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世界平和と宝石探し  作者: 月白 紫檀
第一章 隣村にて
9/18

その青年、最強

俺はサギのいる方へ視線を向ける。サギは目の前にいる朱いヤツ…『サラマンダー』と対峙(たいじ)している。そして、サギの斜め後ろには、未だに一匹のリザードが困惑した様子でいる。


「いつまでそこにいるんだ?そこにいたら死ぬぞ」


彼はチラッとソイツを見て言う。リザードはサギの気迫におされたのか、一目散に橋らしきものがある方へと逃げて行った。


あれ、アイツ逃がして良かったのか?リザードってここら辺にはいなかった筈じゃ…


「…さぁて、これで邪魔者はいなくなった。ここからは俺が相手だ。かかって来い」


チョイチョイッ、と彼は人差し指で軽く挑発する。


もはやリザードは邪魔者扱いなのか…。何か可哀想。


「ギャォォオオオッ!!」


ヤツは口を大きく開け、もの凄いスピードでサギに突進する。あと少しで牙がとどく―――と言ったところで彼はサッと左に避ける。ガチッと音を立てて、口は空を噛む。ズザザザァーッと土埃を巻き上げ、数メートル先まで行った所で止まった。


ギョロッと血走った目でサギを睨む。


「惜しかったなぁ。でも、そんなんじゃあ俺を食えやしないぜ?」


と、切っ先が血で濡れたダガーをチラリと見せながら、口元に薄っすらと笑みを浮かべて言う。


どうやら、今の一瞬で喉元に刺したダガーを回収したらしい。余裕すらも感じられる表情から、この緊迫した状況を楽しんでいるのが見て取れる。


俺にはその思考が理解できない。


サラマンダーはゆっくりとサギの方へ体を向ける。チラリと炎が舞った―――その瞬間、


バンッ!!


爆音とともに炎が爆ぜる。着弾点は黒く焦げており、その火力を物語っている。サギの姿はそこにはない。


「危ない危ない。危うく炭になるところだったぜ」


どこからともなく声が聞こえて来る。サラマンダーは首を持ち上げ、キョロキョロと辺りを見渡す。俺もその動作につられてサギを探す。崖の上から見てるのに、姿が見当たらない。


「おいおい、どこ見てるんだ?こっちだせ?」


サラマンダーはバッと後ろを振り向く。


「惜しい。そっちじゃないんだなぁ」


笑いを含んだ声が聞こえて来る。


「じゃあ答えを教えてやろう。答えは―――」


ジャキッと音が聞こえ、ヤツの足元がみるみるうちに赤く染まっていく。


「ギャアアアッ!!」


悲鳴が轟き、俺は思わず耳を塞ぐ。その間にヤツの腹の下からサッと出てきたのは、真っ赤な返り血を所々に浴びたサギだった。


「背後を見たのはいい判断だったとは思う。だがな、四足歩行のお前らが気にしなきゃいけないのは背後じゃない。足元だ」


あと頭上な、と上を指差しながら付け足す。


人間ですらも言われないとそこまで気にかけないっていうのに、野生の生き物にそれを言うのか…。言葉ってあんまり通じないんじゃ…


そこまで考えて、ふと隣にいるちっこいのを見る。サギとサラマンダーの攻防を、一瞬たりとも見逃すまいと食い入るように見ている。


そう言えば、こいつも俺の言葉って分かってないんじゃないか?だとしたら、よく「行くぞ」って言っただけでついて来たなこいつ。雰囲気と動作だけで理解したっていうのか?そんなことって出来るのだろうか。


ちっこいのは俺の視線に気づいたのか、パッとこっちを向く。そして、どうかしたの?と言うかのようにコクッと首をかしげた。


…まぁ、俺も同じようなもんか。


「何でもない」


そう言って俺は首を横に振った。再びサギの方へ視線を戻す。サラマンダーは、ボタボタと鮮血を垂らしながら、ボゥッと口から炎を散らす。


「…ふむ、流石にこのまま一方的ってのも可哀想か」


と言って、彼は少し考えるような素振りをする。何かよからぬことを言い出しそうな予感…


「よし、じゃあこうしよう。俺はここから一歩も動かない縛りで相手してやる。思う存分、攻撃してこいよ」


嫌な予感的中だよ!一歩も動かないってことは、ヤツの攻撃を全部防ぐってことだろ?回避するんじゃなく。…まぁ、サギなら戦闘慣れしてるっぽいし、出来そうかも……って、ん訳ないだろ!!何考えてるんだよあいつ!


「俺は動かなくてもお前を倒すことなんて出来るしな」


ちょ、それフラグだって!


そんな俺の心の声が聞こえてる筈もなく、彼は右足を少し後ろに引き、短刀を逆手に持ち替える。


「ギャオオオッ!!」


サラマンダーは、思いっきりサギに向かって走り出す。口からは火の粉を吹き出しているが、口を開ける気配はない。顔を下に向けた。まさか頭突きするつもりか!?サギはそれを見て、短刀の(みね)の方をヤツに向け、目の前で構える。一歩も動こうとしない。減速することなく、ヤツは頭から突っ込んで来る―――!


