協力
こいつ・・・自分の手の内を晒した? 何でだ。
「おい! お前、まさか呼び寄せたのか!?」
「ち、違うって! もしそうなら言わないよ!」
「じゃあ、なんで分かったんだ?」
「私はモンスターを呼び寄せる力はあるよ、だからモンスターの気配はよく分かるの」
「それで、なんでさっきその事教えるんだって言ったんだ?」
「あ、あれはね、もしかしたらこの街をモンスターに攻撃させるのかなぁって思ってさぁ!」
こいつのこの態度から考えて、多分こいつは関係していない。
と言うか、冷静になって考えると、この場所からモンスターを呼ぶのは無理だろう。
「じゃぁ、なんでモンスターの群れが来てるかの理由は分かるのか?」
「さぁ? さっぱり分からないね、モンスターは気分屋だからね」
「モンスターってさ、結構気分で群れたり、色んな場所を襲ったりするんだよな
前は無かったんだけど、最近になってな」
「それは私達も同じだけどね」
最近になってか・・・あぁ、そういえば、結構前にボーダーがそんな事を言ってたな。
確か、モンスターが意思を持ったとか聞いたし、だとしたら、それが関係あるかも知れないな。
まぁ、どちらせよ、攻撃されるなら、片っ端から潰すだけだ。
「それで、4日後なんだよな?」
「うん、予想ではね、正確には分からないけど、移動速度から考えて、あ、今は足を止めてるかも」
「そんな事まで分かるのか?」
「うん、動いているのが止まる位は認識できるよ」
止まってるのか・・・もしかして、昨日聞いた、依頼に行った連中と戦ってたりして?
可能性はあるだろうな、じゃあ、その連中が何とか凌いでくれたら、俺達は休めるのか。
「そうか・・・まぁ、一応りえるさん達にも言っておいた方が良いか」
「なんなら私達も戦うよ? このモンスターの群れは想定外だからね
もしかしたら、私達の仲間も戦うかも知れないし」
「駄目だ、それで出して、協力して俺達と戦われたりしたら、面倒だし」
「ちぇ~、良い案だと思ったんだけどな」
そして、俺はとりあえず、りえるさんにこの事を告げた。
「何それ、面倒なんだけど・・・はぁ、なんで最近はこう、忙しいことばかりなのかしらね」
「それは俺もですよ、モンスターの群れとか、ちょっと前にも戦った気がしますし」
「はぁ、休みたいけど・・・休む暇は無さそうよね・・・仕方ないわ、この街のプレイヤーに声を掛けるわ」
「と言うか、同時に6人以上で戦えるんですか?」
「大丈夫よ、多分パーティーって事にしなかったら、まぁ、そうなったら範囲補助魔法は効果無いけど」
あまりハッキリとは言わないんだな、まぁ、うん、相手が群れだし、そうなんだろうけど。
この状況でこっちは同時に戦える人数が限られてるってなると、酷いしな。
そもそも、この世界は元はMMORPGだ、同時に何百人で戦う事くらい出来るか。
まぁ、りえるさんの言うとおり、パーティーと言う形を取れなそうだけどな。
「じゃあ、とりあえず、話してくるわ、何とか3日以内に迎撃態勢を取らないと行けないみたいだし」
「分かりました、あ、そうだ、クロナ、お前も手伝ってくれるか?」
「良いですよ、グロウブさんに話をしてきます、そしたら、多分集まるはずですよ」
「よし、頼むぞ」
そして、俺達は何とか迎撃態勢を整えるために色んな場所を回った。
ある程度の人に声を掛けたが、返事はイマイチなのが多い。
まぁ、無理も無いだろう、今、この世界では生身でいるんだ、あまり危険に首を突っ込みたくは無いか。
それに、確実にその群れがやってくるって言う証拠も無いしな。
「うーん、芳しくないな」
「まぁ、そうだろうね、証拠も無いしさ」
「今更なんですけど、なんでミミさんも一緒に居るんですか?」
「暇だったからだね」
「あの、なら手分けして声を掛けません? 一緒だと効率が悪い気がしますし」
「ほら、うちは口下手だからさ」
そういえば、そうだった、ミミさんってあまり頼み事をするのは苦手だったな。
店のメイドをしている時も、すごく態度悪かったし、それじゃあ、頼んでも無理か。
「はぁ、分かりましたよ」
「それにしても、モンスターの大群か・・・面白そうだね!」
「面白くないです、しんどいですよ」
しかし、ミミさんには俺の声は聞えていないようだった。
もの凄く楽しそうに笑ってるし・・・戦闘狂なのは変わらないな。
そして、その後もあまり上手く人を集めることが出来ない状況が続き
俺とミミさんはとりあえず、ギルドに戻ることにした。
「あ、修介さん、どうでした?」
「駄目だった、誰も動こうとしないし、信じている奴も少なかった」
「そうですか・・・こんな状況ですし、無理もありませんね」
「あぁ! 駄目だった! やっぱりあたしに説得は無理!」
