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世界平和と宝石探し  作者: 月白 紫檀
第一章 隣村にて
11/18

不穏な炎

「はぁ…はぁ…」


大声で言い過ぎて息があがる。


「まぁ落ち着け。大丈夫だ、宝石の件も犯人も何とかなる」


「何とかって…!!」


他人事みたいに言うな!そう言おうと思った。だが、その言葉は彼によって静止させられる。彼は待て、と手をバッと横へ振る。


「…どうした?」


俺は静かに問う。


「…何か聞こえる」


「え?」


何が聞こえると言うんだろう。風の音以外は何も…


「…?」


何だ?何かが小さくパチパチと爆ぜる音が聞こえるような…


音のする方に顔を向ける。


「なっ…!」


そこには、黒い煙がもうもうと立ち昇っている雑木林があった。木の根元あたりに、赤い火花がちらつく。


「雑木林が…燃えてる…!?一体何で…!!」


原因として考えられるのは、サラマンダーの火炎弾が飛んだとかだろうけど…そんな方向に飛んでったっけ?


「……あ」


サギは何かを思い出したかのように声をあげる。


「ん?」


「火炎弾を切った時に飛び火したのか」


火炎弾を切った…?あぁ、そう言えば、そんな超人じみたこともしてたっけ…。サギがヤツの火炎弾を短刀で切って、それが背後で爆発してたような…


「って、原因はお前かよ!!」


「いや、原因は火炎弾飛ばしてきたアイツだろ」


と、炭になっているサラマンダーを指さす。


いや、まぁ、それはそうなんだけど…。


俺は燃えている雑木林を指さす。


「とにかく、どうするんだよ!あのままだと燃え広がって大変な事になるぞ!」


「ギュッギュッ」


ちっこいのも、そうだそうだ、と言わんばかりに鳴いている。サギは、俺とちっこいのを交互に見た後、


「しょうがないな」


と言って、雑木林に手を向ける。


すると、空気中の水分が可視化され、サギの手のひらへ集まっていく。それは、瞬く間に水の球体となり、地面に落ちることなくフヨフヨと浮いている。


重力に逆らってるっていうのか?水の塊が?いや、その前に、この水はどっから出てきた?明らかに空気中…だよな。そう言えば、さっきの火の球も空気中から出てきたような…。


水粘質(アクラルジェル)


サギがそう言うと、水の球体は一直線に炎のもとへ飛んでいく。水の球体は炎を包み込み、ふるふると揺れている。


な、なんだあれ…。水が蒸発しないで炎を包んでる…?しかも、形は球体のままじゃないか。どうなってるんだよ…。


みるみるうちに炎は小さくなり、やがて消えてしまった。水の球体は、炎のある場所へと地を這うように移動する。そしてまた炎に覆い被さり、消していく。その行動を数回繰り返し、地面付近の炎は完全に鎮火させてしまった。後は木に燃え移った炎のみだ。水の球体はぷよん、と宙に浮くと、燃えている木の上まで飛んでいく。そして、急に肥大化したかと思うと、木を丸ごと包み込む。


なんて無茶苦茶な…。力技だろ、これ。


あっという間に全ての炎を消し去り、水の球体は何事もなかったかのように空気中へ消えていった。


「これで文句ないだろ」


サギは横目で俺の事を見る。


「あ、あぁ…」


若干睨みをきかされ、言いたい事を言う前に思わず返事をしてしまう。でも、どうしても彼に聞きたい事があった。答えてくれる気はしてない。むしろ睨まれる気しかしない。それでも、彼に聞きたい事があった。


「文句はない。でも、聞いていいか?」


「何を」


サギは俺に顔を向ける。


「今のやつと、サラマンダーにやったのは何だ」


「魔法だ」


間髪入れずに返事が返ってくる。


「魔法って何だよ」


「そんなも知らないのか、お前は」


「聞いた事はある。見たことがないだけだ」


「知らないようなもんじゃねぇか」


はぁ、とため息をつかれる。


そんな呆れたような顔されたって仕方ないだろ。実際使ってるところを見たことないんだし。


「一回しか説明しない。よく聞いとけよ」


サギは若干気だるげに説明を始める。


「まず、魔法ってのは個性みたいなもんだ。人によって使える種類や属性は様々。ただ、使えない奴はいない。使おうと思えば誰でも使えるもんだ」


「え?そうなのか?」


俺使えないけど…。


「質問は後にしろ」


「はい…」


「使えない奴は、使い方を知らない、もしくは使える事すら知らない奴だけだ」


あ、後者は完全に俺じゃん…。


「次に、魔法の種類についてだ。魔法には、大きく分けて2つある。1つは他人に害を与える黒魔法。もう1つは他人や自分を癒す白魔法だ。黒魔法には、俺がさっき使った火炎弾(フレイムブレット)水粘質(アクラルジェル)も含まれる」


さっきの水のやつって黒魔法だったのか。


「次に属性についてだが…ハク、お前はいくつ知っている?」


え!?急に言われても…。


「えーっと、火、水、土、風、闇、光の6つだけど…」


「今お前が言った以外には、無、雷、氷、力がある」


そうなのか…。


「黒魔法に含まれるのは、光属性と特定のものを省いた全ての属性だ」


特定のもの…?


