第3話 『スキルがチートすぎる』
スキル。
俺がRPGをプレイする上で重視するポイント一か二を争うほどの項目だな。
かっこよさは大事だと思う――ダサいスキルなんて無理無理。
「冒険者様――」
「ああ、ちょっと待ってくれ」
「なんでしょうか」
美少女精霊と会話する中で一つ気になる点があった。
彼女の俺に対する呼び方だ。
冒険者様だとか堅苦しいだろう。
「お願いがあるんだが、俺のことを〝ハルヒト″と呼んでくれないだろうか」
「とんでもございません! そんな! わたくしなんかが――」
「いいや、俺にはしっかり名前がある。冒険者様だとかじゃなくて名前で呼んでほしい」
「かしこまりました。では、ハルヒト様。スキルの説明に入ってもよろしいでしょうか」
これでもまだ『~様』とかついてしまうのか。
まあ、いいか。これ以上指摘するとただの口うるさい隣人ジジイだ。
できれば余計な印象を与えるのは避けたいところだ。
「頼む」
「はい。スキルは大きく分けて四つあります。まずは職業ごとに異なるプレイヤーの状態や能力値などを操作する補助スキル。そして、敵に攻撃するときの武器スキルです。ジョブスキルは専門的な仕事をする時に使うもので生産スキルや料理スキル、釣りスキルなんてものもあります。そしてもう一つは、武器や防具といった装備自身が持っているユニークスキルがございます」
なるほど。
つまりは、自分自身にかけるバフと魔物に攻撃する技。生活を有利にするジョブスキル。武器だけが持っているスキル――。
それに、装備している武器や防具によって自分自身の強さも左右するということか。
「補足ですが、特に強力なスキルを持っている装備をユニーク装備といいますが、これは魔物を倒したときにドロップするレアアイテムを使って生産することができます。ユニーク装備を作るときに鍛冶屋に行くと思われますが、生産スキルを使えるプレイヤーさんもいるので交渉してみるのもいいかもしれません」
「聞きたいんだが、俺自身が生産スキルを持つことは?」
「可能ですがユニーク装備を作るとなると高度な技術を必要とするので、生産スキルにほぼ全てのスキルポイントを注ぎ込まなければならなくなります。生産スキルを専門とする方にダンジョンの最前線に出て戦うなんてことはあり得ませんので」
俺は黙ってうなずく。
まあ、ユニーク装備のことは後々考えるとしようか。
スキルポイントとは何なのだ。
俺は静かにアイコンタクトを美少女精霊に送った。
「あっ、スキルポイントのことですね?」
「うむ」
さすがチュートリアル精霊様は理解がお早い。
「スキルポイントとはレベルが上がるごとにプレイヤーに支給されるものです。レベル毎に支給されるスキルポイントは毎回違います。スキルを使う、もしくは、スキルを育てるというときに特定のスキルにスキルポイントを振り分けます。試しにやってみましょう」
いや助かるね。
恐らくこういう時のためのマニュアル本ってあるんだな。
「では、メニュー画面から《スキル》の項目をタッチしてみてください」
言われるとおりにメニュー画面を操作する。
と、空間ウィンドウの上にホログラムのようなものが出現する。
どうやらスキルツリーらしい。
この手のスキルツリーは他のRPGで見たことがある。
「これはスキルツリーと呼ばれるものです。一番下のスキルから順に習得していきます」
「一番上のやつが最強のスキルってことだな」
「左様でございます」
一番下のスキル以外『secret』となっていて何のスキルなのかわからない。
「これが遊び人のスキルツリーですか……。わたくしでも所見です……」
そうか。
しかし、俺だけの職業でもしっかりスキルツリーは存在する。
その面では運営に感謝せねばな。
スキルツリーを見ると、一つのスキルから枝分かれして複数のスキルに分かれているようだ。
これで他のプレイヤーとスキルが被るのを防止するわけか。
習得するスキルによってはここでも強さを左右するのか。
慎重に選べって言われてるみたいだ。
でも、Lv1の俺はスキルポイントが0だ。あるはずがない。
「ハルヒト様。申し訳ございません」
やはりそうきたか。
「今回はチュートリアルなので、特別にビギナーボーナスとしてスキルポイントを1差し上げます」
そう美少女精霊がいうと、スキルツリーの右下に表示されているスキルポイントが0から1へと変わった。
スキルポイントを受け取ったことを確認するとスキルツリーの一番下のスキルをタッチした。
【無敵バースト】
必要習得レベル:1
必要習得スキルポイント:1
消費MP:30
一定時間敵からの物理攻撃や魔法攻撃によるダメージを無効化する。
何、〝無敵バースト″って。
いや、すっげえネーミングセンス悪いけどさ。
なんか強そうだな。
『〝無敵バースト″を習得しますか?』
新しい空間ウィンドウにメッセージが表示された。
うむ。習得するに決まっている。
俺はその右下の『〇』をタッチする。
と、一瞬〝無敵バースト″が光ってまた光が消えた。
「スキル習得おめでとうございます」
そうだな。こう見るとHP1というのも納得できる。
どれだけの一定時間かはわからないが無敵になれるのは悪くない。
「スキルの使用方法を聞きたい」
「簡単です。そのスキル名を唱えれば自動的に発動します。MPが足りないと発動できないのでそこはお気をつけください」
なるほど。
もう一度ステータスを確認する。
【ステータス】
ナンバハルヒト ♂ 20歳
職業:遊び人
・Lv1
HP 1/1
MP 100/100
EXP 0/100
攻撃:50
防御:50
速度:50
幸運:10
MPは100。
〝無敵バースト″を使うのに必要なMPは30か。つまりは、一度に三回使用できるのだな。
「では実戦で使ってみましょうか? 実際に」
唐突だな。
でも、そろそろ魔物とバトりたいところだった。
「そうだな」
「討伐する対象は、この始まりの森に生息するスモールオークです。スモールオークは幻想世界の中でも弱い方なので軽々と倒せるはずです。弱い魔物から獲得する経験値が低すぎて話にならないので今回はクエストの提示も一緒にしますね。同時にこのクエストはチュートリアル完了クエストにもなっています」
来たこれ。
やはり気遣いがいいな。そこまで考慮してくれるのか。
クエストという響きもいいが、とっととチュートリアルも終わらせたい。さっさと倒してぱっぱとクエストを完了させよう。
「クエストは主にNPCから受注できます。だいたいのNPCがクエストを持っているのでレベリングしたいときに利用してみるのもいいかもしれませんね。クエストをこなすことでそれ相応の経験値とソナー、たまにですがアイテムも貰えます」
報酬も期待できるのか。
ソナーとは恐らくこの世界での共通通貨の単位なのだろう。
「では、これがわたくしからのチュートリアルクエストです」
美少女精霊が口を開くと同時に一つの空間ウィンドウが表示された。
【クエスト】
『チュートリアルクエスト』
スモールオーク(0/3)
・報酬
経験値150
1500ソナー
初心者装備セット一式
銅の剣
HP回復ポーション(小)×10
MP回復ポーション(小)×10
おお。報酬が豪華といえるのかはわからないが良さそうだ。
1500ソナーの価値は分からないが、装備と回復薬が貰えるのなら好都合だ。
それに経験値150があれば余裕でレベルが上がる。
『クエスト〝チュートリアルクエスト″を受注しますか?』
と、空間ウィンドにメッセージが表示される。
迷わず俺は右下の『〇』をタッチした。