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知らない道

作者: 来世

カーステから流れる曲を聞き流しながら煙草を吸う。

慣れた道の運転は特別何かを意識する事はない。

それがよくない事だという事は知っているが、気を付けてはいてもぼーっと車を走らせている時がある。


ある夜の事だった。

ふらりと友人の家に行く途中、交差点を過ぎた所で煙草に火をつけた後、気が付いたら知らない道を走っていた。

一瞬、ついうっかりして曲がる場所を通り過ぎたのかと思ったが、家の並びに見覚えが無さすぎた。

ぼーっとしながらの運転ではあったが、道は真っ直ぐで曲がった訳でもないのに、何処を走っているのか分からない。


迷った。


自分でも何が起こったのか分からなかった。

道幅は、巡回バスがすれ違うのに電信柱を避けるくらいの幅と言えば分かりやすいだろうか。走っていた道と同じくらいだ。が、両脇に並ぶ家や塀に違和感しか覚えない。壁が違う。窓が違う。ブロック塀や垣根の高さ・形が違う。

見覚えのある場所がどこにもなかった。

どこにでも有りそうな田舎の道路。

ただし、自分が住んでる町の道ではけっしてない。

道に迷った事が1度もないなどという事はない。それどころか、方向音痴の自覚はあるので知らない道を通る事はあまりない。仮に通るとしても、昼間の明るい時間帯で余裕のある時にと決めている。

それなのに、知っている場所で、曲がってもないのに迷った。

よく冗談で「狐に化かされた」と口にはするが、実際にそんな事がある等と思ってもいなかった。それかと思った。


ゾッとした。


もしかしたら、「物の怪の通り道」かも知れない。

そして直感的に思った。

「曲がっても止まっても、元の道には戻れない」と。

「多分、現実の世界からずれている」とも。

曲の代わったカーステからはノリノリのイントロが流れてくるけれど、それどころではない。

が、パニックを起こしたら戻れるものも戻れなくなるだろう。

「ここどこだ。やばい、やばい、やばい」

頭の中は油断するとそれだけになりそうだった。

必死で気持ちを落ち着かせて、まず確認したのはガソリンメーター。満タンではないけども3/4はある。当分は走っていられるだろう。

次に思ったのは何故か元々の地図。ずれていても、現実の世界とリンクしているはずだと当たり前のように考えていた。

道は、海に突き当たるまで直線が続いていたはずだった。

出した結論は、「知っている場所に出るまで、とりあえず真っ直ぐ進む」だ。

曲がれないし、止まれないのだ。それしか出来る事がないともいう。

考えている間も車は進んでいる。

カーブもない直線のままの道は中央の白線がない道路で、両脇には電信柱がある。対向車はなかった。人もいない。

バックミラーを見るのは怖かったが、後部座席に何かがいるかも知れないと思うのも怖い。ので、機械的にチラリとバックミラーに視線をやった。何もいなかった。そして後続車もいない。

何も映らない事に安心した。とりあえず、車内にいるのは自分一人。取り返しのつかない程の最悪の事態まではいってないらしい。

何となく、車内と外の空気が違う感じがした。それだけで、ちょっと気持ちに余裕が出来た。


そんな知らない町並みの中で、一軒の家が目に付いた。

白い壁の2階建て。1階部分の印象が無いのは、多分、ブロック塀か何かがあったせいだろう。そして2階部分に小さな窓。

通る予定の道にも白い壁の2階建ての家はあったが、信号機のある交差点手前100メートル程の場所で当然はっきりと信号機が見えるし、おまけに、窓は小さいと思うような大きさではない。

信号機は見えなかった。


そもそも、煙草に火をつけた交差点から信号機のある交差点まで500メートル程しかないのだ。

本来なら、信号機が見えていない方がおかしい。

不安を抱えたまま走り続け、曲は2度目のサビになっていた。もうすぐ曲も終わる。信号機は見えないままだ。

そう考えた後、左側にふと見知った町民会館が目に入った。前にある信号機もはっきりと見えた。

信号機は赤だが、車が横切って行くのが見える。


戻った。


そう思った。

ちょうど信号が青に変わり、車は止まる事なく友人の家に向かって左折した。そして曲が変わった。

対向車や後続車に安心する。

ほんの1曲分の時間。精々3~4分だろうが、制限速度40㎞の道を車で走る500メートル。

そんなに時間がかかるだろうか。

正確に記録をとった訳ではない。思い違いもあるかもしれない。だが‥‥


怖い夢は人に話すと実現しないと聞いた事があった。

なら、怖い出来事も人に話すと実現しないかもしれない。

そんな思いもあり、すぐに友人に話をした。出来れば笑い話にしたくて笑いながら。

「道に迷った」と。

「真っ直ぐ走っていたのに、知らない道を走っていた」と。


子供の頃からオカルトが好きで、怖い話を見たり読んだり聞いたりしていた。出来れば体験したいとも。

体験しても何もいい事はないと今では思う。

自分には本当に想像力がなかったとつくづく思い知らされた。

不意に思い出す。昔読んだ怖い話で古い時代の辻の話を。

「交差点って辻か」と、後になって思った。


今でも同じような幹線道路を走ると、あの壁の白い2階建ての家を探してしまう。

二度と体験したいとは思わないけども、あれがいったいどこだったのか気になって仕方がない。



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