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契約

「人払いはすませた。何せ神殿にゾンビが存在るとマズイのです」


 オレ達は、大神官セイロ―に連れられ別室に来ていた。ロココ調のゴージャスな部屋だ。この国の宗教観として、質素とか清貧とかの概念は特に無いのかも知れない。


 意外なことにセイロ―手ずからお茶を入れ、ミッちゃんに勧めている。二人は豪華な椅子に座り女子トークに花を咲かせる。お茶の産地がどうとか。…別に興味がないからいいけど。


 ちなみに、オレのお茶は出ない。興味持ちようがない。しかも椅子もない。今、オレは床に跪く…そう、ジャパニーズ正座をしている。そうしないと、話が進まないからだ。致し方ない。差別は急には無くせない、別にいいだろう。寛大な心を見せよう、なんせ相手は異世界人。話が通じなくて当然である。


 決して、オレは、下からセイロ―のむっちりした太ももを眺めたいわけじゃない。オレが、見たいのはその奥だ…。クソ。見えそうで、見えない……。


「それで、何を求めて神殿に来た。いや、わざわざ言わずとも構いません」


 さすが、大神官らしい。こっちの要件はお見通しのようだ。


「彷徨える子羊ゾンビ…。お前は、今までの行いを悔い改め

 

――浄化されにきたのでしょう?」

「クソ違います。大神官さま」


 さすが異世界人だ。やはり、話しも心も通じない。


「ああ、もちろん冗談だ。お前を試しました。すまなかった。浄化では無かったわね。

 

――火刑ひあぶりになりに来たのだろう? あれなら、よい来世が送れます。保障しよう」


「すいません。オレは今生の保証が欲しくて来たんです。転職斡旋して下さい」


 突如セイロ―は、激高し立ち上がる。


「おお、悔い改めなさい! ゾンビ風情が。己が分をわきまえなさい。これは、神殿のトイレを365日掃除するに値する罪深さである」


―――!!


「視えたっ。黒だ。おお、なんと罪深い」

「一体、何を! こんな時に見ているのですか。スミスさん!!」


 オレは思わず前のめりに、拝んだ所でミッちゃんに後ろからはたかれる。仕方がないだろう? 今のミッちゃんでは醸し出せないエロスだ。


「大変申し訳ございません! 大神官さま。僕たち、どうしても冒険者になりたいのです。無理は承知のうえ、…何とかして頂けないでしょうか?」


「ふうむ…。知っていようが、人間の貴方はともかく、魔物のゾンビに授けられるかどうか。前例もありません。まったく。王といい貴方といい、この国の乱れは酷いものね」


―――!!


「王様のことも知っているのかよ」


「無論だ。アレは、いの一番に神殿に助けを求めてきました。神殿としても、ゾンビ化については、手の施しようは無かったがな。事の顛末、勿論お前のことも知っています。元勇者のスミスよ。来るのが遅かったので、どこぞ既に浄化されたのかと思っていました」


「王様の事はともかく、オレは今も勇者だ。頼む、アンタの力がいる。贅沢は言わない。

職をくれーーー!!」


「いやはや。なんとも切実な響きだな。やるだけ、やってみましょう。では、こちらに署名サインをしろ」


 大神官セイローが提示してきたのは、なにやら文字らしきものがびっちり書かれた一枚の紙だった。


「? これは、一体…」


「それは、冒険者の誓約書です。神と契約して奇跡しょくぎょうを授かるためのな。契約が完了すれば、望む奇跡しょくぎょうを受け、特技スキルが与えられます。では、早く名前を書くがいい。一番上の、空欄部分です」


 いや、待ってくれ。書いてある文字が読めないのだが。何語? 日本語でおk? 今まで普通に喋っていたから、文字も大丈夫だと思っていた。


「この下に書かれている文字読めないんだが。何かびっちり書かれてるし。クソ、文字なんて元の世界と一緒にするだろう、普通。なんて、厄介なんだ」


 てっきり、文字もご都合主義なもんだとばかり。オレは項を垂れる。するとミッシェルが可哀想なものをみるように、こちらを見やる。


「スミスさん、知らない文字は…勉強しないと読めませんよ?」


「知っているよ!! そんなことは。そりゃそうだ。当たり前のことを当たり前に指摘されると、なんかムカつくな」


「スミスさん。これは、契約書ですから下には注意事項が書かれています。神との契約は、基本的に一生涯なので、しっかり確認の上ご契約ください」


 何か現実的な話だな。あれ? これ、ハイファンタジーじゃなかったっけ? まあ、契約内容はしっかり読まないと。生涯契約とはな。老後の年金は付くんだろうか。うえ、長っ! コレ全部か?


