衣替え
~~~~時は遡り、某お城お大臣のお部屋にて~~~~
「もう☆そんなに、落ち込まないで!! きっと、いろいろ、これから良くなるわよん」
オカマ大臣ヨナタンは、部屋の隅で体育座りをして、いじけていたオレの肩にそっと手をおいて「いろいろ」を強調してきた。そうだな、人生いろいろ、ゾンビだっていろいろ、悩みが尽きないんだ。
「うわわあああああん!!! オレだって、オレだって、まだ! この残酷な現実を受け止めきれてないんだよ!! それをっ! それをーーー!!」
「うん、ごめんなさい。冗談だったんだけどね…ほんと、すいません」
「謝ってすむなら、王政なんぞはいらないんですーーー!!」
珍しく真顔で謝罪するヨナタンが、オレの現状の悲惨さを物語っている。オレは、乙女のように泣き崩れた。まだ、父さんにも相談してなかったのにーーー!!!
そう、ここで質問ですっ!『ゾンビの体が何処まで腐っているのか?』
オレは、飲み食いは出来るが、排泄はしない。食った物が何処にいったかはさておき、宿屋『バウ』の看板娘、赤毛のアンリちゃんと「いい感じ~」になりながらも、いま一歩、踏み出せないのはこのせいだ。
風呂場で、ソレを見た瞬間、固まってしまった。えっ? 触っていいの、コレ? 危なくない?? 「ふれなばおちん」とは、このことだったのかーー! 勉強になりました、って、違う! マジか!?
『リア充、ち〇こもげろ!!』
と、元の世界の巨大掲示板に書いた呪いであろうか? まさかの、オレ自身がリア充になりそうな時にこの呪いが返ってくるとは!? 忘れたころにくる~、きっとくる~、人を呪わば穴二つである。
「もう! いつまでも、めそめそしないの。いっそのこと、やっちゃう? 工事しちゃう?? いい医者、ご紹介出来るわよん♡」
「結構です」
ヨナタンとお揃いBODY☆は勘弁して欲しい。ヤツの工事が終わっているかは、知らんが。
とりあえず、なんとか気持ちを立て直し、景気づけにビールをもう一杯流し込む。飲もう! 今日は、とことん飲むしかない!!
「今日、呼んだのは、不真面目なゾンビきゅん☆をちょちょっと驚かせて、懲らしめる予定だったんだけど…。なんか、可哀想なことになっちゃったし、それはもういいわね。うん」
ヨナタンは、隣の部屋から大きな包みを持ってきて目の前に、どしんっと置いた。
「これは、私からのお土産よ。中身は、毎晩、私が夜なべしてチクチク仕上げた美幼女限定コスチュームが入っているわん♡」
「これ、あの子に着せてちょうだい。素材は超一級品なのに、私見てられないわん! あんた達、身の回りを気にしなさすぎよ!!」
「おお、ゴスロリ服かー。ミッチャンに似合いそうだな。サンキュー、オカマ」
結構、数がある。どうやら、執務を真面目にしてやつれていたわけではなかったらしい。国の一大事にふざけた大臣である。
しかし、服代が浮くので大歓迎だ。オレもミッシェルもあんまり衣服に気を使わない派だったので、今だに、ミッシェルは地味ワンピだし、オレに至ってはまだパジャマ姿であった。あ、ちゃんと、洗濯はしているので清潔感はあるはずだ。
「いいのよん☆好きでしたことだし。可愛いものは正義だものん。今度、あの子にその衣装で城に来てちょうだい、って伝えてねん」
「おおよ、ミッチャンも喜ぶぜ」
「母親が亡くなったって聞いたわよ。あんたも、たまにはあの子のこと、気にかけてあげてちょうだい。若いのに、化粧っ気もなくって。私があの年頃には、評判のお洒落さんで、もう~つけマイケルだったのに!」
「最後の意味は良く分からんが、ミッチャンのことは、オレに任せろ!」
ミッチャンは、若いし化粧しなくても可愛いんだけどな…。
「あんたの服も少し、入れておいたわよ。感謝しなさい、この私の若かりし頃のものよ。男臭いデザインだから、もう着れないからあげるわん♡」
