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遊び人と賢者

「――そういや、ミッちゃん。お家の人心配してねえの?」


 オレは、道すがら聞いてみる。以前から気になっていたし。心配してねえことは無いだろうな、三日も帰ってないんだ。―いるんなら、だけど。


「いいえ。僕には家族がいませんから。いえ、違いますね。先月母が病で亡くなりまして、身寄りがなくなったのです」


 それからミッシェルは母親が、金持ちの愛人だったこと。父と腹違いの兄弟は存命だが、ミッシェルをずっと厄介払いしたがっていたこと。母親の遺言に従って冒険者となるため城に行ったことを語った。


「すまん、悪いことを聞いちまったな…」


「いいえ。ずっとお気になさっていたのですよね。すいません。僕から早めにお話しするつもりでしたが、タイミングを逃してしまって。そんなわけで、僕の心配をする人は特にいませんので、そこはご安心ください」

「――すいません、いじわるな言い方して。そんな顔しないでください、スミスさん。元々、家はすぐにでも出たかったのです。ただ、母だけが気がかりで。僕の気持ちの整理は、もうついていますので大丈夫です。」


 笑顔でそう言い切る。

 

 そうじゃあねえかと思っていたけど、やはりである。この年齢で、言動も行動もしっかりしすぎているし。本当はさり気なく聞きたかったが、バレバレなうえ、こちらに逆に気を使わせてしまった。


 こんなとき、いい嘘がうまくなりたい。いや、もっと大人になりたいと思う。肉体的には33歳なんて、立派なおっさんの部類でおかしな話だが。一体いつになれば大人とやらに辿り着けるのか、今のオレには永遠の謎だ。



「そうか、ミッちゃんのお母さんなら美人だろうな。挨拶できなくて残念だ」


「そうですねー、お母様は町イチ、いえ、この国イチの美人でしたよ。でも、お母様がスミスさんを見たら、それだけで心臓止まっちゃいそうです」


「え〝っ、オレの顔はそんなにも…」


「いや、顔はそんなに悪くはないと思います。ただ、顔色その他で台無しです」


「う~ん。なんかエステとかパックとか試そうかな。そういや、お母さんの遺言って何だったの?」


「それは、…人の役に立つ人間になれってことです。それならば、冒険者として勇者さまのお役に立つのが一番の早道かと。スミスさんは、あの、元の世界にご家族はいらっしゃったのですか?」


「オレは、もともと家族はいないんだ。オレたち似たもの同士かもな? それに、その考えいいな。オレも人様の役に立てるようせいぜい努めるぜ。出来るゾンビになれば、それだけ自分の身の安全も確保できそうだしな。もちろん、ミッちゃんのお役にも、ついでに立ってやるよ!」


「僕はついでですか? まったく! 真っ昼間から酔っぱらっているダメゾンビに言われても。はあ。期待しないで気長に待っていますよ、スミスさん」


「んじゃ、この話はここまでとして。サクサク神殿に行こうぜ!」


「了解しました。スミスさん」


「おう! とっとと転職儀式しゅうかつなんて終わらせてやる。巻いていこうぜ!」 


「わかりました! 巻いていきます、スミスさん」

       ・

       ・

       ・

  ~~(巻き巻き中略中)~~

       ・

       ・

       ・

「おい、クソ神官!! オレの転職が出来ねえってどういうこった!」


 オレは米神に青筋を立てながら、神官に掴みかかった。仕事しろよ、この野郎。


「いや、だから先ほども申し上げた通りゾンビの転職は当神殿では出来かねますので…」


「定型文返してんじゃねえぞ! だから、さっき言った通り、こちとら善良なゾンビなんだよ。何かあるだろう、できる職業が。遊び人でいいんだよ!

遊び人でえええええ!!!」


 ミッちゃんが、慌てて止めに入る。


「スミスさん、止めてください。どう見ても、善良なゾンビには見えなくなっています! あと、こう見えて神官は権力者なんです。落ち着いて!」


「それが、なんだよ。勇者さまのが大事じゃねのかよ」


「逆らうと面倒なことになるんです。だいたいさっきから言っている遊び人って何ですか? そんな職業ありません!」


「何を言っているんだ、ミッシェル。遊び人は最初はアレだが偉大な賢者になる可能性が…」


 オレは遊び人の可能性について語りだす。ミッちゃんが、可哀想なものを見るような眼差しを投げつけてくる!


「スミスさんこそ何言ってるんですか? 遊び人は遊び人です。いつまでも、人間の屑です。真理を司る賢者になんてなれるわけないでしょう?」


「異世界なのにー!! 夢も希望もない!!!!」


 オレは、膝から崩れ落ちた。子供の頃からの夢を一つ失ってしまった。遊び人→賢者へ転職なんて夢があるじゃないか。


 子供心に感動した。考えた人は天才だ。素敵だ。だって遊んでるだけでいいんだから。オレはそれを信じて、子供時代勉強せずにゲームしまくったんじゃねえか!! 畜生!


「やっぱ、神殿ハローワークは鬼門なんだよ。他に、バイト探しはいーん・でーのとかないの?」


 神官とミッちゃんが揃って首を振る。どうしよう、途方に暮れていると。


「どうした騒がしい、心の乱れは世の乱れ。悪の始まりです」


 ゴージャス☆な金色の神官服を着た美女があらわれた。髪の色は、紫でしっかり巻かれた縦ロールだ。一束触ってみたい! 口元には、ほくろがあり豊かな胸と引き締まった体。全体的にアダルティだ。神官服には謎のスリットが入っており大変エロい、けしからん、もっとやれ!

     

「申し訳ありません。大神官さま。しかし、大神官さまの手を煩わせるほどの事では…」


「ミッちゃん、誰あの巻き髪の縦ロール様は?」

「しーっ! あのお方、大神官のセイロ―様です」

 ただならぬ威圧感に自然と小声で話し込む。


「あの若さで、この国の神官の頂点に立つお方です。たとえ王家でも、そうそう頭が上がらないほどですよ」


 たしかに、女盛りの30代前半っぽい。何でも、光魔法の天才らしい。危なかった。このゴーグルが無ければ、見た瞬間に蒸発していたかも知れん。


 そのとき、セイローがスリットから長い足をドンっと一歩踏み出し神官を一蹴する。


「愚昧め。それを計るのは、このセイロ―です。お前は下がって神に祈りを捧げよ。神殿の清めと合わせて50セットです、早くなさい!!」


…怖い。体育会系の力関係だ、コレは。オレ苦手。




「ようこそ、歓迎しよう悩める子羊よ。

さあ、跪いて許しを請いなさい」


 いきなりの謝罪要求! またこれは、厄介なことになりそうだ。


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