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魔国の首都・ディモンジア


「前方右からまたファングウルフが来ます! 数は三匹!」

「ヤマル、時間を稼げ! コロナ!」

「すぐ片付けるよ、終わったら向かうね!」


 カーゴの屋根の上からエルフィリアが近づく敵を察知し皆に知らせる。

 普段小声の彼女ではあるが、《生活の音(ライフサウンド)》によってその音量は大幅に増大していた。

 その横で銃剣を構え、エルフィリアが指差す方向に向け引き金を引く。


(当たらないとは思うけど……)


 エルフィリアの視力で見えてもこちらからは全く見えない。

 それでも銃剣の加護によって放たれた矢は視界から消えようとも真っ直ぐに飛ぶ。

 当たったかは不明だが今はとにかく進路を妨害するようにばら撒く。

 現在カーゴ付近ではコロナ達が同種の中型犬サイズの魔物と交戦しているからだ。


「ちっ、数が多い!」

「魔国の魔物って同種でも強いよね。土地柄かな?」

「考察は後だ! 今はどんどん斬りまくれ!」


 足元のファングウルフを()()()()()()そのまま絶命させるドルン。

 その隣ではコロナが手早く二匹の首を跳ね、即座に追加で向かってくる魔物の方へ駆け出していく。


(しっかしすごいな、あの盾……)


 上から見るドルンの新しい戦い方。

 王都で製作したドルンの盾は盾と呼ぶには異質な形状だった。

 彼の腕に沿うようにして取り付けられた盾は、一見すると先端がまるで刀の切っ先のような形をした板である。

 そんな盾の上に重ねられるようにやや小さくした同型の盾がもう一枚、それも両腕にだ。

 彼はこの盾を『二重四枚(デュアルフォース)(シールド)』と名づけていた。

 前回より盾の表面積は減ったが、代わりに腕の稼動域が増し形状的に攻撃性能も兼ね備えている。


 そしてコロナもドルンによって防具に手が加えられていた。

 現在彼女の左腕の手甲には補助パーツのようにある物が取り付けられている。

 それは弓矢だ。もっと正確に言えば小型のボウガンが適切だろう。

 エルフの里でバラバラにされたボウガンを元に、コロナの手甲に合わせ小型化して作り上げたのだ。


(それにコロの方も良く完成できたよなぁ……)


