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世界平和と宝石探し  作者: 月白 紫檀
第一章 隣村にて
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朱き鱗を持つ者

俺がリザードへの抵抗力を喪失していると、ザワザワと風が吹き始めた。俺の腹に乗っていたリザードが、急に後ろを振り向く。


「ギュオォォォオ!!」


突然、何処からともなく、空気をビリビリと振動させる声が響き渡る。その声に俺は思わず肩をすくめる。


「な、何だ!?」


リザードが俺の上から降りる。急いで体を起こし、声のした方を見る。そして、


「……え?」


俺は想像もしていなかった光景を見た。


大きな朱いトカゲのような生き物が、たむろしていたリザード達を丸太のような太い尾で薙ぎ払う。ドガッ、と重く、鈍い音が響いた。薙ぎ払われたリザードは、そのまま岩が突き出た崖の斜面に勢いよく激突する。バンッ、と叩きつけられた音がして、斜面にくぼみが出来る。リザードはドサリと力なく地面に落ち、それきり動かなくなってしまった。


俺は、一瞬夢を見ているかのような感覚にとらわれる。全てが白黒のスローモーション映像を見ている、そんな感じだ。


「ギャオオォォォォオ!!」


ヤツのけたたましい鳴き声でハッと我に返る。


「ギギギ…」


足元を見ると、先程俺にからんできたリザードが、怒りをたぎらせて唸っていた。


その様子から、ヤツがリザード達の仲間でないことが理解出来た。


「こっちだ、こい!」


俺は小声でリザードを呼び、瞬間的に右手の方へとぶ。次の瞬間、俺達がさっきまでいた場所に炎の球が飛んでくる。それは、着弾するとともにちょっとした爆風を起こす。すぐに火力が収まると、そこには黒くすすけた地面があった。


少しでも判断が遅れていたら、俺の命は無かっただろう。そう思うと背筋がゾッとする。


…あれ?そう言えば、あのちっこいのは…?


まさか……


最悪の事態が脳裏をよぎる。


「リザード!!」


俺は思わず大声で呼ぶ。


「ギュッ」


すると、俺の背後から返事が返って来た。急いで振り返ると、そこには、ちょん、と俺の足元に避難しているリザードがいた。


「良かった…」


俺は心底ほっとした。そして、パッと辺りを見渡す。どこかに身を隠せる場所はないだろうか…


朱いアイツの動きを気にしながら、急いで隠れられる場所を探す。すると、


「ギュッギュッ!」


と、どこからか声が聞こえて来る。声のする方に目を向けると、さっきまで俺の足元にいたはずのちっこいのが、岩陰から俺の方を見て鳴いていた。


こっちこっち!


そう呼ばれている気がした。


「ギュオォォォオッ!」


少し離れたところで、リザード達の怒号が響き渡る。朱いアイツは、そちらに気を取られているようだ。俺はサッと身を屈め、リザードのいる岩陰へ素早く移動した。


「教えてくれてありがとな」


軽くリザードの頭をなでる。リザードは気持ち良さそうに目を細めた。


再びヤツに視線を移す。朱塗りの鱗に燃え盛る炎のような目。強靭(きょうじん)な脚に獲物の肉を食いちぎる事に特化した牙。そして肩には、リザードのそれよりも大きく鋭く尖った突起。どれをとっても、リザードよりも強暴であることを物語っている。


あんなヤツが近づいて来ていたら普通は気づく筈なのに、何で気づかなかったんだろう…俺。


そんな事を考えている間に、3頭のリザードが朱いヤツを取り囲み、次々と攻撃している。1頭がヤツの前脚に噛み付く。しかし、ヤツはひるむ事もなく、口を大きく開けリザードに食らいつく。


「ギュアアァァァアアッ!!」


リザードの悲痛な叫び声が響き渡る。ヤツはブンブンと首を横に振った後、ポイッと前方にリザードを放る投げる。リザードはドサッと地面に落ち、瞬く間に周囲を体液で赤く染めた。


力の差は歴然だった。


リザード達よりも一回りは大きい身体(からだ)から繰り出される一撃は、全てが殺傷力を持っている。近づけばあの牙で肉を食いちぎられ、逃げようものなら灼熱の炎で焼かれる。かと言ってこのままジッとしていれば、ここら一帯の生態系が崩されることは目に見えていた。


…どうすればいい?


ヤツは目の前にいたリザードを睨みつける。口を僅かに開くと、そこから火の粉が吹き出す。それは風に乗って空高く舞い上がった。リザードは口を大きく開け、臆することなくヤツに飛び掛かる。ヤツはゆっくりと口を開いていき、さらに火の粉を散らす。


俺は、次に何が起こるのか予想できてしまった。その瞬間を見たくなくて、思わず目を閉じる。


バンッ!と、炎の球が爆ぜる音が聞こえた。


「ギャアァァアッ!?」


ヤツの驚いたような声が響く。不思議に思って目を開けると、ヤツは体を横に投げ出しもがいていた。頬のあたりにダガーが刺さっている。跳びかかった筈のリザードは、ヤツから少し離れたところで目を白黒させていた。


俺とちっこいリザードは顔を見合わせる。


次の瞬間、一陣の風が吹いた。


「やれ、何かしら来るとは思っていたが…」


声の主は、ストッと崖の上から降りてくる。


「まさかお前だったとはな、サラマンダー」


「サギ…!」


思わず岩陰から身を乗り出す。


「よう、ハク。時間稼ぎ、見事だったぜ」


「そりゃ、どうも…」


来るならもっと早く来いよ…


「ここからは俺がやる。お前はそのちっこいのを連れて離れて見てろ」


そう言いながら、サギは短刀を取り出す。


俺がやるって…この朱いヤツを一人でってことか?それはいくら何でも危険すぎるだろ。


「…一人で大丈夫なのか?」


「俺を誰だと思ってるんだ?任せとけ」


うわぁ…何だそのベタな台詞。全く大丈夫に聞こえない…


「ほら、さっさと行け。巻き添え食っても知らんぞ」


俺の方を全く見ずに言う。ヤツは瞳に怒りを宿し、口から火の粉を散らしている。


…あの炎の巻き添えになるのは嫌だ。


「…分かった。行くぞ、リザード」


「ギュッ」


俺は、なるべくヤツを刺激しないようにゆっくりと後退し、登りやすそうな崖下までくる。ゴツゴツした崖をなんとか登りきり、さっと振り返る。リザードもしっかりと登って来たので、少し安心した。

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