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世界平和と宝石探し  作者: 月白 紫檀
第一章 隣村にて
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囮作戦

「それにしても、このリザード達の脇を通らなきゃいけないのか…」


流石に怖い。


向こうから襲ってくる気配はないものの、チラチラとこちらの様子を伺っている。万が一にも(あお)るようなことをすれば、間違いなく俺達…いや、確実に俺はリザードの餌になるだろう。それだけは何としても避けたい。


「…ん?」


ふと、サギは橋らしきものの向こう側を見る。


「わりぃ、ちょっと時間稼いでくんないか?」


「は?」


何を突然…通るだけって話じゃなかったのか?それに、時間を稼ぐって…


「…どうやって?」


(おとり)作戦でもしてみるか」


「…そうきたか…」


囮になる方は体力と足の速さが絶対条件だ。一方で、囮にならない方はリザード達を相手にすることになる。囮が引きつけているとはいえ、ヤツらを相手にするのは困難を極める。


俺には爬虫類から逃げ切れる体力も、速さもない。かと言って、ヤツらを相手出来るほどの技術も、度胸もない。



……あれ?



「俺は何をすればいいんだ…?」


「何を今更…お前の役目は決まってるだろ」


「…え?いつ決まったんだ?」


「最初から」


はぁ?最初から?


唖然(あぜん)としている俺を見て、サギはやれやれ、とため息をついている。その様子を見て直感する。


「…もしかしなくても、俺が囮か?」


「当然だ。それ以外に何がある」


やっぱり……


俺はガックリと肩を落とした。


確かに、俺にリザード達を相手に出来る訳がない。それは重々分かっている。分かっていたけれども。


囮になるのはもっと嫌だ。この男は俺に爬虫類に追いかけ回されろと言うのだろうか。足が遅いと分かっている奴を、あえて飢えた獣の前に頬り出すようなものだ。結果は火を見るより明らかじゃないか。そんなの絶対に嫌だぞ!


…まぁ、彼に何を言っても意味はないのだが。


「なぁ、サギ。お前は、俺があの爬虫類達から逃げ切れるとでも思ってるのか?」


「あぁ、思ってる」


…即答かよ。嘘だろ?


加えて、


「逃げ足だけは俺より速いしな」


とヘラリと言われた。確かにそうかもしれないが…


…いや、どう考えてもサギの方が速いだろ。


もう一度谷底を見る。リザード達は円になってたむろしている。まるで、会議をしているみたいだ。コイツらの注意を引かなければいけないのか、と思うと少し怖くなった。


一応確認しておく。


「俺はヤツらの注意を引いて、時間稼ぎをすればいいんだよな?」


「そうだ。別に、追いかけられろって言ってる訳じゃない」


「だよな、そうだよな」


それなら大丈夫だ。多分、何とかなる。


少し、ほんの少しだけ希望が持てた。


…とは言っても、怖い事には変わりない。


俺が谷のふちに立って谷底に下りれないでいると、


「さっさと行け」


「ちょ、ちょっと待てって…」


サギが急かしてくる。


そのまま攻防すること数分、サギはいい加減しびれを切らしてしまったようで、


「さっさと囮になってこい!!」


ドカッ!!


「…ん?…ウワァァァァ!!」


ドサッ!!


「いってぇ……何するんだよ!急に蹴り飛ばさなくてもいいだろ!?」


「生きてるかー?」


頭上からサギが笑いをこらえながらこちらを覗き込む。


くっそう…他人事のように言いやがってぇ…


「何とか生きてるぞ!」


…かなり痛かったけど。


「そりゃあ何よりだ」


そう言って彼は何処かへ歩いていってしまった。


俺は静かに立ち上がる。そして、スッと上を見上げる。


この高さを落とされたのか…そう思うと少しヒヤリとする。


本当に、生きててよかった。


俺から10mほど離れたところにリザード達はたむろしている。そして、突然下りてきた俺をチラチラと見ている。


囮になってしまったからには、何とかしてヤツらの気を引かなければならない。


意を決してゆっくりと、慎重にヤツらに近づいて行く。半分くらいまで距離を詰めたその時、ヤツらは一斉にこちらを向いた。


俺は本能的に歩み寄るのを止める。


十個の黄金の目に見つめられる。ヤツらはジッと俺を凝視したまま動こうとしない。一歩足を踏み出そうとすると、手前にいた一匹が口を僅かに開けた。



これ以上近づくならば容赦はしない――



そう言われた気がした。冷や汗が頬をつたう。鼓動が先程よりも速くなっているのが分かった。俺は足を前に踏み出すのを止め、リザード達の周りを弧を描くように歩く。背を向けないようにする為、目線は彼らに向けたままだ。


正直、もの凄く怖い。


何とか俺が降りた方とは真逆の方へ移動する。それからサギを探す。彼はリザード達から少し離れた崖の上にいた。


…なんか、ちょっと離れてないか?リザード達のすぐ真後ろに降りられるところにいればいいのに…


…何にせよ、ここまで注意を引ければ大丈夫だろ。


全員こちらを注目したままだ。これならサギも戦いやすい筈だ。


俺は大きな仕事をやりきったと感じていた。

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