光と炎の使い手
ギーラーの後をついて草原を歩く。
……さっきっから、妙に寒気がする。何か、足元を冷気が走ってきてるような…気のせいか?
「ギュ…」
クラルが俺の足にすり寄って来る。冷たくザラザラとした鱗が肌に触れる。どうやら寒くなって俺にくっついて来たようだ。
歩きづらくはなったが、こればっかりは仕方ない。寒がっているクラルを引きはがす訳にはいけないからな。
「うわっ!何あれ!?」
俺の斜め前を歩いていたギーラーが声を上げる。
「な、何だ?どうした?」
「あれだよ、あれ!」
彼が指をさす方を見てみると、そこには……
「はぁあっ!?何じゃありゃ!?」
草原には不相応な氷塊が佇んでいた。氷の柱っぽい様な形をしている。それにしたって規格外の大きさだ。近づいてみると、氷の傍にある草に霜が降りているのが分かった。道理で、足元が冷える訳だ。
「何だ、騒がしいと思ったらお前か」
近くの木の上から声が聞こえる。バッと見上げると、そこには今日のうちだけで散々俺を振り回してきた奴がいた。
「サギ!!」
彼はヒョイッと木から降りてくる。
「騒がしいって何だよ、騒がしいって」
「そのままの意味だ」
「そんなにうるさくしてないだろ?…ってか、何だよこれ!」
ビシッと氷の塊を指さす。
「何って…二つ頭の犬がいたから瞬間冷凍した。今は冷凍保存中だ」
「……………」
唖然として言葉が出ない。何だよ瞬間冷凍って。
「れ、冷凍保存って…君、それ食べるの?」
「食えるからな」
「………」
ギーラーまでもが言葉を失ってしまった。
「…ったく、この世の何処に魔物を瞬間冷凍してそのまま保存しておく奴がいるんだよ…」
ため息混じりに言うと、
「ここにいるだろ。お前の目は節穴か」
と、淡々と返された。
…あぁ、お前はそういう奴だったな…。まぁ、こんな事するのはお前しかいないと思ってたよ。むしろ、お前じゃなかったらどうしようかと…
「ところで、そいつは誰だ」
サギがギーラーの方を見る。
「あ、僕?僕はギーラーだよ。宜しくね」
「俺はサギ。まぁ、宜しく」
「ギーラーは俺を助けてくれたんだぞ」
「ほぉ…」
スッとサギは目を細める。まるで何かを見極めるかの様に。
「ところで、ハク君に魔法を教えたのは君なの?」
「嗚呼、そうだが」
「どんな教え方をしたの?」
「イメージしろって教えた」
と即答。更に、
「イメージすりゃ何でもできるだろ?」
と追撃が…
「う、うん。まぁ、そうなんだけど…」
これにはギーラーも苦笑いだ。
「…成程、君の教え方って、習うより慣れよって感じなんだね」
「まぁ、そんな感じだ」
ギーラーは、本当に感性で生きてる人なんだなぁ…、と呟いた。
感性で生きてるというか何というか…ただの面倒くさがりだと思うけどな。
「ん?お前の持っているそれは刀か?」
「え?うん。そうだよ」
すると彼は鞘から刀を抜き、サギに見せる。
「これはこの世に一つしかないって言われてる物なんだ」
「…神剣か」
え?何それ。
「え…凄い。何で分かったの?」
「見りゃ分かる」
いや、俺分かんなかったけど…。神剣ってなんだ?神が持ってる剣って事か?それとも神が作った剣って事か?…どっちにしても、何か強そう。
「何処で手に入れたんだ」
「それはちょっと…。僕は風の向くまま気の向くままに旅を続ける旅人だからね」
「成程、入手先は言えないってか。まぁ、それもそうだろうな」
その後はギーラーが一方的に質問攻めされていた。得意属性は何だ、とか、得意武器は刀だけか、とか…。何でサギは戦闘系の事についてしか質問しないんだよ…と思いつつも黙って二人の会話を聞く。
「…で、お前は魔法が使えるようになったんだろうな?」
と、突然睨まれる。
「ふっふっふっ、なったぞ!」
と胸を張って答えると、
「じゃあ見せて見ろ」
と間髪入れずに言われる。
「いきなりかよ…」
まぁ、サギに何を言っても無駄か。こいつが自分の意見を曲げるなんてないしな。さっさと見せて終わりにしよう。別に大規模じゃなくてもいいよな。
俺は頭の中で小さな白い炎を思い浮かべる。焚き火位の大きさの炎だ。
「白き炎」
ボゥッと小さな白い炎が現われる。10秒間くらい経った後に火を消す。
「これで文句ないだろ?」
サギの顔を見ると、若干驚いた顔をしていた。それからフッと口元に笑みを浮かべ、
「上出来だ」
と一言。
よっしゃ!!
小さくガッツポーズをする。
「ギュッギュッ!」
クラルも嬉しそうに俺の周りを行ったり来たりしている。
「まさか、いきなり炎と光の複合魔法を使えるようになるとはな」
………え?何て?
「よく分かってないって顔だな」
分かる訳ないだろ。今のって炎属性だけじゃないのか?
「お前にも分かる様に説明してやる」
お、有難い。
「さっきの魔法には光属性と炎属性が混ざっている。炎属性は見たままだが、光属性は着火地点に現れている。普通、黒魔法として炎魔法を使うと着火点も黒く焦げるが、お前の場合は白魔法としての炎魔法だから、こちらに害のない植物や地面は焦げないんだ。白魔法にはこちらに害のない奴には攻撃しないという特性もあるからな。…まぁ、ゾンビとかいう、所謂アンデット系には効果絶大っていう例外はあるけどな」
「へぇ…そうなのか」
知らなかった。
「…君って、説明しようと思えば出来るんだね」
ギーラーが感心したように言う。
「俺が説明も出来ない奴だと思ってたのか?」
「い、いや、そういう訳じゃ…」
「まぁ、説明なんて面倒だから省く事の方が多いけどな」
出来れば省かないで欲しい、っていうのが俺の心根なんだけどな。
「…成程、君は面倒くさがりな人なんだね」
ギーラーは苦笑いしつつ、納得したようだった。