笑ゥ女神さま
藤子不二雄A氏「笑ゥせぇるすまん」の女神版パロディー。
人間界をさまよう堕女神が授けるチートスキルで様々な欲望を叶える人間たちの模様を描く一話完結型ブラックコメディーです。
下界に堕とされた女神は人間のちょっとした欲望にあわせてチートスキルを授けますが、
チートスキルのことを誰かにしゃべるとその代償としてとんでもない異世界へ転生させてしまいます。
とりあえずプロトということで短編でだしますが、人気が出るようならシリーズ化して連載するかもしれません。(笑)
【プロローグ】
私の名は、迷我ミサ。人呼んで笑ゥ女神さま。
ただの女神じゃございません。
私が取り扱うのはスキル!人間の欲望を満たすチートスキルでございます。
「おーっほっほっほっほっほっほっほっ!」
この世は、老いも若きも男も女も、欲望を抱えた人ばかり。
そんな皆さんの欲望を叶えるチートスキルをお授け致します。
いいえ、お金は一銭も頂きません。
お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。
さて、今日のお客様は?
『名前:亜多良 内蔵(43才)平凡なサラリーマン』
「おーーーっほっほっほっほっほっほっほっ!」
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【第1話 宝くじの男(継続は力なり)】
炎天下の道端で突然男が倒れた。
男はその手に宝くじを握りしめていた。
「あれ?ここは?」
「おや、気がついたようね。」
「あなた熱中症で道端に倒れていたのよ。」
「あなたが助けてくれたのですか?」
「ええ、近くの喫茶店へ運んでソファーに寝かせておいたの。」
「ありがとうございます。」
「あ!そういえば…」
男は、そう言いながら自分の体中のポケットを探し始めた。
「もしかしてこれかしら? 亜多良 内蔵さん!」
女は、そう言いながら宝くじの10枚入った紙袋を差し出した。
「あ、それそれ!よかった。どこかに落としたのかと心配しちゃいました!」
男は女から宝くじを受け取りながら安堵の表情を見せた。
「あれ、どうして俺の名前を知ってるんですか?」
「おーーーっほっほっほっほっほっほっほっ!」
「それ、サマージャンボ宝くじでしょ?1等5億円だったかしら…」
「宝くじがお好きなの?」
「はい。実は一攫千金を夢見て宝くじを買い続けて今年で20年目なんですよ。」
「そう。20年間も買い続けてるなんてずいぶん一図だわね!」
「継続は力なり!ということかしら?」
「いやーそんなたいそうなものじゃないんですよ」
「惰性というか買い続けているうちになんとなくやめられなくなりまして…」
「いつの間にか季節ごとに毎回全種類のジャンボ宝くじを買うのが習慣になってしまったんですよ!」
「まぁ!それで酒も女も趣味もなく、やもめ暮らしの寂しく空しいアラフォーサラリーマンになったわけね?」
「ええ、そうなんで…え?いや俺そこまでは言ってないですよね!」
「まーでも、図星ですけど。いやーハハハ!お恥ずかしい!」
男はそう言いながら頭をポリポリかいた。
「わかりましたわ!」
「あなたは、そろそろ少しぐらい良い思いができてもいい頃よ!」
「私がその望み叶えてさしあげるわ!」
「おーーーっほっほっほっほっほっほっほっ!」
女は妖しく高笑いしながら名刺を差し出した。
『あなたの望みを叶えるスキルお授けします。
女神の巣 店主 迷我ミサ』
「迷我さん?」
「ん?人材育成か何かのお仕事をされているんですか?」
「いいえ、そのままの言葉の意味よ。」
「私は人が望むスキルを即座に授けることができるの。」
「では、さっそく授けましょう!」
「汝に女神の祝福あれ!」
女がそう言って男の頭に手をかざすと、突然、男は白く淡い大きな光につつまれた。
「うぁ!なんだこれは?」
