武器選び
「こんにちはー、ウスイさん、元気~? オレオレ、約束通り武器買いに来たぜ!」
「ぬお! えらく怪しい恰好をしとるのう。新手の詐欺師かと思ったわ」
「こんにちは、ウスイさん。元気そうですね。今日、戻られたのですか?」
「おう、嬢ちゃんか。随分、可愛いくなったな。ああ、朝に新人勇者とダンジョンから戻って来たとこよ。悪いな。昨日、店に来てたんだろう」
オレ達は、昨日空振りに終わってしまったウスイ鍛冶店に再挑戦しに来ていた。ダンジョン明けの店主、臼井猛は、元日本人と思えないような立派な太い腕をムキっとさせながら、遅めの開店準備に励んでいた。
「予想以上に新米勇者どもが軟弱で、苦労したわ。低級のモンスターにも悲鳴を上げて逃げ回るとは情けない」
そう、愚痴りながらため息をつく。引退した老体には、冒険稼業は堪えるたのかわずかに疲れが残ってそうだが、オレよりは断然顔色もよく、元気そうに見えるので大丈夫だろう。
昨日も思ったが、さすが城下の商工会の会長が経営する店だけあって、なかなか堂堂たる店構えだ。中に入ると、そこには古今東西の武器らしきものが所狭しと置かれており、圧迫感さえ感じる。昨日の臨時休業分を取り戻すかのように、従業員も張り切って仕事に精を出している。
「して、武器の目星はついとるんか?」
「僕は、職業戦士なので大抵の武器は装備できますが、まだ決めていません。う~ん。なにか、ウスイさんのお薦めの武器はありますか?」
ミッシェルは、戦士なので基本的には剣、斧、槍、棍棒など接近戦で使用する武器ならなんでも装備できるそうだ。逆に武器の選択肢が多すぎて、困るくらいだそうだ。装備可の武器がゼロのオレにしてみれば、なんて贅沢な悩みなんだ……。
「戦士とは手堅い選択だ、ふむ。嬢ちゃんにも使えるとなると、オーソドックスにレイピアなんてどうだ? ウチのは、格別に軽いがちゃんと刃こぼれもせんし」
「レイピアですか、それもいいですがちょっと攻撃力に欠けますよね。やっぱり、両手剣が理想的、魔法が付与されていれば尚良しです」
「おいおい、両手剣なんかその細腕で扱えるんか? しかも、魔法付与付きの武器なんてウチはいいが値も張るぞ。幾らくらいで考えとるんだ。おい、スミス。お前さんの武器も必要だろう?」
おっさんは他意なくそう聞いてきたが、残念、オレには武器が必要ない。何故なら、攻撃力皆無の職業ヒーラーになってしまったからだ。その分、ミッシェルの武器に資金を回せるんだがな。
「オレは、ご当地職のヒーラーになっちまったからよ。武器必要ねえんだわ。だから、ミッチャンの武器に最大8万までなら出せるぜ」
ちなみに、防具に関しては、オカマ大臣ヨナタンがよこした服に冒険者仕様に防御力UPの魔法が付与されているらしく買う必要がない。とても助かるが、なんであんなに優しいのか、狙いは何だ?? 体か? 冒険者として大成したら、ちゃんと謝礼を持って行った方がいいかもしれん。
店内の目に着いた武器を手に取ってみる。細かい意匠がされた、華麗な片手剣だ。刃の部分が炎のように波打っている「フラムベルク」。RPGでも序盤で持ってると助かるヤツだ。お値段は、……ゼロが一桁多い。とてもじゃないが、買えんじゃないか。
「なに!? お前がヒーラーだと。死体が治療役とは、なんとも言い難いな。そうすると、嬢ちゃんだけでモンスターを狩るつもりか。それなら、たしかにレイピアでは心許ないだろうな」
「大丈夫です。これでも、腕には多少の自信があります」
「そうそう、そこらの変態どもはたやすく蹴散らせるくらい、ウチのミッチャンは凄いんだぜ!」
オレは、誇らしげにミッシェルの能力の高さを宣伝する。儂が育てたわけではないが、誇らしい。
「しかし、能力高いからとってもモンスター狩りは初めてだろう? やはり、二人だけのPTは、無茶じゃないか?」
「まあ、今さらそれを言っても仕方ないというか……。最初は、町の入り口に出てくる低級モンスターでレベルアップするしかありませんね」
ミッシェルが遠い眼をしてそう言った。うっ……オレのせいで申し訳ないが、代わりに治療は心を込めてオレはやるぞ!
