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第7話 『ゴブリン防具一式』

 ――防具屋にやってきた。

 先程、武器商人に教えられた道――というかおおよその場所を頼りにここまで来た。

 防具屋は武器屋よりも建物が大きく、こちらの方が冒険者によって繁盛しているらしい。


「兄ちゃんもセール目的かい?」


 と、知らない男に――いや、騎士に話しかけられる。職業の騎士(ナイト)とは違い、服装がまさにそうだ。まあ、騎士(ナイト)なのかもしれないが。

 すさまじく重そうな鎧を纏っていた。


「セール?」

「なんだ。知らないで来たのか」

「今日の防具屋は、買い取り価格三割アップと、三割オフ販売なんだぜ」

「まっ、まじっすか!」


 つい、驚きすぎて敬語らしきものが出てしまった。いや、厳密にいえば敬語ではないか。

 それにしても、ついている。これが、ビギナーズラックというやつなのか。

 しかし、そんなことをしては防具屋も赤字なのでは――。


 防具屋の前にプレイヤーがたかり過ぎていて店主の顔ですら見えない。どけどけお前ら。どいてください。

 だがよくあるバーゲンセールの婆様のような真似はしたくない。この絶好期を狙って客の山に割り込んでしまえば貧乏人だと思われる。実際にそうなので極力それは避けたいところだ。割り込みたいのは本音だ。

 それに、買い取ってもらおうとしているのは初心者装備セット一式。他のプレイヤーはそこそこレベルが高いのにLv2の俺が行けばリンチに遭うだろう。

 

 布切れ装備を纏った俺は偉そうに腕を組みながら客が去るのを待ってやった。仕方なく。

 が、待っても待っても客が来る。用が済んだ客が去ってもそれを見た他のプレイヤーがたかってくる。この防具屋の店主は何がしたいのだろうか。自分の店が赤字になるだけだ――本当に。


 消えない客を目の前に――俺は待つのを断念する。


「オラオラァァァァァァァ! どけどけお前らァァァァァァァ!」


 この世界で目立つのはまだ早いと思ったが偉そうな口が開いてしまった。

 俺は臭いものの蓋を開けてしまった。


 俺は次から次へとたかる客を搔い潜り、ついには店主である防具商人の目の前に辿り着いた。

 メニュー画面と念じ、《アイテム》と選択する。その中からお目当ての売却物を取り出し、勢いよくその商売机の上に堂々と置いた。


「初心者装備セット一式、一丁ォォォォォォォォォォォ! 買い取りお願いし、まあァァァァァァす!」


 何を言っているんだろうか俺は。恐らく、ベルクの街の四分の一を俺の声で充満させた瞬間となっただろう。


「初心者装備だってよ……」

「あれだろ? チュートリアルクエストの報酬で貰えるっていう……」


 周りの視線が気になる。駅のホームで十八禁の淫らなゲームをやってる三十代サラリーマンを見るような目だ。なんかすごく恥ずかしくなってきたんですけど。そんな目で見ないで、いやん。

 防具商人もあら驚き。十秒ほど硬直した後で無言で鑑定に入った。


 鑑定を急げ防具商人。この視線の攻撃から俺は逃げたい。HP1ではこの重みに耐えられない。


「頭部、胴部、腕部、脚部、足部の初心者装備セット各一点ずつで150ソナー。合計で750ソナーの三割増しで975ソナーになります」


 防具商人に真面目に対応される。


「よろしく頼む」


 空間ウィンドウを通じて975ソナーを受け取った後、所持金を確認した。

 

 1925ソナーか。最低限の装備なら買えるだろうか。


「1500ソナー程度で買えるお勧めの武器はないか?」

「お客様、レベルはいくつでしょうか?」

「2だ」

「ビギナーの冒険者は皆、このゴブリンセットを買われていきます。ゴブリンの皮を素材として作られているので身軽に動くことができます。ゴブリンの皮は非常に軽く、軽量で扱いやすいですよ。本来なら頭部、胴部、腕部、脚部、足部各一点ずつ400ソナーのセットで2000ソナー。そして、三割引きの1400ソナーでどうでしょう」


 ゴブリンか。

 ゴブリンは人間に対して悪意を持っている架空上の生物としても知られていた。この世界ではどうなのかは知らない。あまり、よくないイメージはある。

 この防具商人の言葉を信じてみるか。セールとかしているくらいなら詐欺ということはなさそうだ。この繁盛具合だし。

 1400ソナーでゴブリンセットを買うと所持金の残高は525ソナー。ギリギリ何とかなるだろう。


「ではそれを買おう」

「毎度あり」


 大勢の前でこれだけ防具商人に勧められて、買わずにとんずらするのはよろしくない。恥辱を晒したまま逃げるのはさすがにこの世界で生きていくのが難しくなる。一気に俺の噂は広がるな。

