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ドルンと竜の武具

お久しぶりです!

ちゃんと生きてますよー!


「えーと、それで結果は……?」

「あぁ、滅多に見れないものが見れたからよしとするかの。後で探してみると良いぞ」

「あ、ありがとうございます」


 とりあえず何とか無事に済んだことにほっと胸を撫で下ろし、カレドラに対して頭を下げる。

 そして銃剣をしまっていると皆が一斉にこちらへやってきた。


「見てて心配したよ……」

「俺も死ぬかと思ったし……でもよく我慢したね?」


 コロナやポチの性格なら飛び込んでくるかもと思ったが、意外なことに終わるまでずっと見守っていてくれた。

 少しは信頼されたのかな、と思ったがどうも違うらしい。


「ブレイヴさんが『大丈夫だ。いざと言うときは任せろ』って言って……」

「止めてなかったらお二人とも飛び出してましたよね」

「むしろ掴んで止めたが正しいけどな」


 見ればブレイヴの右手には首根っこをつかまれたポチがプラプラとその身を揺らしていた。

 今もとても恨みがましい目をブレイヴに送っているポチだったが、彼が手を離すと綺麗に着地し一目散にこっちへとやってくる。


「うー……!」

「はいはい、ブレイヴさんも悪気あったわけじゃないから許してあげて」


 ポチを抱き上げ宥めながら集まった皆に魔宝石を探して良い許可を貰えた事を告げる。

 それを聞いた皆、特にコロナは問題なく終わったことで一番ほっとした表情を浮べてくれた。


「とりあえず手分けかな。形状は前スマホで見せたけどもう一回皆に――」

「ヤマル、すまんがちょっと待ってもらえるか?」


 バッグからスマホを取り出そうとしたところでドルンから待ったが掛かる。

 なんだろうと思っていると、彼はそのままカレドラの方へと向き直った。


「カレドラ殿、少し宜しいだろうか」


 普段のドルンとは打って変わり非常に畏まった態度。

 流石に悠久の時を生きるドラゴン相手ではドルンと言えどいつも通りとはいかないようだ。


「改めて名乗りを。手前はドワーフの村一の鍛冶師であるドノヴァンの息子、ドルン。ヤマルの旅には自身の知見を広めるために同行をしております」

「ふむ。ドワーフの村一の鍛冶師の息子と言うことは未来の棟梁と言うことか」

「今のままでは継ぐことはまだまだでしょうな」


 ドルンの腕はそれなりには知ってるつもりだったが、あの口ぶりからするとドノヴァンの方がずっと上と言うことなんだろう。

 そりゃまぁドルンの父で師匠のようなものだし届かないのは分かるが、一体ドノヴァンの腕はどの辺りまで行っているんだろうか。


「……なるほど、言いたい事は察したがあえて聞こう。何が望みだ」

「願いは二つ。一つはカレドラ殿の同胞の躯を暴く許しを」

「それはつまり、我らの体を元に武具を鍛錬すると言うことか?」

「はい。竜の素材は鍛冶に携わる者としてはまさに憧れの一品。そしてその製作に携われるのはまさに誉れ」


 日本のゲームとかだと竜の武具はとても高価というイメージがあるが、ドルンの口ぶりだとこの世界の竜の武具はそれ以上の位置づけなんだろう。

 そして二人のやり取りに弛緩し掛けていた空気が再び緊張を帯びてくる。


「ふむ。もう一つは?」

「もし一つ目が叶うのならば、カレドラ殿らドラゴンの体の秘密を教えていただきたく」

「ふむ?」


 体の秘密と言われ怪訝な声を出したのは他でもないカレドラ自身。

 その様子はまるでそんなものは無いと言いたげだ。


「ドルン氏、我もカレドラとはそれなりの付き合いではあるがそのようなものは聞いた事が無い。何の事だろうか」

「そうだな……。カレドラ殿にはあまり気持ちよい話では無いが、皆は竜の武具を見た事があるだろうか」


 その問いかけに首を縦に振ったのはブレイヴとミーシャのみ。

 コロナもあると言えばあるらしいのだが、それはサラマンダーや翼竜(ワイバーン)の素材を使った武具らしい。


「城の宝物庫に何点かあったはずね。目録しか見てないからどこにあるのかは詳しくは分からないけど」

「我は一応見たことはあるな。だがそれがどうした?」

「竜の素材は全ての素材の中でも加工が難しくてな。いや、難しいなんて代物ではないな」


 そう言ってふぅ、と一息吐き何かを思い出すようにドルンが少しだけ上を向く。


「仕事柄親父に着いて行く事が何度もあってな。俺はこれまでの人生で何回か、竜の武具を見る機会に恵まれた。そのどれもが、俺たちの実力を以ってして尚届かない代物ばかりだった」


