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第4話 『スモールオークを倒そう』

「すまないがまた一ついいか」

「なんでございましょう」

「俺の武器は用意されていないのか?」


 そう。

 スモールオークを倒すのに素手で戦うわけにはいかない。

 チュートリアルである以上、専用の武器くらい用意されていて普通だと思われるが――。


 それともあれか。遊び人(ドリーマー)の武器がないとかか。

 あり得る話だ。


「メニュー画面から《アイテム》を選んでください。そこにハルヒト様の武器が用意されているはずです」


 最初からあるスタイルか。

 遊び人(ドリーマー)専用の武器なのか。それとも――。


 俺は内心ドキドキさせながらメニュー画面から《アイテム》を選択し、タッチした。

 

 アイテム画面が開くと、多数のアイテム空きスロットの中に一つの武器が埋まっていた。

 これか。

 武器を一度タッチして、詳細の画面を開いてみる。





・木の剣

適正職業:闘士(ウォーリア)

スキル:なし





 それだけか。

 と思ったが、何故適正職業が闘士(ウォーリア)なのか理解できなかった。

 俺は遊び人(ドリーマー)なんだが。

 

 スキルがないのはまあいいとしてこれでは装備できようもない。


 ――いや、まさかな。


 遊び人(ドリーマー)という職業が装備できる武器はないのか。

 RPGなんて放棄してずっと遊んで暮らしてろとでもいうのか。


 それとも、どんな武器でも装備できるのか。

 遊び感覚でどんな武器でも装備できるという意味なのか。


 やれやれ。冷や冷やさせてくる世界だ。

 一か八か木の剣をタッチして〝装着″をタッチしてみる。


 ――鬼が出るか蛇が出るか。だな。


 と、右腕に一本の剣が出てきた。


「木の剣だあ!」


 おっと、つい心の声が漏れてしまった。

 夢のようだ。まさか俺が闘士(ウォーリア)の両手剣を装備できようとは。

 そういうことか遊び人(ドリーマー)。ありがたい。


 遊び人(ドリーマー)は、夢を見ることができる職業なのかもな。

 そうと決まれば早くスモールオーク倒しに行こう。

 

 スモールオーク。小さいオーク。

 本当のオークを倒すにはまだ遠いというわけか。


「装備できましたね。では、始まりの森のマップを渡すので×印の場所まで行ってください。恐らくその場所にスモールオークは生息しています」

「どうも」


 美少女精霊から始まりの森のマップが手渡しされる。

 マップには自分の現在地が光って見える。なんという便利なマップだ。




   *




 始まりの森を歩いているとき俺はふと思う。


「もし、HPがゼロ――つまりは、死ぬとどうなるんだ?」

「死ぬ――という表現は相応しくないと思われます。多少のデスペナルティが生じた後、近場でプレイヤーが足を踏み入れたことのある場所へワープします」


 ほう、デスペナルティの内容にもよるがゲームオーバーになることのリスクは少なくて済みそうだ。

 デスペナルティが所持金ゼロになるとかだったらそれは少しキツイ。

 

「デスペナルティにはどんなものがある?」

「一定量の経験値カットと一定量のソナーカットです」


 なんだその一定量って。

 さっきの〝無敵バースト″でもそうだが一定時間だとか――なんでも一定で済ませるのがこの世界の悪いところだな。


 それにしても道が長い。

 チュートリアル用の森のくせしてさすがに距離がありすぎる。

 歩くだけでスタミナが切れそうだ。ただでさえHP1なのに。


 例のウォーキング拷問から三十分が経った今、目の前に動く影が出現した。


 グリーンな肌にあの人影は――間違いない。



「スモールオークだ!」



 しまった。

 興奮して声が出てしまった。

 ゆっくり背後から不意打ちかけようとしたのに。


 スモールオークが俺の声に反応して警戒態勢をとった。

 ちょうどクエストのノルマの三体がいるな。

 左手に石の盾を、右手には石の鉄槌を手にしている。

 

 いや、俺の木の剣じゃ歯が立たない木もするのだが――。


 細かいことを気にしている余裕はなかった。

 初めての戦闘に初めてのオークだ。

 

