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第1話 『理不尽な転生』

 ――俺はある純白の空間に包まれていた。


 何もない。ただ白だけの世界。

 本当に何もなかった。つまらない世界だ。


 ああ、これって俺の人生そのものなのか。


 ――今思えば、俺はあの時死んだのだったな。




   *




 西暦2109年。


 ただの大学生。いや、周りから見ればエリート大学生なのか。

 高校三年。俺は都心部の某有名難関大学にたまたま受かってしまった。

 俺はテキトウに高校生活を送っていた。彼女も作らず、童貞も卒業せずに。故に誰にも相手にされなかった。自分の名前を呼んでもらったことなんて二度や三度とない程だ。学校には皆勤で出席したが、何となくくだらない授業を受けて何となく試験で一位を取っていた。誰も俺が一位だったとは知らないだろうがな。

 

 そう、偶然合格したのだ。国で一番難関な大学に。

 つまらない高校生活を送ってただけあって、ちょっとは面白いことをやってみたかった。別段、目立ちたい訳ではないが変わったことをしたかっただけだ。


 そして今に至る。

 某有名難関大学の工学部に通って何となく講義を受けている。講義が面白いわけではない。

 

 そんな俺でも一つだけ楽しみがあった。

 大学が終わると、俺の潜伏場所(アジト)であるビルの最上階へ向かう。

 夏の夜は決まって全裸になる。全裸になると夜の地味にくる涼しい風が実に気持ちいい。

 俺はデスクトップ型パソコンの電源をつける。今の時代はかなりハイクオリティーになったな。人工知能を日常生活で当然のように使えるようにもなったし。――俺は別に使ってないが。

 と、パソコンの画面に一人の可愛い美少女が登場した。紹介しよう。このセーラー服の魔法少女が俺の嫁、リリィちゃんだ。恥ずかしがってる姿と笑っている姿が実にキューティクル。そんなことを想いつつもポジティブシンキングな俺は分かっている。

 ――現実を。

 俺はギャルゲーとヴァーチャルリアリティにドハマリ中だった。ギャルゲー好きな俺は当たり前のように深夜アニメは毎日毎深夜チェックしていた。これ程すばらしい夜はない。たまに、大学を辞めてこの生活を営みたいと思うこともある。まあ、丁度大学でも学力はケツの方になってきた頃合いだしそろそろ辞めてもいいかな。

 今日はヴァーチャルリアリティでもプレイしてみるか。決まって俺は装置を頭に装着した。

 

 

 クッソ楽しかった。

 明日もあいつらとパーティ組んでダンジョンのボス狩りにでも行こうかな。

 いくらコミュ障な俺でも仮想世界なら胸を張って話せる。最高。

 そういえば俺、裸のままDiveしてたのか。

 

 

 と、俺はある匂いに気付く。

 なんか焦げ臭い。こんな暑い夏に誰がさつまいもを販売してようか。

 都心部に来る前の俺は田舎住でつい感覚が脳を支配してくる。

 しかし、ビルの最上階に路上販売のさつまいもの匂いが漂ってくるはずがない。しかも夏だぞ。


 ――この時の俺は気付かなかった。もっと早く気付いていればあんなことにはならなかったのに。


 いくら夏といってもさすがに暑い。部屋が一つのサウナルームのように蒸し暑かった。

 まあ、こんなこともあるか。

 俺は暑さに負けて25度設定の冷房を入れようと、窓を閉めに行く。

 ――そこにはとんでもない光景が待っていたのをその頃の俺は知らなかった。

 


 ――俺が窓から外を覗くと、真下には数十台の消防車が止まっていたのである。



 何事だよ! 火事か!?

