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マザイ教


「「「え……?」」」


 言われた言葉が理解できず思わず声が漏れる。

 しかしそれは自分だけでは無かったらしい。全く同じ声を出したのは隣のレーヌ、それに正面にいるセレスだ。

 どうやら二人ともこの展開は意外だったようだ。


(え、どういうこと……?)


 しかし自分も同様の衝撃を受けている。

 要求が通ったことは喜ばしい事だし歓迎すべきことなのは分かる。

 しかしレディーヤが信徒でも無い自分に許可が下りるにはどれほどの時間が掛かるか分からないと言っていたのだ。

 いくら女王(レーヌ)からの要請だったとしても……。


「え、っと……」


 レーヌが二の句を告げられないでいる。完全に想定外の出来事に軽くパニックになってるのだろう。


(俺から何か言うべきか……?)


 自分の事なのだから、と思う反面、レーヌを差し置いて話していいのかとストッパーがかかる。

 向こうからは何故か厚遇されているが、自分はこの場においては一介の平民でしかない。

 行くか引くか……。そう迷っていると、この場で一番年上であるウルティナが仕方ないなぁとばかりに小さく手を上げる。


「少しいいかしら」

「えぇ、どうぞ。かの魔女様からのご質問とあらば無碍には出来ません」

「あら、私の事やっぱり知っていたのねー」

「これでも神殿を預かる身ですので。無論、ヤマル様の事も聞き及んでいますよ」


 ……ヤマル『様』?

 何でこの人は俺に敬称を付けるのだろう。単に全員にそう呼ぶだけの人……ではないな。自分に様付け何てしたら神殿の権威が損なわれてしまいかねない。

 よくて『殿』ぐらいがギリギリの範囲になると思うけど……。


「なら話は早いわね。さっきからどーにもちょっと不思議に思えて仕方ないのよねー」

「と言いますと?」

「一応あの場所がどういうのかは後ろのレディーヤから聞いているわ。神殿が山含め神聖視していることもね。そんなところにヤマル君に対して許可をあっさり出すのは明らかに不自然よねー」

「はっは、神殿とてそこまで狭量ではないですよ」

「なら全員に開放できる?」


 ウルティナの切り返しに大神官長が思わず押し黙る。

 それはつまり自身が何かしら『特別』であることを示していた。


「で、どーゆーことかしらね? ヤマル君の事も聞いてて特別視してるなら単純なところで召喚者、とも思ったけど、それならさっきの礼拝であたしも前の席に座るはずだもんねー」

「……でも俺が師匠より上になるようなのって何も無いですよ?」

「きっと何かあるのよ。そうでしょう? と言うかチャキチャキ話しなさい。それとも許可はするけど何か条件をつけるつもりかしら」

「いやはや、歳を取ると若い者をついついからかいたくなりましてな。失敬失敬」


 ペシリと自らの頭を叩く大神官長に先ほどの緊張感はもはや無く、好々爺の様な親しみやすささえ感じる。

 ……本当にこのあたりの階級の人が怖いよ。二重人格じゃないよな……?


「そうですね、理由を話す前にまず一つお聞きします。ヤマル様と魔女様は我々マザイ教の事はご存じでしょうか?」

「いえ、自分はあまり……。師匠は?」

「名前だけぐらいねー」

「了解しました。まず端的に述べますと、我々神殿はヤマル様を"神の御使い"ではないかと考えております」


 ……………え?

 何か目の前の人からすっとんきょうな言葉が出た気がする。

 俺が神の御使い? え、なんで?


