表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
270/400

模擬戦 コロナvsヤマル6


 あれから数分。その間にも幾度となくゴーレムの体を斬り刻んでいく。

 "牙竜天星(ガリュウテンセイ)"で腕を断つもすぐに回復され、ダマスカスソードで胸を穿ってもやはり回復され、ならばと頭を思い切り蹴りあげたらこちらは重量差で弾かれる。


(うー……物凄く遠回りしてる気がする)


 一応この『再生能力用の魔力が枯渇するほど斬り刻んで強制的に回復させれば倒せるのでは?』と言う件については間違ってはいなかった。

 ただ間違っていないだけで正解とは程遠い。

 成果としてゴーレムの自己再生能力は少しだけ落ちた。これまで瞬時に回復していたのが、コンマ数秒の間が分かるレベルまで下がってくれた。

 "牙竜天星"の斬撃でも断面が視認出来るようになったのは一応先に進んでいる証拠だろう。


 でもこの方法が正しいとは到底思えない。

 倒せるには倒せるだろうけど、その状態になるまで一体時間がどれだけかかるか分かったものじゃない。

 つまるところ……このやり方はハズレと言うことになる。


(魔力切れ狙いはジリ貧。魔石の手応え皆無。ほんとにウルティナさんはとんでもない物造ってぇ……)


 フツフツと体の内側にフラストレーションが溜まっていく。

 斬っても斬っても先の見えないこの勝負。打開策が早急に欲しいのに手がかり一つ見つからない。


「あぁ、もうっ!」


 前のめり気味に手斧を横に薙ぐゴーレムの一撃を跳躍で回避。

 そのまま《天駆(てんく)》を使い巨躯を飛び越え、手に持つは幅広のダマスカスソード。


「いい加減……倒れて!!」


 鬱憤を晴らすかのように剣の側面をゴーレムの後頭部に叩き付ける。

 バコンと派手な打撃音が響き、前のめり気味の体勢だったゴーレムはその一撃で完全にバランスを崩し顔から地面に派手に倒れこんだ。


(ふぅ、ちょっとスッキリ。……?)


 ………ラ……カ、コ……


 今何か、少しの間だけど聞きなれない音が聞こえた。

 かなり小さいがこの模擬戦の中で始めて聞く音。


(なんだろ、何かが跳ね返るような……?)


 重い音ではない、軽い音だ。例えば何かが転がるような音。

 しかし音の発生源は特定出来ずその音も消えてしまった。あのような音が鳴りそうな物は周囲にはないはずなのに……。

 そんな考えを巡らしている間にもゴーレムは両手を地面につき起き上がろうとしていた。結構手足は短いのに中々器用な……ではなくて!


「もう少し……」


 四つん這い状態のゴーレムの体の下に素早くもぐりこみ、ダマスカスソードを横向きに大きく振りかぶる。


「寝てて!!」


 そのままフルスイングで右手を外側に追い出すように剣の側面で再度打撃。再びガツンとした音が響くも、重量差のため僅かに動くのみ。

 しかしそれでも自身の重量がかなりあるせいか、バランスを崩すには十分だったようだ。頭上にあるゴーレムの体がぐらりと傾いていく。

 潰される前に体の下から脱出しその様子を観察していると、ゴーレムは何とか右肘をつく形で堪えたようだ。

 だが……。


 ……コン……コ…、…カ…


 また先程の音が耳に届く。


(これは……何かが木に当たる、ううん、転がる音? まるで匙を床に落とした時のような……)


 そして音の出所は正面……そう、ゴーレムの方から聞こえてきた。

 しかし今の一連の動作にその様な音が鳴るものはない。倒れたりすればその際に巻き上げられた石が胴体に当たるかもしれないが、今回は地面についたのは右肘程度のみだ。

 となると……。


(体の中? 音が鳴る何かが……っ?!)


