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第17話 『断崖絶壁』

 ――ベルク山岳地帯中層部。


 ついさっきゼグロットが三体のオークを一掃したばかりだ。

 満足気味のシヴァーシパルはメニュー画面を空間ウィンドウに示し、ステータス画面を表示している。


「シヴァーシパルさん何を……?」

「ハルヒトさん。ステータスを見てみてください」


 ステータス?

 今更みたところで数値に変動はない筈だが。

 俺は黙ってシヴァーシパルの言われた通り、ステータスを開こうと思う。

 頭の中でメニュー画面を念じ、《ステータス》を選択。


「これは――!」


 


【ステータス】


ナンバハルヒト ♂ 20歳

職業:遊び人(ドリーマー) 


・Lv5

HP 1/1

MP 500/500

EXP 342/500


攻撃:130

防御:130

速度:130

幸運:75


装備ステータス

ゴブリンセット 攻撃速度100




 そう。レベルが3から5にグレードアップしていた。

 ステータスの職業とHPだけは見られたくなかったので、セキュリティーの完備はしてある。事前にフィルターをかけておいたからだ。

 俺は何もしていない――しかし何故。


「驚いているということはパーティーのシステムを知らないみたいですね」

「まさか……!」

「そのまさかですよ。パーティーメンバーがいずれかの魔物を討伐した場合、その人数分の均等分けで経験値が自動で蓄積されます」

「でもオーク三体倒した程度――いや、倒してもらった程度で2つもレベルが上がるモンなんですか?」

「この山岳地帯の魔物の推定レベルは平均25前後って言われてるからだと思いますよ。まあ、もともとこのギルドクエストの推奨レベルは40ですから」

「なるほど――」


 シヴァーシパルは簡単にそういうがつまりはそういうことだ。

 レベルが低い分各レベルにつく上限経験値の量は少なくなる。逆にレベルが高い人ほど上限経験値は高く、レベルを一つ上げるのにも苦労するというRPGでは当然の中の当然の基礎知識だ。

 俺がやってきた中のあるRPGゲームでは幻想世界(フェアリ・エンドラル)のようなパーティシステムは存在しなかった。――レベルが強い人がそれ相応の魔物を倒せば同パーティーメンバーのレベルが簡単に上がってしまう。つまりは、ほぼチートということになる。

 しかし、この世界ではそのシステムは適応され、不平等という概念は存在しないということだろう。


「ねえねえハルヒト君! ゼグロットさんがオークのドロップアイテムをくれるって!」

「え!? マジ!? ――ですか!?」


 フィリアに話を振られたが、一応俺の反応はゼグロットに向けたものだ。

 タメ口聞かなくて助かった。

 ――しかし、フィリアを介してまで俺に間接的に伝えるとはどういう物事の吹き回しだろうか。


オーク(こいつ)がドロップしたソナーとアイテム――やるよ……」


 おぉ! ゼグロットが喋った。

 あまりにもの珍しさに驚愕してしまった。


『ゼグロットさんが取引を申請しています』


 久々に表示された空間ウィンドウのメッセージに懐かしさを覚える。

 俺は迷わず『〇』をタッチする。


 取引を通じて新たに手に入れたものは次のものだ。


 ――オークの心臓×3

 ――オークの牙 ×3

 ――1000ソナー


 オークのドロップアイテムは初見だが、1000ソナーも貰っていいのかと思った。

 これで俺の手持ちのソナーの全額は1625ソナーとなった。一先ず生計は安心だ。


「あの――ありがとうございます」

 

 ゼグロットは黙って俺を見たままぺこりと頭を下げた。

 やはり、集中力蓄積のため、無駄な会話はしないらしい。


「ハルヒト君。ゼグロットさんがくれたオークの心臓の血液はポーションの調合の材料なの。街に帰ったら道具商人に売ってみるといいよ」

「こいつの血液が!?」


 少し汚いと思ったがフィリアの目に嘘はない――と思う。


「うん。あと、オークの牙は鍛冶屋に行くと結構の高値で買い取ってくれるよ」

「なるほど、装備の加工に……。――ってことは、俺の武器や防具も加工して貰えるのかな?」

「勿論。鍛冶屋の職人さんにソナーか材料を渡せば装備の生成やエンチャントなんて簡単にして貰えるの」

「じゃあ、フィリアのその綺麗な杖も鍛冶屋で?」

「ええ。一回杖が折れちゃったことがあって、その接合をね」


 フィリアの話によると武器の修復までもしてくれるらしい。

 鍛冶屋か。

 ――ベルクの街に戻ったら行こうかな。


「この後の話だけどこの崖を下りますよ」

「…………」

「…………」

「…………」


 シヴァーシパルがそう告げた瞬間、メンバーに沈黙の春がやってくる。

 ――ベルク山岳地帯。

 高低差の激しい岩で構成された地形の崖の高さは測り知れない。

 現に俺は崖の下を覗いてみたが底が見えない。断崖絶壁のその崖の深層部は一切の地形も見えないただの黒。その色がさらに俺の焦燥感を煽ってくる。

 

「どうしましたか? 軽く1キロ下るだけです――それにネオゴブリンはベルク山岳地帯の深層部に生息しているという話をマスターから聞きましたので」


 シヴァーシパルは何の抵抗もなく話を進める。

 俺――いや、メンバーはそのシヴァーシパルのポジティブさについていけないのを感じた。

 フィリアは驚愕の末、硬直してしまった。





   *





 結局断崖絶壁を下ることになる。

 何故かジャンケンに負けた俺は先頭をきっている。

 下から順に俺、フィリア、シヴァーシパル、ゼグロットだ。

 ゼグロットが一番上なのはジャンケンに勝ったからだ――故に超人的な集中力をジャンケンに使ったのだろう。

 一同は一本のロープを頼りに崖下りをしている。もし、誰かが頂上からロープを切ったり、重量でロープが切れたとしたらおしまいだ。

 《無敵バースト》がある俺にとっては無事になる可能性は高いが――。


 どのくらい下っただろうか。恐らくは5分くらいだと思われるがまだ底は見えない。

 5分という短い時間でさえも長く感じる。


「ハルヒト君大丈夫?」


 不意にすぐ真上から美少女フィリアの声が届く。

 俺は声の方向へ思わず見上げる――が、そこには予期していないとんでもない光景が目に入る。


 

 ――美少女の下着が。



「――っ!?」


 俺は一瞬手を止め、その白き聖なる禁断の領域に目を奪われる。

 彼女のすさまじいというべきの丁度いい太腿(ふともも)の肉付き。下半身から流れ落ちる清純なる汗。

 ――フィリアの、下着。

 途端に頭が沸騰し、俺の手足腰から力がすり抜けていくのを感じた。

 少女の下半身の美貌に今、命懸けで断崖を下っていることを忘れていた。


 えっ?


 ――俺はたった一本の命綱から手を放してしまった。


「ハルヒトさん!」

「ハルヒト君!」

「…………」


 最後に聞こえたのは美少女とイケメンの声だけだった。

 ――今までありがとう……みんな。

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