「ああ…ありがとうございます。(変なやつだったら、こっそり捨てよう)」
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「―――て、ことだから。アイツの手縫いなんて気色悪いだろうが、服に罪はない。着てみてよ、ミッチャン」
「なるほど、わかりました。着替えてきます」
ミッチャンは、適当に白いフリフリレースの甘ロリドレスを選び、別室で着替えて来た。
「どうでしょうか、スミスさん。少し、恥ずかしいのですが…。似合いますか?」
いつになく、もじもじとしながら上目遣いで伺ってくるミッシェル。
「うおーーーーーー!! めっちゃ、かわいーーー! すんげー、似合ってるよ」
白いふんわりとしたドレスに、これでもかっとレースとリボンを贅沢に使ってメルヘンに仕上げられている。お揃いの靴と、白いレースの靴下をはかせればまさにおフランス人形さんである。
おしい!! ここにカメラがあれば、上下左右余すところなく撮りまくって、ミッチャン専属カメコになるのに。そのとき、いいことを思いついた。
「ミッチャン、こっちの鏡の前に座ってちょうだい」
鏡の前に椅子を置き、いぶかしがるミッシェルをそこに座らせると、洗面台から櫛とヘアゴムをもってくる。そのままサラサラの癖のない金髪をとかし、サイドの高い位置に結ってツインテールにする。
「どう、痛くない? 簡単なのしか出来ないけど、たまには縛ってみるのも可愛いぜ」
「わあ、ありがとうございます! スミスさん」
ミッシェルは、嬉しそうに鏡を見ながらツインテールを触り、えらく感激したようだった。満面の笑顔で振り返り、お礼を言う。うむ、これは可愛い。
「よし、お洒落したところだし、今日こそ鍛冶屋に行ってみるか!」
「あ、スミスさんもその前にお着替えして下さい」
おっと、そうだった。オレはまだ、パジャマのままだった。黒いレースのシャツに黒いゴシックなパンツ、エンジ色の膝丈まである上着を手に取り素早く着替える。なんだか、中世英国の似非紳士みたいな恰好だ。
「う~~ん、悪くはねえのか? まあ、最終的にはゴーグル着けるから、何着ても怪しいんだけど」
「おおっ、スミスさん、似合ってますよ。かっこいいです!」
ミッシェルが褒めてくれた。鏡の前に二人で立つと、確かにお似合いというかお揃い感が出てきた。怪しい人買い商人と、儚げな美少女……これ、通報されないだろうな?
「じゃあ、行きますか」
せっかくなので、手を差し出してみるとミッシェルは嬉しそうに繋いでくれた。
「はい、行きましょう!!」
意気揚々と手を引っ張って歩いていくミッシェルが振り返った。まっ白のスカートがふんわり翻る。
「スミスさん、また髪の毛、縛ってくれますか?」
おれは、勿論イエスと答える。今度は、少し凝った髪型を試してみるか~、お団子とか三つ編みとか…と考えながら鼻歌を歌いながら鍛冶屋にむかった。
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おまけ
「じゃあ、もう夜も遅いから一緒に寝ちゃいましょう。夜更かしはお肌の天敵よ」
ヨナタンは、いそいそとファンシーなお姫様ベッドに入り、隣にさそってきた。ウホッ、いい男。やらないか。
「オレ、ミッチャンが心配するので宿に帰ります。お疲れさまでしたー!」
「ちゃーんと、あの子には連絡済みよ。それに、もう正面の門を閉じたから帰れないわよん」
「じゃあ、ゲストルームで寝ますんで。オレ、寝相最悪だし、歯軋りも凄いし…」
「そうなの? でも、大丈夫よ。縛ってあげれば動けないし☆」
「は…ちょ、ちょと、い、いやーーーーー!!」
「ごめんなさい、安眠のため歯軋り厳禁ねん♡」
『ボールギャグ を 装備しました』
「むがーーーー!」