 その下の階を覗いてみるとすでに火は迫っていた。

 おいおい嘘だろ。

 火災報知機は? 鳴っていたはずなんじゃ――。

 そうか、ヴァーチャルリアリティの世界にDiveしてたから気付かなかった――ということか。


 焦る。焦る。焦る……。いつぶりだ。こんなに焦ったのは。

 

 とりあえず逃げよう。――にも逃げられない。


 クソッ! 逃げ道はないし、こんな裸姿で外に出れるかよ。

 諦めよう。ここが俺のゲームオーバーなんだな。

 簡単に人生を諦めることは今の俺だからこそだ。つまらない人生が待っているなら今ここで終わっても文句を言っても仕方がない。



 ――せめて童貞だけは卒業しておきたかったな。



 次の瞬間、俺は火に飲まれるのである。




   *




 目を開けると何もない純白の世界に流されていた。数十秒経過すると、俺の目の前に半透明の青地の空間ウィンドウが出現する。

 ヴァーチャルリアリティ――じゃないよな。


『名前を教えてください』


 文字が現れた。一つ一つの文字が順番に表示される。

 昔のRPGか何かかよ。


難波(なんば)……晴人はるひと……」


 知らないうちに自分の本名を晒してしまっていた。

 今思うと難波という苗字は何か気に入らなったのを今でも覚えている。


『ナンバハルヒト様。でよろしいですね? 次はどんな人生を送りたいですか』


 まただ。また空間ウィンドウに文字が流れてきた。

 てか、勝手に話を進めるなよ。

 人生か――。できれば生きてた世界で経験できなかったことを……。


「童貞を……卒業したいです……」


 何を言っているんだ俺は。誰に話しているのかも分からんし、これではただの独り言だろ。

 ――いや待てよ。

 これはあれか。来世で生まれるときの希望とかか? いや、もしかしたらネット小説やアニメでよく見る異世界転なのッ!?

 いずれにせよどっちでも嬉しい。またやり直せる人生があるのなら俺は強くそれを推す。次は本気で生きてみよう。


『かしこまりました』


 空間ウィンドウに文字が流れる。


「ああ、ちょっと待ってくれ……ください!」


『何か他にご用件がございましょうか』


「できれば――最強でお願いします」


 よし、言えた。

 これで俺の生まれ変わりはきっと天才最強の革命児にしてくれるんだろうな。


『かしこまりました。最凶でございますね。それでは、キャラクターの構築を行いますので、しばらくお待ちください』


 〝最凶″? 何を聞いているんだよ! そのボケはいらないんだけど!?

 いや、普通に考えて〝最強″ってなるんじゃないのォォォッ!?


「いや、ちょっとま……」


『データの読み込みと、キャラクターの構築が完了致しました。それでは、楽しい異世界ライフを』


 聞く耳を持たない。バグにも程があるだろ。

 と、だんだん意識が遠のいてくる。これは――。




   *




 本日何度目の目覚めだろうか。俺は上目蓋と下目蓋を離した。

 ――眩しッ!

 俺を容赦なく照らすのは〝太陽″だった。じゃあここは――地球なのか?

 しかし、周りを見ると終わりがなさそうな神聖な木々に囲まれ、点々と所々にオーブ(?)のようなものが浮遊している。こんな場所、地球にあったか?


『ありませんよ』


 と、急に俺の目の前に半透明な青地の空間ウィンドウが現れた。さっきのと同じだ。

 それより、いちいちウザイメッセージボードだなこれ。ここに来て第一声がそれかよ。何なんだこの空間ウィンドウ。

 すると、次のメッセージが表示された。


『ようこそ。幻想世界フェアリー・エンドラルへ』


 幻想世界フェアリー・エンドラル? なんだそれ。てかネーミングだっせえ。

 

『あなたには、この世界の冒険者になってもらいます。全クリをしてもらい、勇者になってもらいます。このゲームの総プレイ人数は現在1000211248人です。あ、その前にあなたのキャラクターステータスの提示の方をさせていただきますわ』


 勇者になる? まあ、よくある話だな。

 ということは、やっぱり異世界に転生されたというわけか。ラッキー。それにしても適当なメッセージボードだなこれ。大丈夫なのか?

 とにもかくにも、やっぱり気になるのはキャラクターステータスだ。これで、全クリできるか否や決まるようなものだ。しかし、〝最凶″と誤認された辺り、嫌な予感しかしない。




【ステータス】


ナンバハルヒト ♂ 20歳

職業:遊び人(ドリーマー) 


・Lv1

HP 1/1

MP 100/100

EXP 0/100


攻撃:50

防御:50

速度:50

幸運:10




 俺は全てを悟った。遊び人(ドリーマー)? HP1/1?

 数秒して現実を理解した俺はその場に気絶した。

新作の連載が開始となりました。

投稿ペースは毎日更新となりますので是非よろしくお願いします。

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