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外交使節 二日目(後)

おのれアルセウス……(関係ありません


 さて、無事アルド少年と和解を果たしたその後はと言うと。


「うおおぉぉぉぉ! 兄ちゃん、後どんぐらいだ!?」

「お嬢様方の気が済むまでかな」


 自分の隣でシャカシャカとひたすら材料を混ぜ続けるアルド。

 かれこれこの作業を彼はもう三十分ほど続けていた。


 現在自分達はコロナの家にお邪魔していた。突然の訪問ではあったが娘が無事に帰ってきてくれたこともあり、母親のミヨさんは喜んで受け入れてくれた。

 しかしここに来る道中でハクちゃんらも合流したため人数は護衛含め十人以上になってしまった。流石にこの人数で家にあがるのは憚れたためミヨにお願いをし庭を借りた次第だ。

 日本と違いこの世界の一軒家は大体土地が広い。だだっ広いともなれば貴族の範囲にはなるが、少なくとも民家と言えるほどの家持ちであれば庭に十人ぐらい入るスペースはあるのだ。

 このあたりは以前レーヌとどんちゃん騒ぎをしたラムダンの家も同様である。


 しかしそこに待ったをかけた人物がいた。言うまでもなくミヨである。


『せっかく来ていただいたお客様に対してその様なことは……』


 しかしながらこの人数を一度に収容することは出来ない。出来なくはないが少なくとも手狭の範疇を越えてしまう。

 それに庭に出たところで座るところも何もないのだ。団らんするテーブルも椅子も何もない。


 と言うわけで簡易的であるがサクっと造らせてもらった。いつも通りの《軽光》魔法で作った椅子やテーブルらは『風の軌跡』以外の面々に驚かれるのはもはや様式美だろう。

 発光することと異常に軽いこと以外は複雑な形状でなければ出し入れ自在の優れモノはまさに《生活魔法》としての正しい使い方と言える。

 最近では地味ながらも縁取り部分の明度を変更させることで各家具の境界が見えやすくしたと言う努力の成果もあり、個人的には気に入っている代物だ。


 そして魔法とは言えそんな不思議なものに飛びつくのはいつの時代も子どもの特権だ。アルド以外の三人の子どもたちが嬉々としてそれらに飛びついた。

 アルドも行きたそうだったが、残念ながら彼は二つ目の刑罰執行中……もとい荷物持ちの手伝いをしていた。


 そして現在、急遽庭に作られた野外設備にて三つ目の刑罰の『氷菓作成手伝い』を実行中と言う訳である。


「今回人数が多いからね。人手が欲しかったから助かったよ」


 自分が買ってきた濃厚果汁ジュースと《生活の水》を適量で割り、アルドがひたすら混ぜる。そして混ぜたものを冷やして固める。

 前回お邪魔したときは《軽光》魔法が無かった為シャーベット状の物しか作れなかったが、今回は魔法で型が作れる。

 流石に凝った物は無理なので一口サイズの丸いアイスにしたが皆からは好評であった。作って運んだそばから消えていくのは嬉しい反面ちょっと手加減して欲しいと内心思ってしまう。


「おかわり追加依頼きたよー」

「またかああああ!!」


 そしてその負担のほとんどが彼に集約する。数が多い分ひたすら混ぜ続けねばならないが……彼の腕の限界と材料の枯渇のどっちが先だろうか。

 しかし罰と言うものがあるとは言え正直なところ本当に助かっている。獣人の筋力だからこそもってる部分もあるだろうし。


「しっかしさー、ハクの姉ちゃんすげーよな」

「まぁ俺もそう思うよ」


 そして片や調理、片やアイスに舌鼓を打っている面々がいる場所から少し離れたところに視線を向ける。

 そこではコロナとパルが模擬戦を繰り広げていた。

 本人らからすれば腹ごなし程度と言っていたが、見てる方からすれば腹ごなしレベルを超えている。双方持っているのは木剣なのに甲高い剣劇の音が鳴り響き、たまに二人の体がブレて見える。


