第1話 1週間前
<しゃん、しゃん、しゃーん。しゃん、しゃん、しゃーん>
という音が街に鳴り響くころ、わたしたちはいつものように部活帰りの道を一緒に歩いていた。
「先輩、もうすぐですね」
「なにが?通知表?」
「そんな胃が痛くなる話じゃなくて」
「じゃあ、祝日?。それとも冬休み」
「絶対にわざとですよね」
ジトーという目でわたしは先輩を見る。
「くっ、殺せ」
「何いってるんですか。なにかのネタ?」
わたしはキョトンとした顔になってしまう。
「わかっているよ。クリスマスだろ」
先輩はついに観念し自白する。
「もう、わかっているなら言ってくださいよ」
「さーせん」
クスクスふたりで笑いあう。彼と付き合ってから、いつもこんな感じだ。
「もうひどいな。先輩」
「悪かったよ」
「ほんとうにもう」
彼も本気で怒っているとは思っていない。じゃれているだけだ。
そこが本当におもしろくて。本当にかわいくて。本当に大好……。
最後の言葉は、わたしの理性でかき消された。
「はじめてのクリスマスですよ。いっぱい遊びましょうね」
「おう、ノリノリだな」
「それはそうですよ。だって、はじめてのクリスマスじゃないですか。それに……」
「それに?」
「来年は、先輩、受験であんまり祝えなそうじゃないですか。来年の分も楽しみますよ」
先輩の顔が少し赤くなった。
「……」
「どうしたんですか、先輩?」
「……なんでもねえよ」
「そうですか。なら、いいです」
先輩が小声で言っていたことは聞こえなかったことにしよう。
「来年もいっしょにいてくれること前提なんだな」
なんて当たり前のことなのだから。