 手甲に取り付けられたボウガンの機構は弓矢と土台部分だけ。本来あるべき引き金部分は存在しない。

 そもそも剣を持って前線で戦う彼女にその様なパーツは返って邪魔になる。

 ではどのように発射するのか。

 それを可能としたのはドルンの魔道具作製知識応用だった。

 あれには小さい魔石がはめ込まれており、発射だけは補助してくれる仕組みになっているらしい。

 感じ的には彼女の意思一つで矢のストッパーが外れるとのこと。


 これによって今までコロナが持ちえなかった近距離以外の攻撃が可能となったのは大きかった。

 現に今までのように戦っている間に横を抜けられても、振り向き様にそれを使って後ろから攻撃をしていたのを何度も見ている。

 欠点としては自分の銃剣程威力と射程がない事だろう。

 一応その事をドルンがコロナに伝えたものの、彼女は動きながら撃つだろうから近距離補助で十分だと言っていた。


「ラスト!!」


 飛び掛るファングウルフがコロナによって袈裟斬りで両断され、ようやく戦闘に終止符が打たれた。



 ◇



「や、やっと着いた……」


 国境を出立しておよそ十日。

 通常よりは速いペースではあったもののようやく魔国の首都であるディモンジアへと到着した。

 ここに来るまでに先の戦闘のような事が何度もあった。

 街道沿いが比較的安全と言ってた気もするが、その比較的は魔族基準なのだろう。

 おかげさまで大きい傷は無かったものの皆生傷が絶えず、カーゴの表面も所々細かい傷が出来つつあった。


 いつもは門番に色々呼び止められたりするものだが、疲れ切ったこちらの様子を見ては色々察したのだろう。

 『魔国の洗礼は人間や獣人・亜人にはきつかったか?』などと軽口を言われた後、珍しく簡単な検査だけで中へ入れてくれた。

 ディモンジアは王都同様に高い壁で覆われているが、中に入るとそれ以上に高い建造物が姿を現す。

 他国では王城の様な特別な建物を除いては精々三階、たまにもう少し高い建屋があるぐらいだ。

 しかしこの国では標準が五階ぐらいとかなり高い。建築技術ならドワーフあたりが一番だと思うのだが、何か理由があるのかもしれない。


「ヤマル、今日のところは休んだ方が良いと思うんだがどうだ?」

「そうだね。宿を探して今日のところは皆ゆっくり休もう」


 流石にコロナやドルンですら疲労の色が見えている以上、今日はもう休んだ方が良い。

 特に魔国に入ってからは街以外では緊張続きだった。

 街道での野営も普段以上に気を使ったし、実際何回か夜襲を受けたりもした。

 どれもこれも大きな問題にはならなかったが、だからといって睡眠時間が削られたり緊張を強いられるのはあまり良くない。


「んで宿をどう探すかだが……その紙はなんだ、ヤマル?」


 宿の話題になったのでカバンの中から一枚のメモを取り出す。

 何を隠そうこのメモにはこの街でのオススメの宿が書かれているのだ。


「これ、女将さんの案内状」


 尚書いたのは言うまでも無く王都の女将さん。

 そして彼女が紹介する宿となればもはやお馴染みの光景が待っているのだろうと言うことは想像に難くなかった。

 皆が皆、多分自分もだろうが『あぁ、ここでもか……』とこれから見る光景を予想してはどこか諦めた表情しか出てこない。


「まぁとにかく行こう。きっと良い宿だろうし」


 少なくともそこを気にしなければ基本どの街の宿も値段は手ごろだし部屋も普通以上、おまけにご飯が美味いと言う事無しなのだ。

 全員その事は理解している為特に反対意見が出ることも無く、この魔国での拠点は無事決まることになった。


 なおここの宿の女将さんは蝙蝠の様な羽が生えただけの王都の女将さんにしか見えなかったのだが、いつも通り従姉妹と言うことで疑問は全て片付けられることになってしまうのだった。



 ◇



 明けて翌日。

 カーゴは宿の敷地内に預け今日一日は皆で町を散策しようと言う話になった。

 疲れが残っているのもあるが、初めて来る街で未だ右も左も分からない。

 その為に今日はこの街を知るべく色々と回る予定だ。


「ヤマル、まずはどこへ行くの?」

「差し当たって大通り辺りからかな。この街のギルドの場所は把握しておきたいし」


 そして昨日来た道を戻り街の正門から伸びる大通りへとやってくる。

 どこの街でもそうだが、メインストリートは大勢の人で賑わっていた。

 人王国と違うところと言えば立ち並ぶ店が一軒屋ではなく、建物の一階部分がお店になっているところだろう。

 二階以上はアパートかマンションとして機能しているのか、等間隔に窓が並んでいた。


「ヤマルさん、あれが魔王城ですか?」

「ん?」


 人と建物に圧倒されていると不意にエルフィリアに服の袖を引っ張られる。

 彼女がそう言って指差した先には人王国よりも立派な王城があった。

 いや、敷地面積なら多分人王国の方が広いだろう。

 しかし見える魔王城は建物の方が大きく見えてしまう。単純に高さがあちらよりあるせいかもしれない。


「立派な建物だな」

「そうだね。今回の旅じゃ行く機会なさそうだけどさ」


 行ってみたい気もするが今のところ用事があるわけではないので、こうして遠くから見ているだけに留めておく。

 しかし魔王城と言うことはあそこには魔王と呼ばれる人がいるはずだ。

 ゲームならばここが最終決戦前の最後の街と言った所なんだろうが、残念ながらこの世界の魔王は世界征服を企む悪では無い。

 あくまで魔国の王のような位置づけで魔王があるのだ。役職の様な物と言ったほうが適切かもしれない。


「まぁ時間があれば近くから見るぐらいはしてみよっか」


 魔王城の話題は一旦打ち切り、とりあえずこの国の冒険者ギルドを目指すことにした。

 しかし全く場所も何も知らないので近くにいた魔族の人を捕まえ道を尋ねる。

 十日前では物珍しかった彼らも、何度も見るうちにすでに慣れてしまった。

 道を教えてくれた人に礼を言うとまずはその足で冒険者ギルドへ向かうことにする。

 