 元居た世界では運動は全くできなかった俺だ。

 基本の格闘技の動きとか知らないし、剣道も習ったことはない。真正面から相手をするのは難しそうだ。

 さて、どうでるか。とりあえず、木の剣だけは構えておいた。

 いや、しかし俺には〝無敵バースト″がある。


 と、俺の頭上に出ているのはHPメーターか! その下にはMPメーターがある。

 なるほど、これで戦闘時のプレイヤーの戦闘状況が拝めるというわけだ。あれだな、よくRPGで見かける回復魔法をかけるときとかに便利なやつだな。


 そんなこと呑気なことを考えている場合ではない。

 目の前にはスモールオークではあるが、魔物がいる。何をしかけてくるかは予想できない。

 しかし、スモールオークは攻撃する素振りは見せていない。


 スキルを使うべきか。いや、使うべきだな。

 HPは1しかないのだ。油断はできない。

 初戦敗退の気持ちなんてスポーツ経験ゼロの俺だってよく分かる。


 向こうが何もしてこないのなら俺は。

 ――突っ込む!



「〝無敵バースト″ォォォォォォォ!」



 気合を入れると当時に思い切りスキル名を叫んだ。

 俺の体に赤い魔力(マナ)が纏っている。これが、スキル効果というやつか。


 走る俺。

 木の剣を地面に下げながらスモールオークに向かって走っている。

 標的(ターゲット)は戦闘に飛び出しているスモールオーク。

 

 スモールオークに近づいたところで木の剣を振り上げ、スモールオークの脳天から思い切り振り下げた。

 学生時代の嫌なヤツの顔を思い出しながら脳天をぶち抜くつもりで木の剣を振り下ろす。


 木の剣はスモールオークの石の盾にガードされたようだが、俺の威力が圧倒していたようで盾を一気にかち割った。

 バキバキと石が崩れ落ちながらもスモールオークは体制を取り直す。


 ――と、その時。

 体制を取り直したスモールオークの鉄槌が俺の中腹にクリティカルヒットする。


「ぐはっ!」


 しかし、ダメージは喰らっていない。

 HPメーターを確認したが、減っていないようだ。

 所詮、HP1なのだから減るもなにも、メーターが満タンがゼロかのどちらかだろう。


 すさまじいくらいに痛い。

 いくら無敵といってもダメージを無効化するだけで痛みは感じるのか。

 それにしても痛い。腹がえぐられるかと思った。


 俺はその痛さを気合で塗り替え、木の剣でスモールオークの横腹を薙ぎ払った。

 これはいったぞ。闘士(ウォーリア)の超攻撃力の特性からしてワンパンのはずだ。

 大量の血飛沫が俺の布切れ装備に降りかかった。


 一体のスモールオークはその場に倒れ伏せ、大気の魔力(マナ)となって消えていった。

 

 おっと、アイテムがドロップしている。

 いくらかの銅の硬貨とスモールオークの何かだ。

 ドロップアイテムの上に空間ウィンドウが現れ、アイテムの詳細を提示していた。



『スモールオークの腹肉×1 50ソナー』



 他のRPGでも同じように、お金とアイテムがドロップするのか。

 空間ウィンドウのアイテム詳細の下に『〇』、『×』印がある。『〇』をタッチすれば拾えるのか。


 ――と、空間ウィンドウの『〇』をタッチしようとした時、一体のスモールオークが俺に向かっていた。

 とっさに後ろへ飛んで回避。

 

 すでに〝無敵バースト″スキルによるスキル効果は切れていた。

 アイテムを拾いたいところだが、一旦体制を取り直そう。引くか。


 と、元居た定位置に戻ろうとしたとき、背後に三体目のスモールオークが回っていた。

 

 ――しまっ。


 気付いた時には遅かった。

 スモールオークの鉄槌が俺の脳天に直撃。

 一瞬、目の前が真っ白になる。微かにHPが減っていくのが見える。

 HPがゼロになった。



 ――次の瞬間、俺は死んだ。

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