男は自分の体が白く光るのを見ると驚いてソファーから転げ落ちた。
「おーーーっほっほっほっほっほっほっほっ!」
「そんなに驚かなくても大丈夫。もう終わったわ!」
「今授けたスキルを使えば、宝くじの当たりが見えるようになるはずよ!」
「アッハハ!そんな便利なスキルがあるはず…」
男がそう言うやいなや、
「じゃぁさっそくそのチートスキルを試しにいきましょうか!」
女はそう言うと男の手を引っ張って店を出た。
2人は近くの宝くじ売り場へやってきた。
「とりあえず、すぐ結果がわかるのが手っ取り早いわね!」
「あのスクラッチくじなんかどうかしら?」
そこにはウルトラマンと怪獣の絵が描かれたくじがたくさん並んでいた。
「これですか?」
「実は俺、スクラッチくじは買ったことないからよくわからないんです。」
「ずっとジャンボくじ専門だったもんで…ハハハ。」
「ほらそこに並んでるスクラッチくじを順番にじっと見つめてごらんなさい!」
男は言われるがままにくじを見つめてみた。
「あれ、なんか淡く光ってるくじがあります。」
「そう。どんな色かしら?」
「えっと、青色のがけっこうたくさんあって、黄色が5枚ぐらい、赤色が1つだけですね。」
「そう。じゃぁ赤が1等ね。」
「黄色は2等。3等以上は青色ってとこかしら…」
「それがあなたが授かったチートスキルの効果よ!」
「え? えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「ためしに、赤色のくじ買ってみたらどうかしら?」
男は半信半疑な顔をしながらも、赤く光っているスクラッチくじを1枚購入した。
「ア、アアアア…当たり」
「本当に1等が当たった。100万円!!」
「うぉぉぉぉぉぉ!これすげぇぇぇぇ!」
男はいきなり1等が当たった驚きで体が震えていた。
「これでわかったかしら?」
「このチートスキルを使えば、今後のあなたの人生は宝くじに当たり放題ってことね!」
「おーーーっほっほっほっほっほっほっほっ!」
「ママママ・マジですか?」
「こんなこと許されていいんですか?」
「ええ、そのチートスキルはあなたの願望が引き寄せたものだから、あなたの欲望のままに使えばいいわ。」
「ただし!1つだけ注意して欲しいことがあるの。」
「なな、なんでしょうか?」
「チートスキルは、この世界の理を書き換えてしまう危険なスキル。」
「だから絶対に誰にも知られてはならないの!」
「もしも他の誰かに知られてしまえば、
あなたはこの世界の強制力によってはじき出されてしまうことでしょう。」
「わ、わかりました!」
「もちろん誰にも絶対に秘密にしますよ!」
「ありがとう!本当にありがとう!ああ、あなたは本当に女神様のようだ!!」
「あら私、本当に女神なんだけど!」
「おーーーっほっほっほっほっほっほっほっ!」
女はそう言うとどこへともなく歩き去ってしまった。
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亜多良は、汗だくになりながら都内のスクラッチくじ売り場を回って赤色と黄色に光るくじだけを買い集めていた。
「1等が2枚、2等が26枚か。当たりを見つけるのが思ったよりたいへんだな。」
店の奥に積まれているダンボールが光っていても、
店頭に並んでいるくじが先に売りきれないと在庫を出してもらえないためだ。
「ん?」
次の宝くじ売り場にやって来た亜多良は、店舗正面に並べてあった赤色に光るくじを見て驚愕の表情をした。
「ココココココココ、コレは…サマージャンボくじの赤色!」
男は即座に赤色に淡く光るサマージャンボのくじのバラ(10枚入り)を購入した。
「よし、ゴゴゴ5億!5億円だぁぁぁ!!」
「これで俺も一生遊んでくらせる身分だぁぁぁぁ!!!」
