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残される人の為に


「コロナさん、大丈夫そうですね」

「まぁゴーレムの攻撃当たってなかったからね。やっぱ速く動けるのは羨ましいよ」


 ヒット&アウェイとは言え今回の戦闘でのコロナの被弾は無し。いくらゴーレムの速度がコロナより遅いとは言えこの結果は流石としか言いようが無い。

 逆にドルンはコロナの援護があったものの、何度か接近する際に被弾してしまっていた。

 直撃自体はあの一回だけだが、それでもあの巨体からの攻撃をいなせる辺り、ドルンの戦闘力の高さが窺える。

 その当のドルンと言えば現在隣にいるわけだが、現在全身水浸しになったような状態だ。自慢の髭からもポタポタと水が滴り落ちている。


「へえっくしょい!!」

「っとと、ごめんごめん。乾かすからちょっと待って。ポチ、降ろして」

「わふ!」


 ここはそれなりに高い山の上であり平地より気温が低い。その上強風が吹き荒れているのだ。

 そんな環境で全身濡れていればクシャミの一つも出ると言うもの。


「おう。しかしさっきは助かったぞ。よくあんなの出来たな」

「咄嗟にだけどね。ポチと以心伝心が出来るからこそだよ」


 ポチの頭を撫でながら先ほどのことを思い出す。

 ゴーレムの腕に吹き飛ばされたドルンは山の岩に叩きつけられるはずだった。

 そこで自分は咄嗟にドルンと岩の間に《生活の水(ライフウォーター)》で水を生成し、『魔力固定法』でそれを固めたのだ。

 自身の魔力だけではドルンを覆うほどの水は出せないが、戦狼状態のポチと一緒にいることが功を奏し《魔力増幅(ブーステッドマジック)》で不足分は補う事が出来た。

 そして固まった《生活の水》はまるでクッションの様にドルンを受け止め――切れるはずも無く、そのまま彼は表面を突き抜け水の中にダイブする羽目になってしまった。

 結局岩自体には当たったものの、魔法のおかげで衝撃はかなり軽減されたらしく大事には至らなかったのだ。

 まぁその代償としてこうしてドルンは全身濡れ鼠と化してしまったが……。


「ヤマルさん、あの、ロープほどいていただけると……」

「ん」


 すぐ後ろにいるエルフィリアの声に頷き、彼女と結んでいたロープを手早く解く。

 以前も同じことをしたが、今回もポチに乗るにあたりエルフィリアとはロープを使い体を固定させた。こんな山の斜面でポチとの相乗りしながら魔法を使わせるのは無理だったからだ。

 自分と違い純魔法使いの彼女は集中も詠唱も必要になる。ゴーレムの足をかち上げるほどともなればこれも仕方の無い処置だ。

 ……と、コロナに詰められたときに使う予定の言い訳で理論武装しておく。決して密着したいわけではない、うん。


「はい、《生活の火(ライフファイア)》」


 ポチから降り、ドルンに向け手をかざしては魔法を発動。

 ドルンが被った水は自分の魔法なので乾燥も《生活の火》ですぐに終わる。乾かすにあたりそれなりに熱くなってるはずだが、普段から火を使ってるドルンからすればなんてことないのだろう。

 特に何か言われることも無く、コロナがこちらへ戻ってくる頃にはドルンの濡れ鼠状態も解消していた。


「コロ、お疲れさ……」


 笑顔で出迎えようとしたが、ゴーレムを倒した立役者であるはずのコロナの表情はとても暗かった。

 彼女が左手で小脇に抱えている大きな石、あれがゴーレムの核なんだろう。

 そして反対の右手には剣を持っていたが、刀身の半ばからくの字に曲がってしまっていた。折れていないのは奇跡だろうかと思える程の曲がりっぷりである。


「ヤマル、ドルンさん。その……ごめんなさい」


 開口一番、コロナはその曲がった剣をゆっくりと持ち上げ謝罪の言葉を口にする。

 ドルンに対してはまぁ造った人だし謝るのは分かるけど、なんで俺に……いや。


(あー……そっか)