「白魔法には、黒魔法以外の魔法と回復魔法が含まれる。特定のものってのは、結界(バリア)とか水の壁(アクアウォール)の事だ。つまり、攻撃できない魔法だな」


「成程…」


「さっき、俺は人によって使える種類や属性が様々だって言ったよな?」


「嗚呼、言ってたな」


「火属性の魔法が得意な奴もいれば、水属性の魔法が得意な奴もいる。回復魔法専門の奴だっている。だが、その全てを使える奴はいない。何でか分かるか?」


何で?えぇっと…サギは確か、個性みたいなもんって言ってたよな…。


「うーん…個性、だから…?」


「まぁ、ザックリ合ってる」


おぉ、合ってたのか。


「つまり、得意なもんがあれば苦手なもんがあるって事だ。火と水は相対する属性。その2つの属性を使える奴は滅多にいない。逆に言えば、似たような属性は使える可能性があるってことだ。ちなみに、無属性は大体どんな奴でもつかえる万能な属性だ」


「へぇ…。奥が深いんだな」


そこまで言ってから気づく。


…ん?あれ?何か今、矛盾した事言ってなかったか?


「炎と水を使える奴は滅多にいないんだよな?」


「嗚呼。そうだ」


「お前、使ってなかったか?」


「それがどうかしたか?」


え?


「言うのが遅くなったが、俺は魔法と名のつくもんはほぼ習得済みだ」


……………………。


「えぇぇぇええ!?!?」


「うるさい」


サギは眉間にしわを寄せて、俺を睨む。


そんな事言われたって、そりゃあ誰でもびっくりするだろ!間近にいた奴がほぼ全ての魔法を使えるとか…どういう事なんだよ!


でも、何だか妙に納得してる俺もいたりする。成程、一般人と思考がかけ離れてるのはこういう事だったのか。ほぼ全ての魔法使える奴の頭脳と、普通の人の頭脳が同じ訳ないよな。考え方が食い違って当然だ。


「…で、質問はあるか」


「うーん、特には…」


ない、と言いかけたところで思い出す。


「そうだ!俺にはどんな属性が使えるんだ?」


「そんなの俺が知るか」


「えぇ…」


「自分の使える属性くらい、自分で探せ」


そんな途方もない…。


「探せって言われても…そもそも、俺は魔法の使い方を知らないんだが」


再び彼はため息をつき、


「そこからか…」


と呟く。


む。何だよ、その出来損ないの弟子を見る目は。悪かったな、出来損ないで。


「集中力だ」


「へ?」


突然の話についていけない。


「だから、魔法を使う方法だ。魔法を使うには、集中力が必要不可欠。強力な魔法を使う時はより集中力を削る。慣れてくれば、簡単な魔法は集中しなくても使えるようになるがな」


ほら、と言って指をパチンと鳴らすと、炎がボゥッと現われ、すぐに消えていった。


「集中して、使いたい魔法のイメージをするんだ。そして、適当に唱えてみろ。出来るもんはそれで出来る」


唱えるのって適当でいいのかよ…。普通駄目なやつなんじゃ…。


「まずは、自分が何の属性を使えるのか探せ。細かい話はそれからだ」


「…あぁ」


「ほら、行くぞ。夕飯は隣村で食いたいだろ?」


「当たり前だ。こんな所で野宿なんかできるか」


「ギュッ」


俺のズボンの裾をクイッと引っ張ってくる。足元に目線をやると、そこにはちっこいのが…。


そうだ、こいつどうしよう…。


「連れて行けばいいだろ」


「簡単に言うなよ…」


「ギュウ…」


ちっこいのは淋しそうに鳴く。


確かに、このままこいつと別れるっていうのもなぁ…可哀想な気もするし…。でも、隣村に連れていったら怖がられそうだし…。


俺はしゃがんで、ちっこいのを見る。目が合い、ジッと俺に何かを語りかけてくる。


その目は、混じりけのない、美しい黄金色をしていた。


「……お前も一緒に行くか?」


「ギュワ!」


ちっこいのは首を大きく縦に振る。


「そうか、分かった。じゃあ一緒に行こう」


「ギュワワッ!」


満面の笑みを浮かべ、俺にすり寄ってくる。余程嬉しかったみたいだ。


「そうだ。名前どうする?流石にちっこいのって呼ぶのはマズイよな」


「ちなみに、そいつ雌だからな」


そうなのか…知らなかったぞ。うーん、雌のリザードかぁ…雌のリザード…メスのリザード…メスリザード……


「メリード、とか?」


「単純すぎるだろ、流石に。ネーミングセンスなさすぎ」


「うっ…」


そんな事言われたってなぁ…他に思いつかない……あ!


「クラルってのはどうだ!?」


「へぇ、いいんじゃないか?どうしてその名前が思いついたのか謎だが」


「何となく。今(ひらめ)いたいたんだよ。お前は今からクラルだ。分かったか?」


「キュキュキュッ」


よしよし、分かったみたいだな。


「よし、行くぞクラル。目指すは隣村だ!」


「ギュワッ!」


隣村へ続く道へ、クラルと一緒に走る。


「俺より先を行っていいのか?お前は。迷っても知らんぞ」


「えっ、それは困る…」


思わず足を止めてサギの方を振り返る。すると、彼はやれやれ、と言って俺の傍まできて、前を歩きだした。


何だかんだあったけど、これでやっと隣村へ行ける。若風(じゃくふう)村…俺達の住んでいた村とどう違うのか、とても楽しみだ。

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