店員からサマージャンボくじ10枚の入った小さな紙袋を受け取った亜多良の手は、あまりの興奮でプルプルと震えていた。
数日後、亜多良はスクラッチくじの高額当選金を受け取りに銀行へ来ていた。
今日は平日の金曜日だが、会社は仮病で休んでいた。
サマージャンボの抽選は8月に入ってからのためまだ賞金は受け取れない。
当たりくじは、亜多良の財布の中に入ったままである。
「よし!今日は週末だし前哨祝いだ!豪遊するぞー!」
亜多良は銀行員から560万円の現金の入った袋を受け取るとそのまま新宿へ繰り出すのであった。
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「ん?ここどこだ?痛っ…。頭が…」
亜多良は目を覚ますと公園の噴水の近くで寝ていた。
「あれ昨日飲み過ぎて途中から記憶がとんでる!」
亜多良は手に持っていた鞄から財布と現金の入っていたポーチを出し中身を確認した。
「よし、金と5億円の当たりくじはとられてない…」
亜多良は、ポーチの中にあった札束を取り出して数えた。
「ひーふーみ… 残り200万円ぐらいか。」
「昨日はかなり豪遊して金使っちまったからなー。まー無くなったらまた稼げばいいか。イヒヒヒ!」
「しかし、現金はともかく5億円の当たりくじ持ったまま酔っぱらって公園で寝てしまうのはまずいな。」
当たりくじがわかるチートスキルがあるとはいえ、
宝くじ売り場をめぐってジャンボくじの当たりを見つけるのは至難の業なのだ。
亜多良が現金と当たりくじを手に真剣に考え込んでいたその時、
「ゴン!」
突然、なにか堅いもので頭部を強くたたかれてその場に倒れた。
「イタタタタッ!」
亜多良が両手で頭を押さえながら少し視線を上げると、
セーラー服の若い女が逃げて行くのが見えた。
「くそ、現金と宝くじを持っていかれた!」
亜多良は、すぐに追いかけようと立ち上がったが、
昨晩の二日酔いと今殴られたダブルパンチのひどい頭痛で
足が思うように動かず、数歩歩きだした先でまた倒れ込んでしまった。
「おい!まてー!どろぼーー!!」
「だれか!だれか、その女を捕まえてくれー!!」
しかし、休日の早朝の公園にはほとんど人はおらず、亜多良の声はその場に空しく響きわたるだけだった。
亜多良は、急に気が遠くなりその場で気を失ってしまった。
あまりの暑さでふと目が覚めて時計を見ると、12時を過ぎていた。
「くそ、あの後気絶したのか!」
亜多良はゆっくりと立ち上がると、おぼつかない足取りで歩き始めた。
あのセーラー服は見覚えがあった。
この近くの学校のものだ。
「あの女がまだ宝くじを持っていればすぐにわかるはずだ!」
亜多良は意外と冷静に考えていた。
あの女の顔は見ていないが近くにいればわかるはずだ。
亜多良のチートスキルは、宝くじがポケットや財布の中に入っていても外から赤色に光って見えるのである。
亜多良はターゲットの学校に着くと、出入り口付近の木陰で息をひそめて出入りする女子高生を見張っていた。
一般的な高校は、もう夏休みに入っている時期だ。
しかも今日は土曜日で学校自体が休みのところも多い。
だから部活動か何かの目的がある学生しか出入りしていない。
もちろん、あの女が学校へ行っていないという可能性もあるが、
土曜日の早朝にわざわざセーラー服を着ていたということは、
なんらかの用事で学校へいく途中だった可能性は高いのだ。
「いた!みつけた!」
その女子高生のバッグは、赤く淡く光っていた。
顔はよく覚えていないが、逃げて行ったときの後ろ姿と髪型には見覚えがあった。
亜多良はそのままこっそりと女子高生の後をつけた。
女子高生は新宿駅から中央線にのって西八王子の駅でおりた。
そのまま後をつけると、小さなアパートの202号室へ入っていった。
「あそこか!」
亜多良は、一呼吸おいてから202号室の前に立ちチャイムのボタンを押した。
ピンポーン!