 当時の事を思い出しながらぽつりぽつりとドルンが語る。

 どの武器も防具も竜の素材である故にとても強力な物だったと。

 そしてドノヴァンと共に手入れはしたのだが、どれも素材が良いのかそれこそ表面に着いた不純物を落とすぐらいしかやることが無かったと。


「だが、いや、だからこそか。俺たち鍛冶師からすればあの武具は()()()にしか見えなかった」

「しかし武具として強力な品々だったのは今ドルン氏自らが言ったことだろう?」

「あぁ、確かに武具としては一級品だ。それは間違いない。だがあれらは鍛冶師からして一級品だったか、と言われると首を傾げざるを得ないな」

「ふむ、我ら竜族の同胞(はらから)を用いたものであるならば確かに生半可な物では足元にも及ぶまいて。だがそれを以ってしても失敗作と言うのは腑に落ちぬな」

「いや、言い方が悪かったカレドラ殿。竜の素材に何ら落ち度はない。あるとすれば……我々鍛冶師側なのだ」


 上に向けていた視線をカレドラに向け、ドルンの言葉はなおも続く。


「例えば俺が見たものの一つに竜の爪を使った短剣があった。武器として見れば最上級品なのは保証しよう。だがそれは竜の爪に柄を取り付けた物だった」


 加工が難しい素材があり、そのまま取り付けるだけで従来の武具を圧倒する。

 なるほど、ならば手をつけずにそのまま出すのが最善だろう。

 調理で言えば刺身あたりだろうか。美味しい素材ならば塩程度で十分味が引き出せるのは素人の自分でも分かる事だ。

 ただし提供をする側としては話は別なのだろう。


「素材をくくり付けただけの武具を越えられないもどかしさ。なによりそれらに手を加えられない不甲斐無さ。鍛冶師としてあの時ほど無力を感じたことは無かったな」


 だが、とドルンは一息置くと改めてカレドラの方を見る。

 その目には静かな決意の光。強大な竜に対し、まるで鍛冶師の誇りを持って正面から見据えるようだった。


「しかし今日この目で竜を、カレドラ殿を見て思った。竜の素材は加工が出来るのでは無いかと」

「それがワシの体の秘密か。しかしてそのようなものは無いぞ? そもそも物を作ると言った行為が我ら竜族には必要の無いことじゃからの」

「えぇ、無論カレドラ殿は別段気にもしていないのでしょうな。自分が見たのはカレドラ殿が動く際、その鱗がしなっているところです」


 そしてドルンは言葉を続ける。

 

「少なくとも自分が見た鱗の盾はしなるようなものでは無かった。これが竜の膂力を用いて力づくで、となれば諦めるしかありませんが、そんなことはないのでしょう?」

「さて、普通に出来るやもしれんぞ?」

「出来るか出来ないかならば出来るでしょうな。ですが竜族ともあろう方々が一生そんな力技に頼るのか疑問が残りますな」


 事実を確かめるような言葉の応酬。

 ドルンの鍛冶師としての力は間違いなく本物。そして長年培ったその目は狂いは無いと思うが、果たして……。


「……ふむ、答え合せをする前に聞こう。仮に竜の素材を手に入れ、思うように物を作れるようになったとして、それで何を作る? より良い武器や防具か?」

「……そうですな」


 カレドラの問いかけに何かを考えるようにドルンは目を伏せ、そしてすぐに開くとまるで両腕を差し出すように真上に掲げる。

 いや、その両腕についている一対の盾を見て欲しいと言わんばかりだ。


「これはヤマルの持っている武器と一緒で変形機構が付いた盾、銘は《二重(デュアル)四枚盾(フォースシールド)》」


 それはドルンが人王国で製作した盾。

 一見先端が尖った板が二枚重なってるだけに見えるが、ドルンが言うようにあれは変形して盾になる。

 その証明とばかりにドルンが盾を操作すると、まず重なっていた部分が横にスライドし二枚の盾に変形した。

 更にドルンはその状態から腕を下げ脇を締め両腕を自身の目の前に構えるような格好をする。するとそれぞれの盾が合わさり、ドルンの姿ですら覆い隠す程の大盾へと姿を変えた。