 教えてもらった道順に従い冒険者ギルドまで無事辿り着いては中へと入る。

 魔族にも冒険者はいるものの、人王国とは違う様相に改めて国外なんだなぁと言った感想を抱いてしまった。

 見た限り彼らは基本ソロか少人数でしか組んでいないように見える。

 これは個人的な予想ではあるが、彼らの強さへの自負がそうさせているのかもしれない。

 どの魔族の人も筋肉質の体つきが多く、明らかに人に比べても身体能力が高いと思わせるような雰囲気を醸し出していた。

 そんな中に国外からの冒険者がやってきたのだから注目を浴びるのは無理ない事。

 強そうな人達から注目を浴びてしまったせいか、初めて人王国の冒険者ギルドに入ったときのような感覚を思い出してしまった。


 だがその後は特に何も無かった。

 注目はされ続けたものの絡むような冒険者は誰もおらず、至って平和的に受付にて居場所の報告を行う事が出来た。

 魔族の職員に礼を言い外に出ると、自分がほっと胸を撫で下ろす同じタイミングでエルフィリアも気が抜けたかのように大きく息を吐く。


「き、緊張しました……」

「皆強そうだったもんね。俺も結構圧を感じてたし……」

「まぁ何も言われなかったのは強者の余裕とかその辺なんだろ。んで次はどこいくんだ?」

「とりあえずは傭兵ギルドに鍛冶ギルドや他のギルド周りかな」

「……こうしてるとやっぱり案内役の方がいないと不便ですね」


 前回の獣亜連合国ではコロナが街中を案内してくれた為、エルフィリアのその言葉にどうしてもその時を思い出し今と比較してしまう。

 地元がここの人でもいれば案内をお願いすることも可能なのだが、この中では誰一人魔族の知り合いなどいないのだ。


「ほんと、()()()()


 誰に言うわけではなく苦笑しながらそう漏らす。

 この時特に何か考えていたわけでは無い。本当に誰かいれば良かったのにね、ぐらいの軽い気持ちだった。


「まぁまぁ。案内の人がいると楽だけど、こうしてたまにはヤマル達と一緒にのんびり歩くのも悪く……あれ?」

「どした?」

「何か人が離れてるような……」

「え?」


 確かにコロナの言うように、冒険者ギルドの前は大通りだというのに誰も彼もが目に見えて離れていっている。

 まるでこちらから距離を取るかのように……。


「……やっぱこのメンツだと珍しいからか?」

「それなら今まで魔族の人が普通だったのに説明が――」

 


『ふははははははは!! お困りかね、そこ行く外からの冒険者よ!!』


 

 大通りの喧騒を掻き分け、まるで高らかに宣言するかのごとく男性の声が周囲に響き渡る。

 一体何が、と辺りを見渡すもそれらしき人は誰もいない。

 ただこちらから離れている魔族の人の顔が何やら物凄く微妙な顔をしていた。

 なんと言えばいいだろうか。あえて言うなら『ご愁傷様』とでも言うような憐憫の目だったり、『また始まったよ……』みたいな諦めの表情をしている。


『こちらだ諸君!!』

「あ、あそこです!」


 エルフィリアが指差すその先、大通りを挟んだ向かいの建物の屋上にその人は立っていた。

 顔は自分の目では分からないものの恐らく魔族の男性だろう。

 白い長髪と真っ赤なマントをはためかせ、腰に手を当てた状態でこちらを見下ろしている。


「……誰?」


 思わず出た自分の問いかけに答えれるメンバーは一人もいない。

 だがまるでこちらの言葉がこの距離でも聞こえたのか、魔族の男性が高らかに自分が誰なのかを名乗りだした。


『我こそは勇者! 勇者ブレイヴ=ブレイバーだ!!』


 ふははははは!と再び高笑いする勇者を見て、間違いなくパーティーメンバーの心が一つになったと感じた。

 多分皆自分と同じ事を思っているだろう。



 ――――面倒くさい人に絡まれてしまった、と。



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