「嬢ちゃんも苦労するなあ。そうだ、特に武器の形態にこだわらんのなら、試作品の武器を格安で売ってもええぞ。それなら、光魔法も付与してある。後ろに回って着いてこい、俺の工房がある」
店の裏手に回り、辿り着いたのは新しそうな店に比べると随分古臭い昔ながらという様相の鍛冶場だった。
「俺のカミさんが鍛冶屋の娘だったんだよ。だから冒険者を辞めて、修行してこの店を継いだんだ」
ウスイの日本人気質を発揮した、無駄に凝りまくった品質と異世界クオリティのデザインは人気を呼び、どんどん店も大きくなったそうだ。
ウスイはさっそく、奥から件の試作品の武器を取り出してきた。一見すると普通の片手剣に見えるものだが、
「見てろ、これには特殊な鉱物『CTC』を使用して造ってある。この鉱物は、伸縮するほどしなやかさを持っているのが特徴で、今この状態は極限まで圧縮した状態だ。それを、こうやって振ってやることで圧縮が解け、鞭状に形態が変化する」
と言いながら、一振りした途端、全長3メートルほどの長さに解けた。それを、おもむろに鞭のように振り上げ一閃すると工房にあった薪が真っ二つになる。切れ味もよさそうだ。これは、いわゆる「蛇腹剣」と呼ばれるものだろう。なかなか、ニッチな武器だな。
「元の形状にもこの圧縮ボタン一つで戻る。軽量で、遠近両用に使えるから、お前さんたちにとってピッタリだろう。見た目以上に頑丈だし、光魔法の付与により、闇属性の魔物に追加ダメージが与えられる」
「うわあ、凄いです! スミスさん、コレにしましょう。僕、コレがいいです」
目をキラキラ輝かせて、ミッシェルがオレの服を引っ張ている。だいぶ気に入ったらしく、かなりテンションが上がっているみたいだ。
「まあ、難点としては扱いが難しいということだな。一般向けではなかったので、在庫として残っておった。これなら、五万で売ってもいいぞ」
元値の10分の一以下らしい。だいぶお買い得だが、そんなことよりもっとオレはミッシェルに向かい、
「ミッチャンが気に入ったのなら、オレはそれでいいよ」
そう言って、ミッシェルの頭をポンポンなでてやる。命を預ける武器なんだから、本人が愛着を持てるかも重要だろう。すると、ミッシェルは勢いよく宣言する。
「僕、必ず使いこなせるように沢山練習するので、コレでお願いします」
「じゃあ、決まりだな。ウスイのおっさん、この剣貰います」
ウスイは「毎度あり」っとその剣をミッシェルに渡し、使い方のコツまで教授してくれた。よし、これでとりあえずの冒険準備は完了だ。
「そういえば、スミス。お前さん、治療の魔法はもう使ったのか?」
「いんや、神殿のセイロー様も死体に教えることはないっと放り出されたし。なに? なんか特殊なもんなの」
「普通の治癒なら、ヒーラーもクレリックも手を患部に掲げて集中するだけでいいはずだ。もし、不明な点があれば大神官に聞いてみるがいい。あれで、あの女もなかなかの世話焼きだ。……金はとられるかもしれんが」
「うぐっ。金もだいぶ減ったんで、モンスター退治頑張るよ。(ミッチャンが)あと、死体専用特技の『不思議な踊り』も使ってみないとな」
「なにっ!? なんだ、その専用特技とは」
ウスイが、驚きながら聞いてくる。まあ、モンスターの特技なんて知らなかったんだろう。
「んー、詳細は不明なんだけど。なんでも、戦闘中に踊ればSPを相手から奪って回復する効果があるらしい」
「なるほど、これはもしかして……」
こっちの話を聞いているのかいないのか、ウスイがブツブツ呟きながら工房の隅にある在庫品を漁りだした。あーでもない、これでもないわっとガチャガチャやっているのを待っていると、
「これだ。試しに、これを持ってみろ」
と、円形の武器、少し形状が違うがチャクラムっぽいものを二つ渡してきた。
「え、また装備エラーでCV.寺子安さんに叱られるんじゃないの」
「これは『圏』。元の世界では、中国の武器の一つだ。もともと、踊りながら使う武器といわれとったらしい。造ったはいいが、どの職業も装備不可だったから失敗作だ。しかし、これお前さんなら装備出来る可能性あるんじゃないか」
なんだと、ダメ元で手に取ってみると、以前ナイフを持った時のような武器がウナギの如くビチビチ逃げる気配もなく
『圏 を 装備しました』
と、天の声がした。
「おお、思った通りだ」
「うおーーーーーー!! やったぜ、ミッチャン。オレも武器装備出来たぜ」
オレは、嬉しさのあまり外で蛇腹剣の習得に勤しんでいたミッシェルに報告しに出る。
「うわっ、危ないですよ。スミスさん。って、良かったですね、これで、二人でもなんとか戦えますね」
ミッシェルと手を取り合って喜ぶオレ達に呆れながら、ウスイがやってくる。
「圏自体の攻撃力は、弱いもんだ。それも蛇腹剣と同様テクニカルな武器だしな。まあ、使い道がなかったし、それもタダで譲ってやろう」
「「本当ですか」」
わーいっと喜ぶオレたちは、新品の武器を片手にウスイ鍛冶店の中庭で、ウスイさんの奥さんが叱りに来るまで庭木を伐採しまくるのだった。