 これがドルン謹製の《二重四枚盾》。その姿は盾と言うよりも壁、いや、要塞を髣髴とさせる。


「ほぉ、先の武器もそうだったがこの盾も物珍しさが光るな」

「しかしながらこの盾はある欠陥を抱えております。故に、まずはそれを克服するために使う所存」


 そう言うとドルンは合体していた盾を分離し手から外すと、その裏側をカレドラに見えるようひっくり返す。


「単純な防御力であれば鱗などを張れば事足ります。もちろんそれ以上もあるでしょうが、自分が行いたいのはこの部分」

「ふむ、継ぎ目か?」


 こちらからでは見えないがどうやらドルンは変形機構の要であるパーツ部分を見せたらしい。

 以前自分も見たことあるが、蝶番と金属パーツが合わさったアームのような形状をしたのを覚えている。


「盾ですが変形機構を取り入れたため繋ぐ部分の耐久に難があります。仮に盾の表層を竜の鱗で覆ったとしても根元が外れては意味がない」

「確かにな。だが盾と言うことはやはり武具と言うことなのだな」

「あくまで最初に使いたいのは、ですが。やはり最初は最も得意とするもので試すのが一番かと。そして自分はこの継ぎ目の部分を竜の素材を用いた『新しい素材』で作成しようと考えております」

「新しい……」

「素材?」


 そんな話を聞いたことも無いため思わず自分とコロナから問うような声が漏れた。

 そんな声にドルンはこちらを一瞥だけし頷くと再びカレドラへと向き直る。


「我が手で竜の素材を用いた『新たな素材』を生む。既存のありのままを使うのではなく、我ら鍛冶師の技術が存分に発揮できるよう、加工が可能な素材を。従来の物とは全く別の物になる素材は武具は言うに及ばず、きっと様々な分野へ応用出来る可能性を秘めていることでしょうな」


 武器や防具はもとより、道具、器具、建材、etc……。

 新しい素材が生まれることによる可能性はそれこそ無限大と言えるだろう。

 もしかしたら既存の常識をひっくり返すような物さえ出来るかもしれない。


「例え今後自分が死んだ後とて、後に続く者がそれを使い様々な物を生み出す。その一助の先駆けになれるかと思うとわくわくしますな」


 こちらからは見えないが、ドルンのあの声色から察するにきっとすごい良い顔をしているんだろう。

 以前見たドルンのこういうときの顔は傍から見ては不遜とも思えそうな表情なのだが、大抵は今後のことを思い内心うきうきしているのを自分は知っている。


「これが手前の胸襟を開いた本心。鍛冶師を生業とする者として、ドワーフの一族として、そして何より自分自身の嘘偽りなき言葉」


 いかがでしょうか、とドルンが強大な竜を再度真っ直ぐ見据える。

 果たしてカレドラは許可を出すのだろうか。

 カレドラの顔を窺うもじっとドルンを見据え、その表情から何を考えているのか自分には全く読み取れない。だがあの強大な竜種が真剣にドルンの言葉に耳を傾け考えを巡らせているのは分かった。


「もはやここに()()()()()()のも良い事ではない、か。いいだろう、ドワーフのドルンよ。必要な分を持っていくが良い」

「……ありがとうございます」


 深々と、本当に感謝を示すように深く頭を下げるドルン。

 彼のあのような姿は初めて見るが、それだけカレドラに感謝しているのだろう。


「そしてそちらは竜族の秘密と言ったが……それについては後ほど話すとしよう。多分あの事だろうしな。まずは必要な物を探すがよい」


 そう言うとカレドラは自身の巨体を横に少しずらす。

 するとその後ろから奥へと続く通路が現れた。おそらくあの先が竜族の躯が安置されているのだろう。

 少し前にカレドラは自身の影で見えないがと言っていたが、しかしあの通路はカレドラの巨体でも通れそうなぐらいの大きい道だ。

 薄暗いとは言え今まで見逃していた事につい疑問を感じてしまう。


「影と言うより隠蔽魔法ね。精度に大きさ、共にとても高いレベルよ」

「はぁー……すごいですね」

「ほんとに、ね」


 まるで自分の心を読んだかのようにミーシャがあの通路はカレドラによって隠されていたことを教えてくれた。

 しかし物理的にも魔法的にも高い上にカレドラを見る限り長寿種と向かうところ敵なしの種族に思える。

 ……なんでこんな辺境にひっそりと住んでいるんだろう。それにそんな種族が現在殆どいないと言う事も気になる点だ。


「どうした、魔宝石も仲間の安置所もこの奥じゃ。まずは往くがよい」


 カレドラに促されたので一旦その考えは横においておく事にする。

 そして竜の横を通り、自分達は竜の墓とも呼べる場所へ足を進めるのだった。


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