 その時、気付く。気付いてしまう。

 天啓が降りたかのように浮きあがるとある可能性。

 見当たらない魔石。何かが転がる音。そして最後のピースは……!


(ウルティナさんーーーー!!)


 半ば恨みを込め彼女の方を見るも、視線の先のウルティナはマイク片手に『あ、気付いちゃった?』みたいな表情をしていた。

 そしてその隣にいるブレイヴは腕を組みながらこちらの様子をじっと見据えている。その額には上位の魔族である証が光っており……。


「模擬戦でそこまでやるかなぁ……もう!!」


 ダマスカスソードから"牙竜天星"に武器を即座に切り替える。

 狙いは一つ、音が鳴っていると思しきその一点。()()()()()()()()()()()――!!


「《星巡(ほしめぐり)》!」


 何度目かの《星巡》でゴーレムの胴体部分が再び両断。

 しかし断面の片側から木の根が伸び、もう片方を引き止めるように接続。そのまま一気に切り口が修復されていく。


(外した、逃げられた……!)


 そもそもおかしかったのだ。

 このゴーレムが持つ超再生能力を行うための魔力の出所は何なのか。

 過去に戦ったトレントは魔石自体は小さいものだったが、あの時は魔煌石によって増幅された形だった。

 他にも何かありそうな雰囲気だったが、少なくともあの魔物でさえ魔力の源である魔石と言う核は存在していた。


 とすれば目の前のゴーレムを動かす……それこそあの再生能力も含めた魔力は一体どこから来ているのか。

 その答えはやはり一つ。あのゴーレムは従来のゴーレムと同様に魔石を核としている。


 ただしそこに二つほど通常とは異なる点があった。

 あれほどのゴーレムだ、さぞ魔石は大きいものだろうと当初は思っていた。実際以前に似通ったストーンゴーレムを倒しその魔石を目にしていたのだから、その先入観に囚われていた。

 しかし自分は知っている。魔石には通常の魔石とは別にもう一つ、別の種類の魔石があると言うことを。

 それはブレイヴやミーシャがその身に宿している特別な魔石。


「魔宝石……!」


 実際ヤマルがカレドラから譲り受けたあの石は自分の片手で持てる位小さなものだった。

 しかし込められる魔力は通常の魔石の比ではない。

 もし魔宝石を核としているのならば、通常より的が小さい上にあの無茶苦茶な再生能力も合点がいく。


 そしてもう一つの異なる点。それがあの"音"の正体だ。


(まさか核を動かしてるなんて……)


 どの様な理屈かは不明なれど、目の前のゴーレムはほぼ間違いなく体内の魔石の位置を変更している。

 恐らく魔宝石周辺の体を再生時に見せるような木の根辺りに変化させて転がしているのだろう。あの何かがぶつかる音は核が転がった際に発生した音。

 実際あの音が鳴った時はゴーレムが倒れたときなど体が急停止した時に発生している。多分この考えは間違ってはいない。


 つまり小さい核を常時動かしていることで、あたかも核が無いとこちらに誤認させていたということだ。

 タネが分かった以上狙うは一点。核の破壊ただ一つ。

 ……なのだが。


(どうやって場所を判断しよう)


 転がれば音が鳴るし大よそのあたりは付けれるが、あくまで大よその位置でしかない。現に先程繰り出した《星巡》は不発に終わっている。

 予想される大きさは手の平に乗る程度、形状は転がることを考えれば丸系。

 見えれば一瞬で断つ事は可能だが、どこにあるかも分からない動く小型の核を斬るのは至難の技だ。


「……エルさんみたいに魔法の才あったら良かったなぁ」


 高めた攻撃力も伸びた射程も、残念ながら『面』と言う範囲を得ることは叶わなかった。もし魔法があれば、核の場所の当たりをつけた後にその周辺に対してまとめて攻撃できただろう。

