怪☆漢塾
―――深夜0時、某お城お大臣さまのお部前
「つ、ついに来てしまった…」
オレは、土気色の顔面を器用に蒼ざめさせ、『(推定)ヨナタンルーム♡』とか、書かれているらしい扉の前に立ち尽くす。
結局、あの後「ウスイ鍛冶店」にミッシェルと二人で向かったが、店主は新人勇者を引き連れダンジョンに遠征中で店は臨時休業になっていた。タイミングの悪さに目の前が真っ暗になったが、諦めるわけにはいかない!
慌てて他の武器店に駆け込んだが、手持ちのお金では、初心者用の武器が精一杯であり、とてもではないが、あの見るからにしぶとそうなヨナタンを抹殺するには難しそうな代物だった。そして根本的に、オレの職業は、攻撃が一切出来ない『ヒーラー』であり、剣はおろか、ナイフですら装備不可だった。
~~~武器屋にて~~~~
『エラー、装備出来ません』
「ミッチャン、なんか天の声? 聞こえてきたんですけどーー!!」
「スミスさん、スターテスエラーはそうやって、CV.寺子 安が教えてくれるのです」
「テラしぶいー! オレとしては、CV.くぎゅうううううううう!! 希望します!」
「はっ…! そんなことより、どうなってんだ! オレが剣持とうとすると、得物がするりと逃げてくんですけどー!! ウナギの如く」
「スミスさん、ですから、ヒーラーは武器を装備出来ないんです」
「うるせー!! いいから、なんとかナイフ持つから! ガムテで固定してくれ」
「ひいっ!? ナイフがめっちゃ、ぬめってビチビチしてますー!!」
『自分の入りたくないところへ無理やりに入れられたら、君はどうする? 自分のやりたいことを押さえつけられたら、君はどう……』
「CV.寺子 安がうるせー!! ふぁっきゅー、スナフ〇ン」
「お客さん!! 出てってくれー!!!!」
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「スミスさん、追い出されてしまいましたね(しょんぼり)」
「ミッチャン、こうなったら神殿のセイロー様に頼ろう!」
「!! なるほど、セイロー様ならヨナタンも強く出られないはずです」
「ああ、じゃあ、ちょっくら神殿で浄化されに逝ってくるぜ。来世で会おう!! アイルビーバアーック(サムズアップ)」
「え、ちょっとーーー!! 早まらないでください! 貴方の転生を待つなんて、面倒くさくて僕、嫌ですー!!」
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色々頑張ってみたが、無理でした。オレは敵中、みすみす丸腰無策で飛び込む羽目になった。
だが、よくよく考えれば慌てない、慌てない。一休みして考えれば大したことではない。オレは、逆さになっても、あのヨナタンにその気になることは無いんだから無問題である。策を弄するまでもなかったのである。
ちなみに、ミッチャンはお宿でお眠中である。良い子のR15以下は、夜9時には就寝しよう。
―――コン、コン
「お入りになって、良くってよ☆」
「失礼しやーす」
室内に入ると、かぐわしい薔薇のかほりが漂ってきた。豪華な金で出来た調度品と、レースとフリルがふんだんに使われた天蓋付きのピンクのベットが「ドンっ!」とお出迎えする。
え、なんで執務室にいきなりベット!? このオカマ大臣やる気満々である。
「なんのご要件でしょうか? こちとら、世界を救うため、おお忙しなんですが」
オレは、なるべくベッドから目を逸らして、黄金の机の向こうに座るヨナタンに聞く。さっさと、近況報告でもして、すぐにでも帰りたい。
「あ~ら私、お友達から貴方が毎夜どんちゃん乱痴気騒ぎをしてるって聞いたわよ」
「乱痴気騒ぎなんかしてねー! 普通に酒飲んでるだけだ」
「なら今夜も問題なしね。さあ、私と朝まで楽しみましょう、生を!」
「ビールを略すな。お言葉に気を付けろ、大臣さま」
相変わらずの紫アイシャドウとルージュに、バカ殿のようなピンクのチークで化粧した、恐ろしい姿の怪物がこちらに近寄って来る。
「まぁまぁ、そんなに緊張しなくても大丈夫よん☆そっちに腰掛けて待ってて♡今、おビールを注ぐから」
「はぁ……」
ヨナタンは、キャビンからよく磨かれた二つのグラスを取り出して、黄金のサーバーからビールを注いでいる。改めて見ると、今まで大臣が座っていた机には、書類が山のように積み上げられ、ヨナタン自身も、前回会った時より頬はこけ、げっそりしている。
ゾンビの襲撃で大臣が一人亡くなり、王様もああなった以上、ヨナタンも大変なのかもしれない。ちょっぴり同情…まあ、愚痴位付き合ってやっていいかもしれないと、思い直す。
オレは、言われた通り座ろうと、振り返り椅子を探すが、そんなものはこの部屋には無い。そっちの方角にはおピンクなベットが鎮座している。
―――ま、まさか、ベットに腰を掛けろとういうのか? ん、てか、あの金のビールサーバーおかしくない?