 この剣はそれなりにパーティ資金から出しているし(実際は当人からも出してもらっているのだが)、造った当時もコロナは自分に買ってもらったみたいな感じだった。

 お披露目時に自分を守ることを剣に誓うとまで言っていた程だ。

 そんな剣を自分の意思で剣らしからぬ使い方をした挙句折り曲げたのだから、コロナが落ち込むのも無理のないことだと思う。


「気にしないで……と言っても多分気にするだろうから、自分からは一言だけ。コロのお陰で皆大した怪我も無く済んだよ、ありがと」

「……怒らないの?」

「今回も守ってもらったのに何を怒るのさ」


 ねぇ?とエルフィリアに目線を向けると、彼女もコクコクと首を縦に振り同意を示す。


「その、ドルンさんは……」

「んー……まぁ剣をそーゆー使い方する事に何も思わないわけじゃねぇけどなぁ。でもお前のする事はヤマルを守ることで、剣はそれを成すための道具だ。剣の使い方じゃ無かったかもしれねぇけどよ、お前はお前の仕事をきちんとしたんだからそこは間違ってねぇぞ? それにその顔見ればぞんざいに使おうとしてたわけじゃねぇってのは分かるからな」

「ん……。でもやっぱり無茶な使い方してごめんなさい」


 そう言ってはペコリと深々と頭を下げ再度謝罪をするコロナ。

 しかし顔を上げたその表情は先程よりは幾分かすっきりした様子だ。


「ドルンさん、その……これ直せそう?」

「んー、ここじゃ無理だな。流石にこうなっちまうと修理より打ち直す必要がある。だから炉が無いとどうにもならんな。とりあえずそいつは預かるぞ、曲がりっぱなしじゃ鞘にも入れれねぇしな」

「うん。あ、ヤマルもこれありがとう。風の影響受けないってすごいね、普段よりずっと楽に動けたかも」

「こっちは逆にこの強風きついなぁって思ったよ。確かにコレじゃ昨日二人がきつそうだったのも納得したし……」


 ドルンに剣と鞘を渡した後、コロナは背から銃剣を外し手渡してきたのでそれを受け取る。

 手に取った瞬間風が止んだかのように感じなくなったので、本当に《風守の加護》は便利だと改めて感心してしまう。


「それじゃカレドラさんとこ戻ろっか。報告しなきゃね」

「俺はちっと休んだら選定の続きだな。もっとじっくり見たいが、早めに当たりつけねぇと食料とか尽きちまうしな」

「私達は……」

「あぁ、ヤマル達は休んでていいぞ。ここ最近ゆっくりする時間も無かったしな。それに高地での戦闘後だ、少し疲れてるんじゃないか?」


 言われてみれば確かにそこまで動いたわけではないのに若干息苦しさを感じる。

 空気が薄いからだろうか。一番動いてたコロナに目配せすると大丈夫と言う回答が返ってきたが、少し休ませた方がいいかもしれない。


「ドルンは大丈夫なの? 昨日今日と俺ら以上に働き詰めだけど……」

「なぁに、ドワーフは頑丈だからな。それに気分が高揚してじっとしていられねぇんだ」


 任せろ、とぐっと拳を握りこみ力瘤を見せるドルン。

 肉体的な疲れはあるかもしれないが、精神が高揚してるせいで感じていないのかもしれない。

 ともあれドルンとていい大人だし分別はついてるはずなので、彼の提言通り素材周りは任せこちらは休ませてもらう事にした。



 なおゴーレムの魔石は報酬と言うことでこちらの物になり、コロナの剣の修理費に回す事になった。



 ◇



 カレドラの住処にて二日目の夜を迎えた。

 ゴーレム戦以後は特に何も無く……いや、時間が出来たのでカレドラに日本のことを再び教える事になった。

 いや、教えるだけなら良かった。

 しかし人の……ではなくドラゴンのやる気スイッチはどこにあるのか分かるものではないと痛感する事になる。あれだ、口は災いの元と言う言葉を本気で()()することになった。

 事の発端は昨日の話の続きである。武器の話から兵器の話になり、ミサイルの話になった。

 そしてミサイルを運用する戦闘機の話になり、音より速く空を駆け大火力のミサイルで倒すというざっくりした説明をしていたのだが、これが何かしらカレドラの琴線に触れたらしい。