(そう言えばコロが同じ獣人と戦うのってここ以外で見たことないな)


 前回見たのは確かトライデントにお邪魔した時だったか。あの時はコロナ以上の強者がゴロゴロいたことに衝撃を受けたのをよく覚えている。

 実際あのコロナがいいようにあしらわれてた。それでも彼らからすればちゃんと成長してるとのことだったが。


「うちの姉ちゃん、正規兵だからその辺のやつらよりは強いはずなんだけどなぁ」

「実際に戦うところ見たことは無かったけど、あの様子だとホントそうみたいだね」


 戦い方が似ている為か傍目から見ても互角の勝負。実際はもっと細かいやり取りをしながら戦ってると思うが、自分ではそれを感じ取る事は出来なかった。

 まぁあっちはあっちに任せこっちはこっちに専念しよう。


「でも兄ちゃんってハクの姉ちゃんの仲間なんだよな? でもってあのエルフの姉ちゃんとドワーフのじっちゃ「あぁん?」……おじさんも仲間なんだよね」

「……そうだよ」


 何か途中で怖い視線を感じた気がするがスルーしておく。


「で、あの戦狼の飼い主と」

「ペットではないけどねー」


 ポチは荷運びの為にここに来るまでに一度大きくなってもらっていた。その時の反応は言うまでもない。

 ハク共々皆大興奮だった。そしてパル以外の護衛の面々も違う意味で大興奮だった。


「もしかして兄ちゃんって物凄く強い?」


 だからこそそんな結論に達したんだろう。作業の手を動かしながらもこちらの見る彼の目には明らかに憧れの感情が入っているのが分かった。

 だが悲しいかな、その憧れは幻である。苦笑を浮かべつつ軽く首を横に振りながら正直な感想を返す。


「そうだったら良かったけど滅茶苦茶弱いよ。多分アルド君にも負けるんじゃないかな」

「え、マジ? 大人なのに」

「マジマジ。だからあの子達に色々助けて貰ってるんだよ」


 何一つでも掛け違えていたらその辺の魔物の腹の中だったって未来も普通にあっただろうし。

 今思えば生きるためとは言え、あんな軽装でよく薬草取りしてたなぁと思うわ。近場で比較的安全ではあったけどさ。


 その後もアルドとは作業の傍ら今まで自分たちが行ってきた場所を若干の脚色を交えながら話していく。

 打てば響くとでも言えばいいか、とても子どもらしい反応を返してくれるアルドに若干気を良くしつつ交友を深めていった。



 ◇



「うぁ~……」


 結局買ってきた材料が全て尽き、ついでにアルドの腕と精魂も尽きていた。

 現在彼は椅子に座り顔をテーブルに乗せ口から魂が出ていそうな声を漏らしている。


「いやー、ほんと美味しいわねこれ」


 そんな弟の反応などどこ吹く風。その対面では手を伸ばし作った氷菓をパクついている姉のパルの姿。彼女は口に広がる氷菓の味がお気に召したのかとても上機嫌だった。

 他の子達も大よそ満足したのか手が止まっており、今は大人たちがのんびり食べる時間となっている。


「いつもいつもすいません」

「いえ、好きでやっていますから」


 ずっと座りっぱなしで落ち着かないミヨではあったが彼女も作ったものに対しては美味しいと言ってくれて内心胸を撫で下ろしていた。

 それとエルフィリアに頼んでいくつかをパル以外の見張りの人らに配ってもらっている。一口サイズにして持ち運びしやすくしたのも半分はこれを狙ってのことだ。

 この場にいない人達も軽く摘まむ程度なら、と考えてのことであったが、後で聞いた話だが反応は上々だったらしい。

 またエルフィリアも会った頃に比べて一人で色々と対応できるようになったのは目に見える成長だろう。


(さてと……)