ガチンッ!!


「ギャアッ!?」


重い音が響き、サラマンダーがぶつかった衝撃で二、三歩後ろへよろける。そして、何が起きたのか分からないといった様子で目を白黒させている。


…俺にも何が起きたのか分からない。今のは、どう見たってサギが吹き飛ばされる側だった筈だ。だが、実際にはサラマンダーの方が後退した。それってつまり、ヤツを力で押し負かしたってことだろ…?そんなことってあり得るのか…?


「俺が吹っ飛ばない事に驚いてるって顔だな。言った筈だぜ?俺は一歩も動かないって」


防ぐって意味でも適応なのかよこの縛り!?ってか、何でそっちの意味も追加したんだよ!


「お前の力はこんなもんじゃないだろ?ほら、かかってこいよ」


彼は挑発的に短刀をちらつかせる。サラマンダーは後ろへ下がり、口を大きく開ける。どうやら火炎弾を飛ばそうとしているらしい。力で押し負けるなら焼いてしまえ、ってか?洒落(しゃれ)にならないぞ…


火の粉が一層多く舞う。少し胸を反らし、力を溜めこんでいるようだ。そして、


「ギャォオッ!!」


ドンッ


吠え声と共に大砲のようなくぐもった音が聞こえ、炎の砲弾は凄まじいスピードで一直線にサギへと飛んでいく。彼は向かってくる炎の球を、ジッと冷静な目で見つめ――――


ビュッ!


バンッ!バンッ!


空を斬るような音とともに、サギの背後、二箇所で爆発が起きた。着弾点が少し(えぐ)れ、黒く(すす)焦げている。今までよりも強烈な砲撃だったことは明らかだ。


それなのに。


サギは炭になるどころか、火傷(やけど)一つしていない。まるで何事もなかったかのように、平然と短刀を眺めている。


…斬ったのか?あの炎の球を。…短刀で?


「…で?まさか今ので終わりか?」


チラッと横目でサラマンダーを見る。サラマンダーは口を僅かに開けたまま、唖然(あぜん)としている。


「あんな程度の火炎弾じゃあ、俺は倒せないぜ?」


あの威力であんな程度…?こいつ、頭おかしいんじゃないか…?いやまぁ、元から人と思考回路ずれてたけど…


「お前には一回手本を見せてやる必要があるっぽいな」


…え?手本?


「いいか?火炎弾っていうのはなぁ…」


そう言って、左の手のひらを上に向ける。すると、何もない筈の空気中から、手の上に渦巻くように炎の塊が作られていく。丁度手でつかめるくらいの大きさで、ヤツが放ってきたものよりも一回り小さい。それをサラマンダーに向け、


「こういうやつのことを言うんだよ」


彼がニヤッと不敵に笑う。そして、


「食らえ、火炎弾(フレイムブレット)


ビュンッと赤い線が視界を横切る。直後、


ドカンッ!!


「ギャアアアアッ!!!」


腹に響くような爆音に、熱風が巻き起こる。炎が大きく立ち上り、瞬く間にサラマンダーを包んでしまう。


「………………」


俺は暫く開いた口が塞がらなかった。


…何なんだよ、あれ。サラマンダーのやつと桁違いじゃないか。ってか、あれって俗に言う魔法ってやつじゃないか?何で使えてるんだよあいつ。しかも、明らかに強力なやつじゃないか。それを手本として見せるって…


……何者なんだよ、お前。


サラマンダーは、まとわりついている炎を何とか打ち消そうとのたうち回っている。だが、動けば動く程に傷口から血液が流れ、辺りを赤く染めていく。


「まさかサラマンダーが炎に焼かれる様を見ることになるとはなぁ」


彼は物珍しそうに、必死に動き回るヤツを観察している。


考えてみれば、サラマンダーが焼かれてるって何かおかしくないか?普通、炎を使うやつは炎に強い筈だよな…。常識を根底から(くつがえ)す状況じゃないか。


次第に黒くなっていくヤツの鱗。徐々に動きが鈍っていく。半開きの口の中は、焼けて(ただ)れ始めていた。


そして、


「ギャアァァァ……ッ!」


天に向かって悲痛な断末魔を響かせ、ドサッとその場に崩れ落ちる。ヤツを包んでいた炎は急速に勢いをなくし、フッと消えてしまう。ヤツの姿はただの大きな黒い塊と化していて、もはや原型をとどめていない。辺りには、至るところが赤黒く染まった地面と、炎のついた小石程度の塊が転がっているだけだ。


「ほら、だから言ったろ?俺は動かなくても、お前を倒せるって」


黒い塊となったサラマンダーに向かって言う。


そして、俺はその言葉を聞いて確信した。


こいつ、バケモノだ……と。

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