一度目の高校入学
今回はあまり面白くないかもしれません。次から本格的に始まるので、今回は前置きです。
春休みほど退屈なものはない。
そう思いながら上杉蓮は、市立第一高校での生活においての最初の行事「入学式」に参加していた。入学式などの行事は、彼にとってはいわば「学校を壊す材料」を探す場所であって、決して「新たな決意を固める」ような生ぬるい所ではない。ましてや緊張するなどというのは彼にとって論外であり、内心では背筋を弓のように張って微動だにしないような生徒を馬鹿にしている節がある。
おっと、早速ターゲットを探し始めたようだ。
体育館内はステージ前が僕ら生徒の席、その後ろと二階が保護者、そしておそらく、僕らの左側が来賓で右側が教員、左斜め後ろが二年生で反対側が三年生だ。根拠は、左側には欠席者が二人いて、校長がスピーチの前に保護者に一礼してから左側に対して右側よりも先に会釈したこと。また、右斜め後ろの生徒のうち一人が「今年はどんな奴らかな」と言っており、それぞれの固まりに二、三年が混在していると考えると不自然な程に騒がしかったこと。
しかもそれぞれのブロックを観察していると、それだけで面白いことが次々に分かってくる。
まずは今年就任したという校長は、来賓の方にたびたび気が散っている。一方で来賓の席では、校長より一回り年上の一人の男が校長に時折目配せをしていて、その度に校長の顔には微かな憎しみの色が窺える。来賓で市立高校の校長と関係があるとすれば、男はこの市の教育委員会の人間で、校長に関する何らかの重大な秘密を握っている、という可能性が充分にありそうだ。
そして、保護者の席では中央近くに一人の女が校長を睨み続けながら座っている。そしてその女を、年が同じくらいの女性教員が心配そうに見つめている。どうやら、その緊張した面持ちや不慣れ感、一人だけ周りの教員と異なる灰色のスーツという状況から察するに、その女性教員は今年が初めての仕事だろう。そうだとして、あの女との関係は一体どんなものなのか。とても興味深い。
さらに教員の席を見ていくと、一人だけ体格がよい色黒の男性教員が、新入生の女子を眺めて舌なめずりをしている。その後二、三年生の方を見て、何人かの女子生徒にいやらしいウィンクを送った。他にもメガネをかけた痩せている男性教員は、ある一人の生徒を執拗に眺めていた。こいつらは、かなり使える駒かもしれない。
加えて、一人の女性教員は何回か吐き気を催したように見えたが、その度にある一人の三年生男子が狼狽していた。その女性教員は手首にテーピングを施しており、とても姿勢がよいことから担当教科は音楽だと思われる。これはもしや、と思ったが、さすがに考えすぎかもしれない。
とにかく、これは面白そうだ。
そして彼の計画は今、動き始めた。
読んでくださった方、ありがとうございます。
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