 戦闘機に乗ったのかという質問から飛行機はあると答え、そして自分とどっちが速いかと言う話になり……。


 ……うん、端的に言うと数分間ドラゴンライダーになった。

 ゴーレム討伐前に自身が外に出たら大事になると言う話はどこへやら。カレドラは自分を摘み頭の上に乗せると思いっきり羽ばたき遺跡から一気に大空へと飛翔。

 正直どの辺りまで飛んだか全然分からないが、とりあえず雲の上に出たことだけは覚えている。

 後は記憶も途切れ途切れだが何か天地が逆さまになったり急降下したりしていたらしい。

 らしいと言うのは下からエルフィリアやブレイヴがその様子を見ていたからだ。

 とりあえず降りてから数分間自分は放心状態だったそうだ。

 乗ってる間に風圧で吹き飛ばされなかったり気圧で体がやられなかったのはカレドラが魔法か何かで守ってくれたかららしいが、正直その優しさはもっと別のところで使って欲しかったと思う。


 とりあえずあんな急上昇や細かい制動は戦闘機や飛行機じゃ無理だと言ったところで満足してくれたのは不幸中の幸いか。

 ドラゴンに乗って空を飛ぶと言う稀有な体験をしたなとブレイヴは笑っていたが、あんな大空でアクロバティックな動きをするものに乗るなど二度と御免である。

 ゲームとかで竜に乗り戦ったり世界を駆けるなどよくあるパターンだが、経験した今なら断言できる。

 竜に乗って平然としてるやつは人外だ、と。むしろ乗って戦うとか頭おかしいんじゃないか。

 そしてそんな経験をした今の自分ならバンジージャンプはおろかスカイダイビングですら児戯に等しいものだと感じれらる自信がある。単に自由落下するだけのものなどもはや恐怖するに値しない。


 と精神的に強くなった気はするものの体は正直に不調を訴えているわけで。

 半ばグロッキー状態で休んでいると、ブレイヴからちょっと良いかと呼び出しをされた。

 あんまり今は動きたくなかったけど、何やら人に聞かれたくないのかちょっと部屋の外で頼むとのことだったので大人しく彼の後に付いて行く。

 ……部屋を出て行く時にエルフィリアが何か期待したような眼差しをしていた気がするが見なかった事にした。

 彼女が腐海に落ちないことを切に願う。

 

 とりあえず部屋から出て通路まで二人して移動し、何の話なのか彼に尋ねた。


「それでどうしたの?」

「いや、昨日の事が少し気になったのでな」


 昨日の?と問い返すとどうやら昨日カレドラと話をしていたのをブレイヴは見ていたようだ。

 更に彼は自分がカレドラに何らかの願いを言っていることまで看破してきた。

 ……魔都であれだけやらかしてる人と同一人物のはずのに最近妙に鋭い気がする。


「その後卵の殻を持ってきただろう? 最初あれを貰う願いと思ったが、あの時はまだ誰も存在すら知らなかったはずだ。となると別のともなるが、ヤマルがこれ以上願うような話なぞ浮かばなくてな。最初は気にするほどでもないかと思ったのだが、改めて気になったのだ」

「あー……んー……」


 願いは確かに言った。ブレイヴの言うとおり卵の殻とかはおまけみたいなものであり、手に入れたのは願いとは別でカレドラが気を利かせただけである。


「とは言え無理に聞きだすつもりはない。が、あいつに頼む程の事なのだろう? 手伝えるのであればこの勇者ブレイヴ、手を貸すのも吝かではないぞ」

「そう……ですね。ではお言葉に甘えてもいいですか?」

「うむ、遠慮は要らんぞ。何でも言うがよい」


 ブレイヴが手伝ってくれるならとても心強い。

 何せ彼が居るだけで道中が楽になるのは実証済みだからだ。


「実はカレドラさんには自分が元の世界に戻った後のことで一つお願いをしたんです」

「ほう? 呼び出した人王国を滅ぼせとかか?」

「そんな物騒な話じゃありませんって……」


 あ、舌打ちされた。しかも『邪竜から国を守る勇者の構図』が出来なかったかと物凄く残念がっている。


「まぁうちのコロとか皆の事なんですけどね。やっぱり自分の都合で色々付き合わせちゃってるじゃないですか。それこそ今みたいに竜の住処なんて場所まで着いてきてもらってるわけですし」

「そうだな。しかしコロナは傭兵だし他の面々も各々理由があって着いてきたのであろう?」

「そうなんですけど、やっぱり私的理由につき合わせてますからちょっと心苦しいんですよね。これで無事向こう戻ったとして『はい解散』なんて流石に薄情すぎだと思いますし」