 最後に本日頑張った子へのご褒美をあげるとしますか。


「ハクちゃん」


 ちょいちょい、と小さく手招きし、内緒話のジェスチャーをするとハクが頭を……ではなく頭の上についている耳を差し出してきた。


「あのね、ちょっと相談と言うかお願いなんだけど……」


 ボソボソと周りに聞こえぬ程度にハクにあることをお願いする。少々きょとんとされてしまったが、内容は理解したようで氷菓を取り分けておいた小皿を手渡すとそれを持ちアルドの方へと歩いて行った。


「ヤマル、ハクに何言ったの?」

「んー、功労賞の授与……かな」


 コロナに問われそのままハクを視線で追うと、彼女は指示した通りぐったりしているアルドの横に立った。

 そして彼を呼び手に持った小皿から氷菓を一つ手に取ると、その手を伸ばしアルドの口へと近づけていく。

 いわゆる『あ~ん』と言うやつだ。


「愚弟には勿体無いんじゃない?」

「飴と鞭ですよ。見ている分には微笑ましいでしょ?」


 顔を真っ赤にしてわたわたするアルドの様子は言った通り見ていて微笑ましい光景だ。対するハクは特に行為に対して気にする様子は感じられず、その対比が少年の前途を如実に表しているようだった。


「ヤマル君もやってもらう?」

「流石に遠慮しておきます」


 何が悲しくて母親がいる目の前で『あ~ん』してもらわねばならないのか。物凄く恥ずかしいし。

 あれは子どもであるアルド達だからこそ微笑ましいのであって、大の大人がやるものではない。

 ……だからコロナさんや、そんな恨めしそうな目でこっち見ない。あなたもう食べ終わったんだから氷菓の残弾無いでしょ。

 あとエルフィも最後の一個を持ちながら悩まな……あぁほら、コロに食われたし。


「んんっ! まぁそれはさておき明日の話でも」


 咳払い一つし、強制的に話を真面目な方へと持って行く。

 とりあえず仕事の話と言うことで残った二人の子どもらと、未だ『あ~ん』に対し決闘場さながらの雰囲気を出しているアルド(+ハク)はミヨが家に連れて行く。

 家の中に入っていったのを確認した後、改めて明日の予定を話すことにした。


「明日はちょっとトライデントに行くつもりです。午前中にアポイントは取れましたので」


 今日の午前中に皆がゆっくりしている間にパルに付き添いを頼みトライデントへ一度足を運んでいた。目的は当然リーダーであるディエルへの面会願いだ。

 もちろん突然の押しかけに近い状態であったためこちらに滞在中に話せれば良かったぐらいの思いであったが、向こうとしてもこちらに対して話したいことがあると言うことで明日面会する時間を貰うことが出来た。


「なのでメンバーは俺がいればとりあえずいいんだけど」

「まぁ私たちは仕事だから付き合うわよ」


 と言うわけで自分とパル(ないしは別の人)は確定。

 他の面々は正直なところ今回で言えば一緒に来る必要は無いが……。


「私も行くよ。無関係じゃないし顔見せもしておきたいし」

「俺も一応行くわ。トライデントには俺の得意先もあるからな。現場離れるのは伝えてあるが折角来たんだから見ておきたいしな」

「あの、私も……一人では心細いですし」

「わふ!」


 念の為に皆に尋ねたところ全員来てくれることになった。

 ただコロナだけは本日は実家に寝泊まりの為、明日は現地集合と言うことになる。


「ところでトライデントには何しに? 使節として……じゃないわよね」

「そうですね、個人的なトコです。こっちに来れたら寄ろうとは思ってましたので」


 未だ全容が分からない()()()()

 自分が全容解明をするつもりはさらさら無いが、いくつかの疑問点が解決すれば良いとは思う。


(さて……どう転ぶかなぁ)



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