「はい。どなた?」
「実は今日ここの娘さんに財布を盗まれた者です。」
「警察へ届ける前に、いちおうご家族の方とお話しておきたいと思いまして伺った次第です。」
少し待っていると、中から何かどなり声のような言い争いが聞こえ、
その後10分ほどしてから、ゆっくりとドアが空いた。
ドアから顔をのぞかせたのは、犯人の女子高生とよく似ている別人だった。
「あの、お母様ですか?」
「ごめんなさい!」
「妹が、妹がとんでもないことをしでかしちゃって…。私姉の高橋由美子と申します。」
「そうですか。立ち話もあれですし、おじゃましても?」
「…はい。どうぞ…。」
女はそう言うと、亜多良を中へいれた。
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「…というわけです。」
亜多良はここまでの事情を端的に説明した。
「ゆかり!あんたなんてことしてくれたのよ!」
「ごめんなさい!どうしても欲しいものがあって…」
「公園でオジサンがお金たくさん持ってるの見てつい…。」
犯人の女子高生は、そう言って現金の入ったポーチと財布を差し出してきた。
亜多良はポーチの中の現金と財布の中の宝くじを確認するとホッっと安堵の表情をした。
「盗まれたものは、無事戻ったようです。」
「では、これから警察へ向かいますので一緒に来て頂けますか?」
その瞬間、ゆかりは驚いたような悲しいような複雑な表情をしてみせた。
「あの、姉の私が言うのもあれですが…」
「妹のゆかりは普段は本当にいい子で、今までこんなことしたことなくて、その…魔がさしたというか…」
「許せと言うんですか?」
亜多良は怒鳴るように一喝した!
そしてさらに、殴られた頭のキズを見せながら、
「あのねお姉さん、いや由美子さんだったかな。」
「たとえかすり傷でも相手に負わせたら強盗罪なんです。」
「強盗は初犯でも実刑確実な重罪ですからね!」
「これは子供がコンビニで万引きしたような単なる窃盗とはわけが違うんですよ!」
「なかったことになんて無理です!」
亜多良はそう言い放つとその場で立ち上がった。
「さー行きましょうか。学校にも連絡しないとならないし。」
「今日はやることがいっぱいだ!」
「そんな学校に連絡されたら退学になっちゃう…」
ゆかりは悲しそうに小さくつぶやいた。
「うちは両親を事故でなくして2人だけの姉妹なんです。」
「私の少ない稼ぎでやりくりしているせいで、妹にはずいぶん不自由をかけてしまっていて…」
「その、私も悪かったんです。」
「お願いです!なんでもします。なんでもしますから!!」
「今回だけ、今回だけは見逃してください!おねがいします!」
由美子は、亜多良の足元にすがりついて懇願し続けた。
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小さなホテルの一室から女の声が聞こえていた。
「アッアッアッアッアッアッ…」
事が終わると男は服を着ながら話し始めた。
「おい、これだけで済むと思うなよ!」
「しばらくは定期的につきあってもらうからな!」
そう言うと、男は部屋のドアを開けて出て行ってしまった。
女は茫然とした目でその男の背中を見送るしかなかった。
「由美子とかいったな。22歳か。少し老け顔だがいい体してたなぁ~。ウヒヒヒヒ。」
「これでしばらくは楽しめそうだ。まー飽きたら妹の方も食ってやるか。ウッヒッヒッヒッヒッヒ!」
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その夜、亜多良はまた新宿の高級クラブで泥酔していた。
「おい、もっと若くてピチピチしたのはいねーのか?」
「そんな!お客さんあたしたちだってピチピチだよぉー!」
亜多良は両隣で一緒に飲んでいたホステスの言葉を鼻で笑うと、
ふと隣の席に座っている真っ赤なワンピースの若い女を見た。
「おい、あの女超俺の好みだぜ! あれがいいな!」
亜多良は立ち上がると、隣の席の女の肩に手をまわしながら話しかけた。
「おい、こっちの席にも来てくれよ!」
「俺、あんたのことめちゃめちゃ気にいったぜ!」
亜多良はそう言いながら、女の胸元の割れ目に直接万札をねじ込んだ。
「ちょ、ちょっと、その人はダメ!」
亜多良と一緒に飲んでいたホステスがあわてて亜多良の腕を引っ張って元の席へ戻そうとした。
そのとき、
「もーおせーよ!」
「おっさん、俺の女にいいことしてくれたみてーじゃねーか!」
高級そうなスーツをビシっと決めて黒いサングラスをかけた強面の男が亜多良の胸元をつかんで睨んだ。
「なんだ!モンクあんのか!俺は客だぞー!」
「金だって持ってるんだ!ほら!」
亜多良はそう言って、100万円の札束を取り出して男の前でビラビラちらつかせた。
「おー! おっさん、金持ちだなー!」
「まー今日のところは、これでカンベンしといてやるよ!」
男は、亜多良から札束をひったくって周囲に立っていたチンピラ風の男たちへ目で合図を送った。
「お客さん、ちょっとこちらへ・・・」
亜多良は、2人のチンピラに左右から腕をつかまれながら、店の外へ投げ出された!
