王様とオレとゾンビ
「よっくぞ、召喚に答えてくれた!
我が、勇者よ。
世界を、民を、どうぞ救ってほしい。
……ついでに、儂も救ってほしい」
倒された玉座。引きちぎられた、高級カーテン。どす黒いシミで、カピカピに固まるカーペット。
ホント、よくこんなヤバい異世界召喚に答えてしまったもんだ。前世は大罪人だったのだろう。集まった勇者の顔色は、みな青い。ちなみにオレの顔色は、ヤバい。土気色だ。
しっかし、さすが王様!声に、身振りに、気迫を感じる。とてもTake2とは思えない、迫真の演技、いや掛け値なしの本音か。
「世界は、今、本当に混沌じゃ。
……儂も絶賛混乱中じゃ。
しかし、既に起きてしまった悲劇を変えることは出来ん。
異世界から来た、勇者たちよ。
各地の魔物を狩り、世界に平穏をもたらして欲しい。急にこんなこと言われて、困惑するであろう。だが、諦めてほしい。
いや、違う! 諦めなければ、良くなる!
じゃろう!!! そうじゃろう? な? な??」
急に、取り乱し始めた王様を周囲の人間がなだめる。――遠くから。王様の半径10メートル圏内には、人がいない。王族に対して恐れ多いのかもしれない。だが、王の間に整列している近衛兵の銃口の3割は、王の眉間を狙っている。
拡声器を持った大臣が「ファイト~、何とかなるなる☆」と、進言している。ゾンビから逃れられた、運のいいほうの大臣らしい。フットワークも言動も、超軽い。
ちなみに、オレの周囲にも人はいない。多分、腐臭のせいだ。これなら、腋臭のほうが何万倍もよかった。
「あとは、大臣から詳しい説明を受けるがよい。
すまんが儂は、体調悪い。これで失礼する。
具体的には、腹わたが出ているし、片目がどこかにいっておる。あとで、絨毯に落ちていないかよく探して、持ってくるのじゃ。
踏んだら死刑ーー!!」
「よいか、金に糸目は付けんから。儂を救うのじゃぞ! 世界より先にな。なんの、簡単なほうから取り掛かるのじゃ。」
そう言い残し、人間っぽさを残すゾンビは連行されていった。王様が去ったあと、近衛兵の銃口は、100パーセント同じ先を向いている。
そう、ゾンビの襲撃を受けた2時間前に、王様とオレはゾンビになってしまったのだった。
うっかりでは済まされない、33歳独身、元フリーターのほろ苦い異世界デビューの日だった。