 だが、この場で買っておけばまあ、ただの客なんだなとかそういう目で見てくれるだろう。多分。

 

 空間ウィンドウを通じて取引が行われる。

 防具商人からはゴブリン防具セット一式を受け取り、防具商人に1400ソナーを渡した。


 これで痛い目の攻撃から抜け出せる。早くとんずらしよう。

 おっとその前に。


「この近くで道具屋はどこにある?」


 と、先程の騎士らしき人物に問うた。


「こ、ここより一つ向こうの大通りのすぐそこにある」


 妥当ではあったが、騎士は少し戸惑っていた。

 声質も微妙に変わっていて別人のように。


 ここにいる冒険者全員の俺に対するイメージはただの〝キチガイ″なのだろう。

 今更後悔してどうする俺。




   *




 と、俺は道具屋の目の前に来た。

 防具屋での繁盛具合は天地の差のようになかったが、ここにも用がある。


 チュートリアルクエストの報酬で貰ったHP回復ポーションは要らないのである。

 なぜならば俺のHPは1だからだ。

 HP1の俺がHP回復ポーションなど持っていても使い道がない。結局ダメージを受けたら死ぬだけなのだから。


「いらっしゃい」


 道具商人はどうやらおばちゃんらしい。おばちゃんに詐欺の疑いはしようがないな。

 俺が詐欺ばかりにこだわるのは、高校時代架空請求詐欺に十回ほど遭ったからだ。そのためか、金の取引に関することは一番に詐欺を気にする。

 俺はメニュー画面を念じ《アイテム》を選択し、〝HP回復ポーション(小)×10″を取り出した。


 十本の重みという奴か。商売机の上に一気にがらんというガラス音が響いた。おばあちゃんもビックリ。


「これかい?」

「ああ」

「さっきスモールオークの腹肉という文字が見えたがそれも一緒に買い取ってやろう」

 

 《アイテム》画面で透けて見えたのか。スモールオークの腹肉の字が目に入ったらしい。


「道具屋ってのは魔物のドロップアイテムも買い取れるのか?」

「いや、スモールオークの素材はある薬の調合で使うものでね。わしが個人的に欲しい……」

「そうか。でも二つしかないが――」

「構わんよ」

「……じゃあ、スモールオークの腹肉も頼む」


 再びメニュー画面を念じ《アイテム画面》を選択し、〝スモールオークの腹肉×2″を取り出した。

 魔物のドロップアイテムは今のところ使い道は分からないので金になるものはとりあえず売ることにしている。何より、金が欲しい。

 いや、使い道が分からないときはリリィに聞けばいいのか。彼女もヘルパー精霊だし恐らくわかるだろう。


「HP回復ポーションの小が十本で100ソナー。スモールオークの腹肉が二つで200ソナー。合わせて300ソナーじゃのう」


 空間ウィンドウを通じて300ソナーを道具商人から受け取った。ばあちゃんめ、値を上げてくれなかったか。

 これで所持金825ソナーっと。

 

 ポーションが一本10ソナーか。思っていたより安値だった。


「MP回復ポーションの小さいやつは一本何ソナーで販売している?」

「20ソナー」


 一瞬高いとは思ったが当然の売値だろう。

 HP回復ポーションが一本10ソナーで買い取っているくらいならそれくらいないと商売にならない。


「では10本買おう」

「毎度。一本20ソナーの十本で200ソナーじゃ」


 空間ウィンドウを通じて道具商人に200ソナーを支払うと、〝MP回復ポーション(小)×10″を受け取った。

 俺は道具商人に一礼をすると、静かに立ち去った。

 防具屋でテンションが高まり、大反省をしたせいか。気分は若干落ち込んでいた。


 メニュー画面を念じ《アイテム》を選択した。





【アイテム】


ブロンズソード ×1

ゴブリン防具セット一式 ×1

MP回復ポーション(小)×20


所持金:625ソナー



 

 かなりアイテムスロットが軽くなったな。

 アイテムスロットから〝ゴブリン防具セット一式″をタッチし、装備した。

 俺の体が一瞬だけ魔力(マナ)で輝き、ゴブリン防具は装備される。布切れだけの装備はこれにて卒業だ。


 ゴブリンの皮の素材でできた防具は、予想以上に遥かに軽く、色も茶色く加工されていてかなり冒険者らしい防具だった。


 おお、かっこいい。

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