「ふむ」


 そういうものか?と言いたげなブレイヴだが、自分はそう言うものだと意志は伝えておく。

 ビジネスライクな感覚ならブレイヴの感性が正しいのだろうが、こんな自分に付き合ってくれている皆にはとてもそういう気持ちにはなれないのだ。


「それで皆はこの世界の住人ですし当然ここに残りますよね。自分が向こうで元の生活に戻るように、皆もここでそれぞれの生活に戻ると思うんですよ」

「ふむ、だろうな」

「なので自分としてはせめて皆には少しでも楽な生活を送って欲しいんです。特にポチは自分がいなくなると一人で稼ぐ手立てがほぼなくなっちゃうわけですし……」


 ドルンは所帯持ちだし将来も工房を継ぐだろうから生活に困るか困らないかと言えば困らないだろう。

 コロナは傭兵だが、あまり戦いたがらない自分の方針のせいで傭兵らしい実績は積ませてあげる事ができていない。

 エルフィリアは一応魔術師ギルドの一員なので収入源はあるが、少なくとも向こう五十年は森に帰ってくるなと言われている。

 ポチに至っては先も述べたとおりだ。


「つまるところ生活を安定させるにはやっぱりお金なんですよ。勇者的には意地汚く思えるかもしれませんけど、お金があれば少なくとも食うに困りませんし」

「いや、そこは分かるぞ。勇者である我とて霞を食べて生きている訳では無いからな」

「ありがとうございます。まぁそんな訳で全てが終わった後の生活の保証としての纏まったお金が必要と思いまして……」

「あぁ、だからカレドラに頼んだのだな」


 察しがよくて助かる勇者様だ。

 そう。カレドラへの願いは全てが終わった後再び皆がここに訪れた際に竜の素材を追加で幾分は分けてもらえないかと言うことだ。

 今回は使用用途も完全に換金目的だと正直に述べた。もちろん理由も一緒にだ。

 断わられても仕方ないとダメ元であったが、カレドラは異世界のことを話すという契約を条件に承諾してくれた。

 卵の殻についてはこれとは違う件で奥の部屋に行った際にたまたま見つけ貰っただけである。


「竜の素材は確かに莫大な財になろう。それこそ人間ならば一生困らぬほどだろうな」

「まぁ皆人間じゃないですが……。ともかくカレドラさんには素材をまた分けてもらえないかとお願いしたんです」

「なるほど。と言うことは我に頼みたい事と言うのはここまでの水先案内人か」


 はい、と肯定の意を示し首を縦に振る。

 ブレイヴがいればマレビトの森も安全に進める事が出来る。それにきっと帰りは荷物が多くなりそうなので、その護衛としても彼の存在はありがたかった。


「とは言えまだ先のことですけどね。今すぐにどうこうと言う話でもないですが、自分がいなくなった後にもし皆がブレイヴさんを訊ねたら手を貸していただければ助かります」

「良かろう。消え行く友人の願いを叶えるのも勇者の使命だ。しかと承った」

「消え行くって……いやまぁそうなんですけど、なんかそれだと自分死ぬみたいな言い方ですね……」


 とは言えブレイヴと約束を取り付けれたのは大きい。

 彼の強さはカレドラも、魔王であるミーシャも認めるほどなのだからとても頼もしく見える。


「あ、すいませんがこれ出来れば他言無用で……」

「構わぬが別に隠すほどのことではないと思うが?」

「……まぁそうなんですけど、この手の話は皆あまり好きじゃないですし」


 終活とは言わないが、皆へ何か残すと言う意味では通ずるものはあると思う。

 前にコロナとポチとこの話をしたときもちょっと大変だった。いつかは自分の口からは言うつもりだが、それまでは黙っておくつもりだ。


「自分の方からちゃんと皆には伝えますので……」

「ふむ、ヤマルがそう言うのであれば我の方からは何も言うまい。とりあえずこの話はここまでだな。話してくれて嬉しかったぞ」

「いえ、こちらもとても助かりましたので感謝してます」

「はっはっは。何、勇者として当然の事をしたまでだ。お、何か今のとても勇者っぽくなかったか?」


 自分で言わなければそうでしたね、と言う言葉をぐっと堪え、ブレイヴにはその通りだと返しておく。

 『そうだろうそうだろう!』と満足げに頷くブレイヴと肩を並べ、皆がいる場所へと戻ることにするのだった。



 


Q.換金用素材、今貰わないの?

A.物的な容量制限(ドルンが貰った分がある為)と、追加で貰った理由を問われたくなかった。

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