいる勇者たち(♂)がざわめきだす。こんなのが大臣でこの国は、大丈夫か?よっぽど、死んでしまった大臣が優秀だったのだろう。


「魔物の金玉、やあああだあああ! 言い間違い☆」


「んフ、親玉の大魔王を倒せば、魔物も消えるし、元の世界にも帰れるわん。しかも、この国だけじゃなく、各国からの莫大な報奨金も貰えるわ。

 いい男を並べての酒池肉林も、おもうがままよ!」 


よだれを垂らしながら、ヨナタンが両手を振り上げる。


勇者たちの目が死んでいる。全員の心が今一致する。

―――駄目だこいつ…早くなんとかしないと…。


「初期装備が揃えられる軍資金として、10万クソあげる。まずは、頑張ってレベル上げしてねん。あと、一階のロビーにこの国の冒険者を集めたから好みの相手に『恋の狩猟ハント』かますのよ!」


「そんなわけで以上、ヨナタンの簡単お手軽説明終わり! じゃあ、質問がある人は挙手してちょうだい♡」


 はっきり言って、聞きたいことが山程ある。が、ヨナタンには聞きたくない…。あと、金の単位がクソとは、この国にピッタリだな。10万という金額が、十分なのかよくわからない。そういえば王様は、『金に糸目は付けぬ!』と言っていたが――。


 …あれ、てか王様ゾンビの話は? ゾンビから元に戻る方法があるんじゃないのか? 助けてって言ってたが。




 会場には、一緒に召喚された勇者(?)たちが20人ほどいる。男女の割合は半々で、全員日本人っぽい。皆、顔を見合わせ戸惑っている。


 最初の召喚から、怒涛の展開で皆疲弊していた。

幸いなことに、ゾンビ襲撃後すぐ近衛兵が王の間にやってきたので勇者に犠牲者はいなかったらしい。(オレ以外)


 オレは一番王様の近くにいて、驚いてすぐ別の扉から通路に飛び出してしまった。そんで、しゃにむに逃げ回った先で、ゾンビに腕を噛まれた。あの時、王の間から動かずにいれば、助かっていたらしい。悲劇的である。


 しかし、城内ではメイドや兵が多数犠牲になっていた。


 勇者たちだって助けられた直後は、男も女も帰りたいと泣き叫んでいた。そんな状態で、意気揚々と勇者稼業に乗りだす奴なんていない。


 見れば服装だってまちまちで、学生服にスーツにマックのバイト衣装の奴もいる。オレはパジャマだ。どうやら、無差別的な召喚だったらしい。



「数点聞きたいことがある」


 重苦しい空気の中、切り出したのは、前列で話を聴いていた男だ。細身のブランドスーツを着て、シルバーの眼鏡をかけた神経質そうな男。


「うほぉ、いい男!!なんでも聞いて」


 ヨナタンが、前のめりに身を乗り出し男の手をぎゅっと握る。スーツの男は、嫌そうに手を払いのけながら話しだす。


「王がゾンビになったこの国が、当てになるのか?

第一、魔物の王とやらは、今一体何処にいる。

本当に、勇者おれたちに倒せる相手なのか?

倒した後、どうやって俺達を元の世界に返す?

戻れるという保証はあるのか? 

何故、俺達を選んだんだ。」


「それに、この会場にいるゾンビを何故、まだ始末しない」


スーツ男の最後の質問が、胸に刺さる。なんて、嫌な野郎だ。近衛兵はまだ、たくさん突っ立ってこちらに銃を向けている。もし、引き金を引かれたらこの鬼畜眼鏡に化けて出よう。


あたくしは、ヨナタン・グレイよ。

このキャンディ王国の公爵デューク


「ア? 初に名前なんか聞いただろう!

俺の質問に答えろよ、カマ野郎!!」

「…チッ、俺は山本 鋼太郎だ。自営業で商売をしていた。これでいいのか? いきなり、連れてきておいて礼儀だ何の、まったくいいご身分だなァ」


 男は、鼻で笑いながらそう言ってヨナタンを見下ろす。冷酷な瞳だ。当初の佇まいとは雰囲気が変わり、凶暴な肉食獣のような印象を受ける。これは、「ヤ」のつく自営業なのかもしれない。食ってかかるのは止したほうが身のためだ。


 ゾンビでもヤクザは怖いのだ。


「まあ、コーちゃんよろしくね♥仲良くできそうね、あたくしたち」


「そして、質問に答えるなら、

……『全部、分からない』よ。

勇者の召喚は、何度もしているけど大魔王を倒すどころか見たものさえも、まだいない」


「魔王を倒せば、神様の魔法で勇者は戻される、という伝承はあるわ。あたくしたちの魔法では、召喚のみしかできない。召喚魔法を唱えるだけで、勇者を選ぶのは神様だと言われているわ。もっとも、神様に出会ったものもいないのだけれど」


「あと、陛下ゾンビのことだけど外遊中の2人の王子あととりがいるし国のことは問題ないわ」


「陛下は、ああ仰ってたけどゾンビを人に戻す術は聞いたことがない。そもそも、普通ゾンビになれば人間を貪るだけ。陛下や後ろの坊やみたいな人間性は無くなるはず。でも、陛下を助けてくれるなら、この国は何でも差し出すわ」


 そしてヨナタンは、鬼畜眼鏡からオレに視線を移し、言い募る。


「そっちのゾンビきゅんを殺さないのは、陛下のご温情よ。だって、二人は齧られ友達なんですものね。せっかく、勇者としての才能があったのに残念だけど。この城下町を出るまでは、身の安全を保障するわ。あとは、人里離れた野に下り狩られないよう慎ましく生きよ。とのことよ」




 こうして、勇者の引退勧告を受け、いちゾンビとして、ゾンビ生を送ることが決まってしまった。

もはや、ヨナタンが主人公。


ヨ「大事なこと、言い忘れてたわ。ご褒美にヨナタンが欲しいなら、早いもの勝ちよー。ああ、私って罪なオ・カ・マ♡コーちゃん、早く私を迎えに来てね!!」

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