 知っていたのかとばかりにセレスの方を見るも、彼女も初耳だったようでブンブンと首を横に勢い良く振っていた。

 そしてウルティナから『また何かやったの?』と冷ややかな視線を向けられたので、セレス同様勢い良く首を横に振り全力で否定をする。


「その……自分そんな大層なのじゃないですよ。そもそも神様に会ったこともなければ、この神殿に来たのだって片手で数えるぐらいなのに……何かの勘違いではないですか?」


 慌てて神の御使いではないと否定をするも、大神宮長はそうくるのが分かっていたようでニコニコと笑顔を返すばかり。

 参ったな……本当にどうしようか。

 頭抱えたくなる衝動をぐっとこらえていると、こちらを見かねてか背後にいたレディーヤから声が掛かる。


「ヤマル様、まずは大神官長様からお話を聞いてはいかがでしょうか。現状では何故神殿側がそう判断されたのか不明ですし」

「そうねー、そうしましょっか」


 何故師匠が答えるのか。

 ともあれ現状本当に分からない為レディーヤの案を採用。大神官長へ何故自分がそんな御大層な存在に見られているのかを問いただす。


「では少々長くなりますがご清聴下さい」


 大神宮長はそう言うとゆっくりとあることを話し始める。

 それはマザイ教がどの様にして出来たかと言うお話だった。


「マザイ教の初代大神官長は実は最初から信心深かったわけではありません。記録によると初代様は当時は行商人として各地を転々としていたようです」


 そして語られる初代大神官長の足跡。それは二百年前の大戦より更に昔のこと。

 当時の初代大神官長は商人として人王国内の町や村を渡り歩く日々を過ごしていた。そんな中、彼にとってある転機が訪れる。


「良くある話ではありますが初代様は道中魔物に襲われてしまいました。護衛の傭兵や冒険者もやられ、初代様は積み荷を捨て逃げたのですが、それでも魔の手が迫ってきたのです」


 今も昔も街の外の危険度合いは変わらないのか。

 いや、数百年前ともなれば街道のインフラも今よりひどかったかもしれない。


「初代様が無我夢中で逃げたのは森の中にあった切り開かれた道。お察しの通り神の山に通ずる道です。我々は"参道"と言っていますね。ともあれ初代様はその道を逃げました。そして魔物に追われながらも神の扉まで辿り着いたのです」

「神の扉?」


 また何か知らない単語が出てきた。

 普通に考えればそのまま扉……つまり中央管理センターの入り口と言うことになるけど……。


「神の扉の話は初めて聞きます」

「女王陛下にはまだお話していませんでしたので。歴代の王には伝えておりましたよ」

「そうでしたか……」


 ちなみにこれは後でレーヌに聞いた話だが、信徒にもこの初代大神官長がマザイ教を作った経緯は伝えられているらしい。

 ただし神の扉の話や行商人の件は無く、一般的には神の山で啓示を受けたと言うことになっているそうだ。


「神兵が守る神に通ずる扉を我々は"神の扉"と呼んでおります。初代様以外開いたところを見た方はいらっしゃいません」

「ちなみに神兵と言うのは?」

「神の力で動く巨大な金属兵ですね。扉を守る様に左右に控えております」


 間違いなく守護兵(ガーディアン)のことだ。

 と言うことは神の扉が中央管理センターの入り口でほぼ間違いないだろう。


「神の扉に辿り着いた初代様でしたが同時に魔物にも追いつかれました。ですがその時、初代様を助けてくださった方がいらっしゃいました。それが我がマザイ教の女神であるマザイ様です」

「ふぅん、神様に実際に会ったのねー」

「えぇ、手記によればそう書かれています。そしてそこにはこう書かれていました。"神の扉が開かれ、中から現れたマザイ様が手をかざすと、どこからともなく現れた光の剣が魔物を貫いた"と」


 その瞬間、この場にいる人全員の視線が自分に集まる。

 いや、そんな昔に自分いないから。


「初代様を助けたマザイ様は自らの名を教えこうおっしゃったそうです。『今を生きる人よ。手を取り合い、健やかに生き、次代に正しく種を継ぐように』と。そして神の扉より神兵を召喚し、再び山に戻られたそうです。この経験から初代様はマザイ教を設立、今日に至るまで伝えられてるわけですな」

「それではおに――ヤマルさんが神の御使いと言うのは……」

「えぇ、お察しの通り()()マザイ様と同様に光の剣を使ったと言う点です。先日、催し物でヤマル様が出したと報告を受けておりますが、今日までその様な事をされた方は他にはいらっしゃいません」

