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世界平和と宝石探し  作者: 月白 紫檀
序章
3/18

紅き輝きを放つ石

「………。もう、動かないか?」


俺は恐る恐る尋ねる。


「…多分な」


サギは静かにヤツに手を伸ばす。そして、顎を貫いた短剣を引き抜いた。更に、腹部に突き刺さったままのダガーも回収する。それを見て改めて気付いた。


そう言えば、ダガーが刺さったままだったんだな…という事に。


今の今まで、すっかり忘れていた。それほどまでに真剣な戦いだったという事だろう。そして、ダガーの存在を忘れさせてしまうくらい、ヤツは動いていたという事でもある。


ふと、空を見上げる。太陽はまだ東に偏っていた。感覚的には、もう昼頃かと思ったのだが…。今日はいつもより時間が過ぎるのが遅く感じた。



…こういった相手との戦いは初めてだ。



人と人の喧嘩もそうだが、「戦い」と名のつくものは、全般的に俺には合わない気がする。相手を傷つけたり、何より血を見るのが嫌いだ。だって、見ていて痛々しいし、やられてる側が可哀想じゃないか。


そんな俺が、まさか戦闘に巻き込まれる事になるとは思ってもみなかった。


…実際には回避してただけだが。


しかし、サギはこういう戦闘に慣れている様だ。行動一つ一つに躊躇(ちゅうちょ)がなかったな…


俺とは行動力と判断力、更には精神力が違い過ぎる。


現に、血まみれのヤツの死体を臆することなく調査している。勿論、彼が戦闘慣れしている理由など、俺には到底分かりえないが…。


「……。…い、おい。人の話を聞け。また考え事か?」


「え?あぁ……」


ボーっとしていて、彼が呼んでいることに気が付かなかった。悪い、と言いつつサギの近くに行く。


「何か、分かったのか?」


「ん?まぁな。調査報告の前に、ちょっとここを見てみろ」


と指差しているのは、ヤツの真っ赤に染まった腹部だった。


実はあまり見たくなかったのだが…


独特の鉄臭さが鼻をかすめる。臓器と思われるものが破れており、一部皮膚や鱗が溶けているところもあった。全体的に血にまみれていて何が何だか分かったもんじゃない。


「一体、何を見ればいいのか……」


俺は顔をしかめながら呟く。


「なら、少しこっちにずれてみろ。太陽を背にして立ってるから分からないんだ」


言われるままに少し横にずれてみる。


「あれ?今何か…」


紅い液体に紛れていて気付かなかったが、太陽の光に反射してキラリと光るものがあった。俺は、その輝きに見覚えがあった。


「宝石か!?」


「だろうな」


今すぐにでも取り出して確認したい。しかし、流石にこの…深紅の体液の中に手を突っ込むのは気が引ける。


そんな俺の気持ちを察してくれたのか、サギは自ら宝石と思われるものを取り出した。井戸から水を汲み、それを綺麗に洗う。


「ほらよ」


「うわっ!」


ヒョイッとこちらへ放る。それは弧を描きながら、ポンッと俺の手の中に収まる。


「落としたらどうするんだよ」


「お前がまた洗えばいいだろ」


何だよそれ。


心の中で呟く。


手のひらに収まっている物を見る。それは、丁度片手で握れるくらいの、紅く燃え盛る炎の様な色をした、正真正銘の『ルビー』だった。


「1つは取り戻したな」


「嗚呼。…まだ1つだけだけどな」


俺の言葉を聞いたサギは、ふっ、と笑う。


「何も進展がないよりはいいだろ」


それもそうか。俺はギュッとルビーを握りしめた。


「…そう言えば、こいつの生態は分かったのか?」


一番気になっていた事を聞いてみた。


「ん?あぁ、こいつはトカゲの一種だ」


しれっと言う。確かにトカゲっぽいけども…まさか見た目通りだったとは…


「当てずっぽうじゃなかったのか…」


「舐めるなよ?」


サギ曰く、コイツは『コモドドラゴン』というトカゲによく似た『リザード』という生物らしい。一般のトカゲとの大きな違いは、大きさと凶暴さだ。ただし、凶暴と言っても、攻撃したり、怪我をしていたり、背を向けて走り出したりしない限り、襲ってくることはないそうだ。


今回襲ってきた理由は、十中八九、サギが攻撃したからだと思うが。


…なんてことをしてくれたんだ、こいつは…


今ここにいる奴は、リザード目のリザード、というらしい。普通のものだけでなく、住んでいる場所の気候などによって、耐性に違いがでたり、炎が吐けたり冷気を(まと)ったりと、属性をあわせ持つものもいるそうだ。


「まぁ、2mじゃあ小さいよな」


当たり前のように出てきた言葉に、


「は…?これで小さい?」


思わず聞き返す。


十分デカいと思うんだが…


「大きい奴は全長10mだぞ?」


「……………」


高さは2mくらいか、と彼は呟いている。


あまりの大きさに想像がつかない。何だよ、10mもあるトカゲって…。そんなの、トカゲじゃなくて、もはや動く小山じゃないか。


小さい奴で良かった…何より、そんなデカい奴じゃなくて良かった……と、心底ほっとした。


「リザードは主に乾燥帯に生息している。その為、割と何処でも活動出来るのが特徴だ。とは言っても、やっぱり乾燥帯にいる方が過ごしやすいんだがな。…だが、此処から一番近い乾燥帯は10kmくらいは離れてた筈だ」


…それはつまり、


「移動してきたとは考えにくい…って事か?」


彼は俺の言葉に一つ頷き、話を続ける。


「嗚呼。そもそも、この村に来る理由がないだろ。食糧も水も、ここに来る途中で手に入るんだからな」


なるほど…言われてみれば、コイツラが住んでいる乾燥帯からこの村に来る間には、草原もあれば湖もある。主食は主に昆虫と小動物だそうだ。それならば、確かに此処に来る必要がない。


食糧目当てではない、かつ、自分で移動してきたとは考えられない。しかし此処にいるということは……


そこまで考えたところで、思わずハッとする。


「誰かに操られている…?もしくは、誰かに連れて来られたのか…?」


「…その可能性が強いだろうな」


まさか、そんな…誰が…?


…だが、リザード1頭を調べただけでここまで導き出してしまうなんて…やはり、サギは末恐ろしい男だ。


彼がここまで生物に詳しいのは、昔、ちょっとした生物研究所にいたかららしい。正確な分析力を持ち、人並み外れた記憶力から、何でも『生物博士』と呼ばれていたんだとか。随分と頼りにされていたそうだが……何故辞めてしまったのだろう。村にいるよりずっといい筈なのに。


「流石、生物博士と呼ばれた男、だな」


「おいおい、いつの話だそりゃ。止めてくれよ」


「えー、別にいいだろー?ってか、いつってほど過去の話じゃないだろ?」


「過去は過去だよ」


…少しからかってみたり。

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