 もちろんこれはただの愚痴。高望みなのは分かっている。

 そもそも獣人や亜人の魔法は自己強化型が殆どだ。エルフィリアの様に外部に影響を与える魔法を使う方が稀である。

 はぁ、とため息一つ溢すも、反対に口角は上がり自然と笑みがこぼれてくる。


「ま、これで一歩前進だもんね。後一つ、『核の位置特定』がんばろ!」


 目標は良い。それが分かりやすければ更に良い。

 少し前まで正しいかどうか分からない中でのスカスカの手応えだったから、余計にそれを感じている自分がいる。


「とりあえず……もう暫くは削らせてもらうね!」


 いくら相手が巨体とは言え速度差がある以上は受けに回るより攻めに転じた方がずっと安全だ。

 遠回りではあるが一応魔力は削れている。その間に核の場所を特定できる手法を見つければ良い。

 ゆっくりと起き上がろうとするゴーレムに再度突貫。騎士階級の人が見れば卑怯と言われるかもしれないこの行為も、残念ながら生き死にを賭けて戦う傭兵の前では何の意味も無い。

 正々堂々より効率を重んじるのは傭兵のみならず冒険者だって一緒である。ヤマルとて昔ならばともかく、今ならチャンスといって仕掛けるぐらいにはなっているのだから。


「ふっ!」


 《星巡》は巨体を素早く両断するのには適しているが、残念ながら一度鞘に収めなければならない都合上畳み掛けるような攻撃には向いていない。

 しかしそこはドルン謹製の"牙竜天星"。普通に振るうだけでもゴーレムの腕を容易く斬り裂いていく。

 右に左に、上に下に。相手の体を満遍なく、それこそ縦横無尽に刃を振るうが、やはり斬った箇所は全て再生されてしまう。

 相変わらず木の根のようなものが伸び、切断面にくっ付いては補修する様を忌々しげに見つめることしか出来ない。

 一度その根を素早く斬ってみたのだが、その瞬間その断面から新たな根が生えて即座に修復してしまったのだ。


(む~、さっき斬ったばかりなのにもう元通りだし)


 視線の先にはゴーレムの右肩。普通の人間ならば右腕欠損待ったなしの傷も、このゴーレムにとってみれば腕が取れたから元に戻すぐらいの行為でしかない。

 再びそこに一刀を入れ切断を試みるも、やはり腕が落ちるより早く木の根が支え再生してしまう。


(斬ってから引き離す? 《星巡》で両断すれば切断面大きいせいか再生速度落ちるみたいだし……でも、うーん……)


 最初に撃った《星巡》の両断時に比べ、今《星巡》を撃って両断した際の再生速度は目に見えて落ちている。

 落ちていると言っても瞬間的に直っていたものがその再生を目で追える様になった程度ではあるが、あの速度なら斬った瞬間に蹴り飛ばせば何とか離せ……いや、


(重さでダメかなぁ)


 両断すれば再生速度は落ちるが、大きさと重さの関係上引き離すのは現実的ではない。

 いくら身体強化の魔法を使っているとはいえ、八メートル級のゴーレムの半身を蹴り飛ばすのは並大抵のことではできない。

 しかし腕のように切断する部位を小さくすると、今度は逆に切断面が小さいため再生速度が速まる。つまり引き離す時間が短くなってしまう。


「っと!」


 考えている間にもゴーレムが起き上がりざまに半身の大盾でこちらを殴りつけようとする。繰り出された攻撃を悠々とかわし、カウンターで三度その左腕を切り刻んだ。

 手首、肘、肩にそれぞれ一撃ずつ。

 相変わらず斬れた瞬間から再生するあたり本当に対自分を考慮して……ん?


(…………?)


 その三つの切り口を見て違和感を抱く。どの断面ももはや見慣れた再生光景が繰り広げられていた。

 しかし一つ、肩口の切り口だけが他と少し違う。

 幾度とそれを見ているからこの再生工程はもはや分かっている。木の根が断面から伸び、もう片方の断面に接続し、再生。断面の大きさに限らずこの手順は全て共通だ。

 しかし肩口の断面のみ、根が腕側から伸びていた。肘と手首の断面は胴体に近い側の断面から伸びていていたのに。


(偶然……なのかな?)