「え、でも自分のアレって魔法ですよ。似通った魔法ならもうあるんじゃ……」

「私は見たことも無いですし報告も聞いていませんね。魔法でしたらそちらの魔女様がお詳しいのでは?」


 自分含め一同がウルティナに注目する。

 すると彼女は「そうねぇ」と態度を崩さぬままにその回答を口にした。


「少なくとも光の剣の魔法は無いわね。と言うか光に攻撃性能与えるのが無理なんじゃないかしら。そもそも光は照らすものよ」

「左様。魔女様が仰られた通り我々にとって光は照らすものです。決して武器にするものではございません」


 そうなのか、と思うも即座にそうなのかも、と思いなおす。

 日本人ならば大なり小なりサブカルチャーに影響される。その中に光る攻撃方法は沢山存在するのだ。

 某ロボットやスターな戦争の光る剣しかり、某ドラゴンの玉のなんちゃら波しかり。

 魔法の相性もあっただろうが、自分の《軽光剣》がその影響を受けていないとは言えない。むしろ憧れ部分もあって率先してやったかもしれない。

 しかしこの世界ではその様なマンガもアニメもなく、であれば光る武器と言う概念が存在していなくても不思議では無いのだ。

 これも異なる世界であるが故の認識の違いと言う物だろう。


「そしてもう一つがヤマル様が神兵を従えている点です」

「……? 自分山や森の中行ってないので大神官長様が言う神兵は見たことすらないのですが……」

「いえ、そちらではなくて現在王城にいる方です。我々が知る神兵とは違い小柄なようですが、あの特徴的な外観から間違いないでしょう」

「それってメムさん達……?」


 だろうなぁ。

 現在は王城でいろいろ手伝ってもらっているが、一応主は自分となっている。

 こちらは大神官長が言う山の方の神兵は見てないけど、口振りから察するにメムの言う守護兵のロボットで間違いなさそうだ。


「以上二点が我々神殿がヤマル様を神の御使いと考えている理由です。その御使い様が神の山に向かおうとしているのであれば、我々が止める理由はありません」

「御使いじゃないと思うけど……ともあれ許可いただけるのであればありがたく頂戴します」

「いえいえ、お気になさらず。ですが一つだけお願いがございます」


 瞬間「来たか」と言うような雰囲気がでるも、すぐに気づいた大神官長がすかさず言葉を続ける。


「ヤマル様の仲間である獣人・亜人の皆様には許可は出せません。その点だけ御理解ください」

「……皆が人間じゃないからですか」


 大神官長の言葉に差別と言う単語が頭をよぎる。

 日本にいた時ですら宗教によっては異端者、異教徒など言われることがあるのは記憶に新しい。

 人と明確に違う獣人や亜人の彼らをマザイ教は受け入れられないと言うことだろうか。


「そのような目をなさらないでください。確かに仰る通り人間では無いからですが、お考えになってるような事が理由ではありません。むしろ彼らを守るための処置でもあります」

「と言いますと?」

「まず最初に誤解無きようお伝えしますが、マザイ教は人間のみを対象にしておりません。他種族の方でも問題無く信徒になれます」


 ただし人間以外の種族の人は考え方や感性が違うせいかあまり入ってもらえないそうだ。

 それでもマザイ教としては少なくとも強制することはないし、排除することも無いという。


「そして仮にマザイ教に入っても、その方たちは神の山への立ち入り許可は絶対に降りません。どれだけ上の立場になってもです。何故なら森や神の扉の前にいる神兵は人間以外の他種族を襲うからです」

「それは……本当ですか?」

「えぇ。確か魔族の方もご一緒でしたよね? 獣亜連合国と魔国の方がそろっているのでしたら、そちらからも話が聞けるかもしれません」


 以上になります、と最後に大神官長が話を閉める。

 何と言うか……色々と聞いたことがない事実や知らない事を教えられ、頭も心もいっぱいいっぱいになってしまった。

 その後もなんとか大神官長と話し色々と約束を交わしたものの、流石に疲れてしまった為今日はそのまま宿へ戻る事にした。




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