「ミッちゃん。悪いけど契約書コレ、オレの代わりに読んでくんない?」


「――チッ!」


 !? 今、舌打ちが聞こえたぞ。幾らめんどくさいからって酷いっ! て思ったら違う人物だ。そうだ、オレのミッチャンが舌打ちなんてする訳ない。大神官セイローだ。


 そして、セイローがおもむろにミッちゃんを羽交い締めにして口を塞ぐ。


「ちょ、ナニゴトーー!?」


「悪いがソレは規約ルール違反です。自分で読んで判断しろ。名前を書くだけ、簡単なお仕事ことでしょう?」


「いや、だから読めないんだって!! 簡単だけど、簡単に書いちゃ後悔するやつなんでしょう!?」


「後悔するか、しないかは自分次第だ」


 いや、こんだけ判りやすいと、後悔する未来が目に見えている。どんだけ悪どいことが書かれているんだ。説明責任の義務はないのか!?


「家に持ち帰って考えさせて下さい。勉強して、契約書ちゃんと読みますので」


「いいえ、今、世の中のお勉強をする時間よ。――痛い目にあってな!」


…騙す気はないらしい。もう、痛い目にあうのが確定だ。


「安心しなさい。ほかの勇者も契約書に署名サインしている。仕方ないわね。ほら今、ここで、署名サインをすれば、2回無料の懺悔そうだんをつけよう」


 なにっ、今ならセイロー様の懺悔カウンセリングがついてくるの? お得!! 今だけ! ってまんま、詐欺じゃねえか。だが、セイローは逃がす気がないようだ。


 それに、モガモガ言っているミッちゃんがそろそろ可哀想だ。ほかの勇者が署名しているなら大丈夫なはず。多分。


「分かった。署名サインしよう。日本語でもいいのか?」


「ええ、かまわないわ。本来は、希望職種も記入するのだが貴様の場合は不要。それは、神の御心に委ねましょう」


「ふ、不安だ…。あ、あとオレの名前勝手に異世界こっちに来てから改名したんだけど。本名じゃないとダメ?」


「ああ、それなら構わない。偽名ってわけじゃないのでしょう? それなら、自分が思う名前でいい」


――スミス

羽ペンで署名する。緊張するな、上手くいけばいいけど。


「ほい、セイロー様。これで、いいんですか?」


「確かに承りました」


 セイローは、ミッちゃんから手を離し素早く契約書を奪っていく。


「はぁはぁ。スミスさん、署名してしまったのですね。僕も読んで、記入しますので待っててください。…変ですね? 特に不審点はありません。クーリングオフ不可? って書いてあるぐらいで」


 脅しだったんだろうか。クーリング(それは)・オフ(それで)大事なことだが、許容範囲内だ。


「僕は、職業は『戦士』にしてみます。一番、装備も特技スキルも充実していますし。ある程度レベルを上げれば、他職種へ転職も可能なので最初は基本スタンダードにします」


 なんだ、最初の職種をずっとっていう訳でもないらしい。脅かせやがって。元の世界のセオリー通り、3年位で嫌なら転職かわろう。


 ミッちゃんから契約書を受け取ったセイロー様は「少し待っていろ」と言い残し、部屋を出て行った。


「それにしても、ミッちゃんが『戦士』とは。イメージじゃあないな。踊り子とか、吟遊詩人とかのほうが良くない?」


 戦士じゃ、危ない水着は装備出来ないかもしれない。あるか知らんが。


「踊り子? 吟遊詩人? 冒険者で、そんな職業聞いたことありません。どうやって、歌と踊りで魔物を倒すのですか?」


 そう言われると、どうやってだろう。滅茶苦茶下手な歌でダメージを与えるとか?


「う~ん。光の魔力を込めて、歌って踊るとか?」


「普通に武器に魔力を込めたほうが早くありません? スミスさんの世界は、変わっていますね」


 ミッちゃん曰く、武具の扱いに秀でた『戦士ソルジャー』、自らの肉体で闘う『武闘家モンク』、回復が得意な『聖職者クレリック』、素早さ一『盗賊シーフ』が基本らしい。


 この中から自分に合った職を選ぶ。他にも、それぞれの国にはご当地職業が存在するらしい。


 例えば、ここより遠い国では『侍』や『暗殺者』などがあるようだ。もしかしたら、『踊り子』『吟遊詩人』『遊び人』も存在するかもしれない。


 ちなみに、魔法は職業とはまったく別らしく、個々の才能による処が大きいそうだ。まったく使えない人間もいて、聖職者なんかの回復もあくまで、魔法でなく特技スキル扱いらしい。ややこしいな。おいおい、慣れるだろうか?





「遅くなったな。確認作業に時間がかかってしまいまして。――スミス、お前の職業が決定した。

お前は『治療ヒーするラー』です」


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