激戦の後の帰路
厄介なモンスターを撃退して、少しだけ時間が経った頃。
俺達はもの凄い脱力感に苛まれていた。
「はぁ、一気に疲労が・・・」
「連戦でしたからね」
「うん・・・走り回ったのは私達じゃないけど、しんどかった」
「がう」「その程度でだらけるな、腑抜け共、走ったのは私だろう」
「そうだけど・・・でも、しんどい物はしんどいんだ」
「がぅ・・・」「修介は分かる、2回ほど死にかけていたからな、だが、お主ら2人はそこまでだろう?」
「修介さんが大変な目に遭う度に心臓が止まるかと思ってましたから」
「私も」
「がぅ」「仕方のない奴らだ」
今回の翻訳は真野ではなく美香がやってくれている、現状こいつの言葉が分かるのはこの2人だけだ。
しかし、何だ、まさか狼に説教されるとは思わなかったな。
「疲れているのは分かるわ、辛かっただろうしね、特に修介君達は」
「方々を走り回ってましたからね、まぁ、殆どそこのシルバーウルフのボスが走ってましたが」
「ふーん、所でよ、修介、その狼の名前、無いのか?」
「ん? 無いな、ペットって訳じゃないし」
「がう」「私に名前など不要だ」
「でもよ、何度もシルバーウルフのボスだと言いづらいだろう?」
確かにそうかも知れないな、シルバーウルフのボスって結構長いし。
「うーん、じゃあ、やっぱり名前を付けた方が良いのか?」
「がう」「好きにしてくれ、私はなんと呼ばれようと構わん」
「よし、じゃあ、俺が付けてやるぜ! そうだな、バウバウ何てどうだ!」
「がぁ!」「ふざけてるのか貴様!」
「うわ! さっき何でも良いって言ってたじゃねーかよ!」
「がう!」「そんな何も捉えていない名前で呼ばれてたまるか!」
あいつも意外と名前は気にするタイプなんだな、まぁ、確かにバウバウは単調すぎるな。
しかし、どうするか・・・シルバーウルフのボスだし・・・あぁ、出て来ないや。
「うーん、じゃあ、シバ?」
「何か柴犬みたいな名前だな、それは」
「じゃあ、シルス、これでどうだ」
「がう」「もう、それで良い、バウバウなどという名前よりはマシだ」
「マジかよ!」
「じゃあ、今度からお前の事はシルスって呼ぶことにするな」
「がう」「構わん」
これでこいつの名前が決まったな、これで少しは呼びやすくなっただろう。
「じゃあ、私達もシルスって呼ぶわ」
「あたしも」
「うちもそう呼ぶよ」
こいつは今度から全員にシルスと呼ばれるようになるか。
「さて、名前も決まったし、俺は寝るかな」
「分かったわ、じゃあ、誰か修介君がグレンから落ちないように押さえてあげて」
「それなら、うちが押さえておくよ、近いからね」
「じゃあ、ミミ、よろしくね」
何だ、俺はミミさんに押さえられるのか。
しかし、グレンの背中の上って何か眠たくなるな。
もう寝るか、元々寝るつもりだったし、夕日が少し眩しいがな。
「街までどれ位かしら?」
「そうッスね、このペースだと1時間位ッスかね」
「そう、結構掛かるのね」
「ここは結構離れた場所ッスから、全力で飛ばせば30分も掛からないと思うッスよ?」
「いえ、別にこのままのペースで問題無いわ、グレンも疲れているでしょうし」
「こいつも結構ボロボロッスからね」
「わぁ! 思いっきり掴まないで!」
「あぁ、済まないね、落ちそうだったからつい、でも、やっぱり反応も可愛らしいね」
「止めて! 話して! お腹が少しいたいから!」
「あぁ、ごめんごめん」
「ふぅ・・・れでぃーの体を握るなんてどうかしてるよ!」
「そんな言葉、何処で覚えたんだい?」
「修介と散歩していたときに聞いたの」
「頭が良いんだね、癒子は」
「わぁ! 止めて! 撫でようとしないで!」
何だろう、もの凄く近くで凄く騒がしい声が聞える。
俺は気になって、少しだけ目を開けてみた。
その視界に入ったのは癒子が俺の目の前でミミさんと取っ組み合っている姿だった。
でも、当然ミミさんの力に癒子が勝てるわけもなく、癒子は頭を撫でられていた。
「ひゃぁ! 止めてぇ! せめてもう少し優しくして!」
「こ、これでも強すぎるのかい・・・うーん、手加減は難しいもんだね・・・、修介はどうやって
この子に嫌がられないように頭を撫でているんだろうか・・・」
「えっとですね、こうです」
俺は指先で癒子の頭を優しく撫でてみた。
「えへへ・・・えへへ・・・あ! 修介! 起きてた!」
「指先か、なるほどね、指先で優しく撫でれば良いんだね」
「わぁ! 撫でようとしないで!」
ミミさんが癒子を撫でようと指先を近寄らせると、癒子は頭を守るようにして、かがんだ。
「やっぱりうちは嫌いなんだね・・・悲しいよ・・・」
「あ・・・えっと、き、嫌いって訳じゃなくて・・・苦手なんだよ」
「に、苦手・・・くぅ・・・」
「あぁ! 落ち込まないでよ~!」
何というか、何だかんだで癒子はミミさんの事を嫌っているわけじゃないのか。
嫌っているんなら慰めようとはしないだろうしな。
「ちくしょう、修介の奴、イチャイチャしやがって・・・」
「嫉妬は良いから、前見なさい」
「はい・・・了解ッス・・・」
この状況を勇次はどうしてイチャイチャと捉えるんだよ。
と言うか、俺じゃなくてイチャイチャしてるのは癒子とミミさんなんだよな。
「えっと、す、少し、少しだけなら・・・な、撫でても良いよ?」
「本当かい!?」
「う、うん、あまり強くしないでね?」
「大丈夫だよ、優しく・・・指先で優しく・・・ど、どうだい?」
「痛くない、これなら大丈夫かも」
「くぅ!」
「あぁ! 痛い! 押さないで!」
「は! しまった、可愛すぎて手加減を忘れて」
「むぅ! やっぱりミミは苦手!」
「ぐふぁ!」
その一言でミミさんは後ろにのけぞった。
何というか、あのミミさんをここまで振り回せる癒子って、結構凄いよな。
これがかわいさの力って言う奴か、まぁ、確かに癒子の笑顔は可愛いからな。
「本当に、ついさっきまで命の危機に瀕していたのが嘘のようね」
「私もそう思います」
「でも、姉ちゃん、後ろと前でダメージは受けてるみたいだよ?」
「・・・・・・苦手・・・」
「ちくしょう、俺も持ててーなぁ・・・」
「本当ね」
そんな騒がしい状態のまま、グレンは少しだけ軽やかな足取りで街へ進んでいく。
でも、ゆっくりとだ、このゆっくりと歩くときの振動は何か落ち着くな。
落ち着いている理由は、周りが楽しそうに騒いでいるからかも知れないが。
やっぱり、全員集まってると安心するな。