ズドーン!
「なんだ、金だけとって追い出すつもりか!」
「こんな店二度とくるか!」
亜多良はそう捨て台詞を残すと、夜の街をフラフラな足取りで歩いていった。
「おい、あのおっさんまだまだ絞れそうだったぞ!」
「何の仕事してるのか調べておけ!」
「了解しました。ボス!」
サングラスの男は、配下のチンピラにそう指示を出すと、ニヤニヤと笑った。
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昨晩豪遊してスッカラカンになった亜多良は、また宝くじ売り場めぐりをしていた。
「1等が1枚。2等が18枚か。今日は不作だな。」
亜多良はそうつぶやいてから、公園のベンチに腰かけて
購入したスクラッチくじを手早く削っていた。
「おいおい、ジョーダンかと思ったらマジかよ?」
「本当にスクラッチくじで稼いでたのか?」
「ん?あなたどこかでお会いしましたっけ?」
亜多良は少し焦りながらも、その男の顔を思い出そうとしていた。
「なんだ、もう忘れたのか?」
「昨日俺の女に手を出して慰謝料払ってくれただろ!」
「あの、すいません。おれ昨晩はかなり泥酔してて記憶がほとんど飛んでるんです。」
「ダメだぜおっさん!」
「昨日もらった金額じゃぜんぜん足りねーんだから!」
亜多良が焦りと暑さで顔をこわばらせていると、
「なんだ酒が入ってねーとただの大人しいおっさんか!」
「昨日の勢いがぜんぜんねーじゃねーか!ワッーハッハッハッハッハッハッハッ!」
「あの、おいくらお支払いすればよいのですか?」
「そうだな、金よりそのスクラッチが当たる仕組みを教えてくれよ!」
「…あ、これはたまたま運よく当たったというか…」
「おいおい、今日はずっとおまえさんの後をつけて見てたんだぜ!」
「その買ってきたスクラッチくじ、全部1等と2等しかねーじゃねーか!」
「どうやったらそんなに的中させられるのか教えたら女のことは許してやるよ!」
(しまった!見られてたのか!)
亜多良は焦っていた。
チートスキルのことは内緒にしておかなければならない約束だ。
「いやー、これはただ運が良いというかそれだけで…」
「ふざけんなー!!こらー!!そんなことあるか!!!」
サングラスの男は、突然一喝すると周囲に目で合図をおくった。
その直後、亜多良は2人のチンピラに両腕をつかまれて公園の木陰の奥へつれていかれた。
「許してくださーい。本当に何もしらないんですー!」
「まーその体にじっくり聞いてみるさ!」
ドガッ!
グギッ!
バギッ!
ゴギャッ!
「ガッ…ガハッガハッ。」
亜多良は3人の男たちに殴り続けられた。
「わかりました。話します。話しますからもう許して!」
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「女神?」
「チートスキル?」
「うーん信じられんな。そんな話。」
「本当に本当なんです。これ以上痛い思いしたくないし。これから証明しますから!」
その後、亜多良は男たち3人に匹連れられて東京中のスクラッチ売り場を回らさせられた。
「おいおい!こりゃ本物だぜ」
男たちは、自分たちが削ったスクラッチくじが全て1等か2等のみだとわかると驚愕の表情をした。
「まーだいぶ儲かったし、今日はこれぐらいでカンベンしてやるぜおっさん!」
「たしかスクラッチくじってのは、定期的に新しいシリーズに代わるんだったよな?」
「はい。」
「よし、じゃー今後は新しいスクラッチくじが出るたびに俺たちにつきあってもらおうか!」
「ええ?それじゃ約束が違います!」
「はぁ? 俺が何を約束したって? ヤクザをなめてもらっちゃいけませんなー!」
「おっさんには、これから一生おれたちの金ズルになってもらうんだからな!」
「いいか、逃げようなんて思うなよ!その度に痛い思いすることになるぞ!」
「そそそ、そんな…」
「まー俺たちも鬼じゃねー!ほら、今日のおっさんの取り分だ!」
サングラスの男はそう言うと、自分の財布から5万円を手渡した。
「たまにはいい女だって抱かせてやるぜ!」
「ワッーハッハッハッハッハッハッハッ!」
亜多良は恐怖で顔をこわばらせて5万円を握りしめたままガックリとうつむいた。
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その日の夜、ヤクザの監視をうまくまいた亜多良は、羽田空港へ来ていた。
「逃げるしかない!」
あんなヤクザたちに目をつけられてしまっては、もうこの東京で楽しく暮らしていくなんて無理だ!