目を凝らしてみると、レバーの部分が何だか怪しい形をしている。怪しいというか、なんというか。男の子なら毎日お手洗いで見るような、金ぴかのご立派様だ。
「あら。そんなに遠慮しなくてもいいのよん」
「いいえ! 下賤な死体ごとき、閣下には、畏れ多いので床で結構です」
オレは、神殿でもしたように床に跪いた。あの時と違い、今度は自主的にだが。
「はい、どうぞ♥じゃあ、かんぱ~い」
ヨナタンは、ベットに腰掛け、一気にビールをあおる。ビールは黄金色に輝き、きめ細かな泡が美しい。美味いんだろうが、先ほどのサーバーから注がれたと思うと…。
―――深く考えるのは良そう、さっさと飲んで報告して即、帰還だ!!
「いや~ん、いい飲みっぷりねん」
「う~ん、美味い! あ、もう一杯は、結構です」
「え~、残念。まあ、せっかちなゾンビきゅんのために本題に入りましょっ」
ヨナタンは、残念そうにグラスを置いてから、オレに向かって体当たりをかましたー! あっという間に、床に押し倒される! コンマ5秒の早業だ!
「うええええ~!? 嘘、嘘、嘘!! 待って、タンマ、タンマーーー」
「な~に?『赤薔薇の誘い』を受けた以上、そのつもりでしょう?」
「ちげー、全然違うわ、ボケぇ。むしろ、殺レルなら殺ルわ! これ以上、なんかすれば噛みつくぞ!? ゾンビにしてやるわ!」
「うっふふ、残念ながらそんなこともあろうかと☆じゃーん、えい。装着!」
「ふんがっ~~~~~~!」
なんと、ヨナタンはボールギャクを懐から取り出しオレに噛ませる。あ、わからない人は検索してはいけません。清い貴方のままでいて下さい。
『ボールギャク を 装備しました』
「う〝さ〝け〝ん〝か〝ーー!!」
天井からCV.寺子 安のいい声が降ってくる。こんな装備品、それこそヒーラーに着けさせたら駄目だろうがー!!
そうして、オレがジタバタしている間に、ヨナタンは慣れた手つきで黄金のロープを使い手足を縛りあげる。
「ふう~、大丈夫よん。皆、最終的には大満足で漢道にイっちゃうんだから♡私に全部任せてちょうだい」
「うがーーーーー!(離せ、オレにその気はねえ!)」
「あららん、大丈夫! 私、慣れないお方をその気にさせるツボ知ってるのよう」
オカマ大臣が、両手をわきわき怪しく動かしながら近づいてくる。
「ふんが~~~~~!(よせ、これ以上は『ノクターン』に引っ越さなければならないぞ)」
「心配性ねン、問題無いのよ。朝チュンならね♡」
「ほげーーーーーー!(死ねーーー!)」
奮闘むなしく、オカマの魔の手により、ズボンがずり下げられる。
「ぐがーーーーー!(やめろーーーー!)」
「あっら、こ れ は…………」
―――チュンチュン
爽やかな朝の光の中、ヨナタンの土産を担いで、オレは宿屋兼酒場『バウ』に帰ってきた。
「あ、お帰りなさい! スミスさん。驚かれたでしょう? 昨日は、勇者様たちの故郷では『えいぷりるふーる』という嘘のお祭りだって聞いて、大臣と一緒に『どっきり』しちゃいました~!!」
じゃじゃじゃーん、「大成功!!」とわざわざ日本語で書かれた札を掲げ、ミッシェルが飛び出してきた。しかし、笑顔だったミッシェルはオレを見たとたん、瞬く間に血相を変えた。
「ど、どうしたんですか!? なんで、泣いているのですか…はっ! まさか、あの変態め! 本当にスミスさんに手を出してきたのですか!?」
ドスを片手に、そのまま城に討ち入りそうなミッシェルの腕を取った。オレは、はらはらと泣きなが首を横に振る。オレは、背中に担いできた土産をそっと床に下ろし、べットに横たわる。
「あ、どうしたんですか、スミスさん…。これは、ヨナタンからのお土産?? 中身は、うわー、フリフリのドレスにコレは男物、スミスさんの服かな? まあ、あの人は、他人の服のセンスだけは悪くないですね」
「…あれ、これはとても重いです。中身は、ジュース? なになに、『ナマケモノでも効くぅ!! 性欲増量、まむしドリンク』『皮膚再生超強力軟膏』?」
―――オレは、ミッチャンの言葉を聞きながら、そっと布団を頭まで被っていた。はやく、人間に戻りたい……。