 別に断面のどちらから根が伸びようとも再生するという結果は変わらない。たまたまそうなったと片付けるのが一番しっくりとくる。

 しかし偶然で無い場合そこには必ず何かしら理由があるはずだ。


(距離? ううん、別にどちらから伸ばしても同じ。……重さ? それなら胴体側から出るほうがずっと安定するし……)


「…………核の位置?」


 再生能力の源である魔力。その出所である核に近い側から根が出ているというなら辻褄は合う。

 先程は上腕部分に核があったから、そこを起点に根を伸ばしたと見ればいい。


(つまり切断面の再生起点箇所の先に核はある!)


 仮説の域は出ないけど直感がこれだと告げている。

 後は斬った断面から核の位置を特定していけば良い。問題はこの手法だと再生時の位置は分かってもその後動かれたらまたやり直しと言うこと。

 流石に再生中は核は動かない……はず。そちらに力を注ぐ上、両断レベルなら物理的にその間は移動が出来なくなる。

 それらを解消するためには《星巡》並の斬撃をあの再生が終わるより早く複数回与えなければならない。

 再生が終われば核は移動し、一撃程度では場所の特定が出来ないからだ。


 そしてそんな都合の良い技は……()()()()()()()

 《星巡》が必殺技と言うなら、これは奥の手。強力な反面、撃てば間違いなく自身の継戦能力がほぼ無くなってしまう諸刃の技。

 今まで使わなかったのも当初は《星巡》で十分と思っていたこと。そしてあの超再生能力を見た後ではこの技を撃ったところで《星巡》と同じ結果になると考えたからである。

 しかし情報が揃った今なら使うべき技。むしろ現状を打開し、相手を打倒するならこれしかないと言うべきもの。


 一つひっかかるとすれば、こちらの手の内を知り尽くしているウルティナやブレイヴがそれを見越したような対戦相手を用意したことか。

 何となく向こうの手の平の上で踊らされている感が拭えない。

 後で一言ぐらい文句を言わなきゃと一旦この考えに区切りをつけ、この後の動きを頭の中で予測立てをする。

 幸いにもこの程度の戦闘行動で自分が息切れすることはないし、向こうの能力は把握済み。こちらの力が上回っている以上は予想通りに事が進めるだろう。

 後はその技を撃つ勇気と覚悟。そして撃った後、自身がどこまで耐え動けるかに懸かっている。


「……ふぅ」


 ゆっくりと息を吐き"牙竜天星"を納め、極力体をリラックスさせる。

 これから確実に迎えるであろう未来に思わず体が強張るが、それでは中途半端な結果に終わってしまう。

 呼吸を整え、気持ちを落ち着かせ、そして眼前に見据えるは巨大なゴーレム。

 こちらが準備で仕掛けないのをチャンスと見てか、右手に持った手斧を大きく振りかぶり……投げた。


「ッ?!」


 これまで無かった投擲に体が硬直しかけるも、それ以上の意思をもって前へと走る。

 飛んできた手斧を紙一重で避け、駆けるは最短一直線。それを見たゴーレムが残った盾を間に差し込もうとするも、更に速度を上げ《天駆》で跳躍しゴーレムの体を飛び越える。

 そのまま体を捻り天を下に、地を上に。上下反転の体勢のまま真裏へ回りこみ、"牙竜天星"を持っては《星巡》と同じ構えを取る。

 ただしここからは違う。

 今から繰り出すのは《星巡》と似て非なる技。


「奥義……」


 星を巡る軌道、紡がれるその軌跡が剣閃となって今――



「《星紡(ほしつむぎ)》」



 ――放たれた。


すみません、難産で中々ペースが上がらず遅くなりました。

年末までには何とかコロナ編は済ませておきたい所です……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