亜多良は逃亡がさとられないように着の身着のままで家から出てきていた。
亜多良は、最短で乗れる北海道行きの航空券を買い、そのまま搭乗手続きを済ませた。
「東京ともしばしお別れか!」
亜多良は走り出した飛行機の窓から東京の夜景を眺めながらそっとつぶやいた。
会社だけは連絡しておこうか?
いや下手に連絡して俺の所在がバレたらまずいな。
職場の仲間には悪いが、このままダマって去ろう。
亜多良は財布の中にしまってあったサマージャンボ1等の当たりくじを取り出した。
「これが見つからなかったのは不幸中の幸いだったよマジで。」
亜多良はそうつぶやくと少しだけホッとした表情で5億円の当たりくじを見つめた。
次の瞬間、急に胸のあたりが白く光りそのまま大きな白い光につつまれた。
「うあーなんだ?」
気づけば、亜多良は真っ白な世界に1人立っていた。
目の前には巨大な門がそびえたっている。
「おーほっほっほっほっほっほっほっ!」
「ここへ召喚されたということは、あなた約束を破ったのね!」
男のとなりには、いつの間にかミサが立っていた。
「ゴメンナサイ。俺痛いのが苦手で。無理やり言わされたんです。」
「お願いです。俺を戻してください!」
「おーほっほっほっほっほっほっほっ!」
「あなたはすでに前にいた世界からはじき出されてしまったの。」
「もう元の世界へは戻れないわ。」
「さぁ転生の門を、通りゃんせぇーーーーーーーーーー!!」
バァーーーーーーーーーーーーーーーン!
突然、大きな門が開き男は飲み込まれてしまった。
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【転生後の世界】
どことも知れない森の中で複数のゴブリンに襲われた男は、
がんじがらめに縛られて引きずられていた。
(どうやら命は助かったようだが、いったいどこへ連れてこうっていうんだ…)
男は、ふと一番太ったボス風のゴブリンと目があった。
「ギッーシッシッシッシッシッシッシッ」
太ったゴブリンは、厭らしい目つきで男のケツをチラチラと見ていた。
「おいまさか!こいつゲイのゴブリンか?」
「ギッーシッシッシッシッシッシッシッ」
「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「俺の…オレの…オレの純ケツがこんなきもいゴブリンにぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
「ギッーシッシッシッシッシッシッシッ」
男の叫び声とゴブリンの厭らしい笑い声は、
いつまでも森の奥に響き渡るのだった。
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【エピローグ】
~公園の公衆便所にて~
「そこにいる人!すまんがティッシュ持ってたら上から投げてくれんか」
「ティッシュはないけど、かわりにこれどうぞ」
そういって、女は小さな紙切れを1枚投げ入れた。
「あんた、これ宝くじじゃないか!」
「ええ、でも捨てようと思ってたやつだから、それ使っていいわよ」
「なんだハズレくじか。じゃ遠慮なくケツふかせてもらうわい。ありがとな!」
「ん?あれ?女の声?ここ男便所だぞい…。まええか。」
…そう言って、老人は女からもらった宝くじの紙で満足そうにケツをゴシゴシぬぐった。
(それ1等5億円の当たりくじなんだけどね…。)
「おーほっほっほっほっほっほっほっ!」
女は甲高く妖しい笑い声を上げながらゆっくりと立ち去っていった。