「愛、どうしたんだ?」
「誰も動こうとしないんだよ、はぁ」
「俺の方もそうだった」
「くぅ、やっぱり難しいんだね」
これは困ったな、人は集まらないし、仕方ない、もうこうなったらりえるさん達が何人か動かすことを
期待するしか無いか・・・。
俺はしばらくの間、そんな願いを抱きながら、ギルドで待っていると、りえるさん達が戻ってきた。
「りえるさん! どうでした!?」
「駄目だったわ、流石に証拠が揃ってない状態で動く奴はいないわね」
「くぅ、そうですか・・・じゃあ、俺達だけで対処するしか無いんですかね」
「そうね、でも、流石にこの近くにまでモンスターの群れが来たら、動くでしょう」
「ちょっと待ってください!」
俺達が会話をしていると、勇次達と一緒にクロナが戻ってきた。
「結構やばい状況らしいぜ」
「どういうことだ?」
「グロウブさんに話をしてみたら、国が少し危険な状況らしいんですよ」
「国が? 何で?」
「モンスターの群れの進行方向からは少しズレてはいるんですけど、国がいくつかあります」
そういえば、そうだな、村や国も色んな場所に点々とあるんだったか。
「それで、このまま放置していると、国が襲われる危険があるため、国が掃討を依頼したんですって」
あぁ、やっぱりあの時の依頼は国が出した依頼か、だから10000ゴールドの大金が報酬だったんだな。
「そして、その依頼を受けた何人かの探検家の方々がモンスターの群れに対抗しているそうですが
国の伝令などの報告から、かなり劣勢らしく、このままだと、色んな国が襲われる危険があります」
「そう・・・でも、私達だけが動いて、大群相手に何とかなるとは思えないわ」
「そうですね、弱いモンスターだけって言うならまだ可能性はあるでしょうけど
きっと、弱いモンスターだけじゃ無く、強いモンスターも居るはずですし」
「わ、分かってますよ・・・ですけど、このまま色んな国の人々が殺されるのを黙ってみているわけには!」
・・・・・・確かに、このままだと色んなNPCが犠牲になるだろうな。
でも、この状態で動いたら、俺達は全滅だろう、状況が悪いのが明白だ・・・
「・・・・・・りえるさん、1つだけ、良い案があります」
「何かしら?」
「ホムンクルスの4人をだして、一緒に戦って貰うことです」
「あぁ!? かなり危険よ! それ!」
「分かってますよ、ですけど、この状況下だ、あいつらの力を借りないと迎撃は難しい
ここまで来るのを待てば、まだ戦える可能性はありますが、それだと国が潰れる」
「・・・・・・確かに、そうね、ゲームの頃ならそこまで痛くはないけど、今は現実
それは私としても絶対に嫌よ」
「だから、ホムンクルスの4人を解放し、共に戦って貰う
あくまで可能性ですが、他のホムンクルスの奴らも動く可能性がある
その時に、あいつらに説得して貰えば、共に戦ってくれるかも知れない」
この作戦、最悪自分たちの首を絞めることになるだろう。
でも、これに賭けるしか手は無い。
「・・・・・・良いわ! 最悪逃げられても、クロナ達が場所を探してくれる!
だから、もうこれに賭けるしかないわ! あなたの作戦、乗ってあげる!」
「ありがとうございます!」
俺は急いでグレン達の部屋に入った。
「どうしたんだ?」
「さっき、言ってたよな、自分たちも戦うって」
「そうだよ、この状況は私達にとっても想定外」
「だったら、一緒に戦ってくれ」
「良いの? 逃げるかも知れないよ? あなた達の敵になるかも知れないよ?」
「それでも構わん、状況が悪いんだ、もう協力が得られる可能性があるなら、それに賭けるしかない」
「うん、じゃあ、分かったよ、協力するよ、ご飯も美味しかったしね!」
「久々に動き回れるんだからな、楽しみだぜ!」
「恩返し、頑張っちゃうよ!」
「役に立って見せる!」
「じゃあ、頼む」
俺はホムンクルス達の檻を開けた。
暴れるかも知れないと、少し警戒はしていたが、こいつらは一切暴れなかった。
やっぱり、こいつらにとっても、このモンスターの群れは喜ばしくは無いんだろうな。
「よし、檻から出したわね・・・いい? 協力してよね?」
「分かってるよ、あ、ダイアちゃんは何処?」
「あぁ、この狼だろ」
「おぉ! ダイアちゃん! 久々にもふもふ出来るよ!」
「ぐるぅ」
「ご飯も美味しかったし、意外とあの檻の生活も悪くなかったかも知れないよ」
「まぁ、修介って言う人以外とはあまりお話しできなかったけどね」
「お、俺も、少しは楽しかったぞ、うん、だから、協力はする」
「そう、ならありがたいわ、じゃあ、行きましょうか」
「おー!」
俺達はあの狼少女の言うとおりに、目的の場所に向かった。
意外だな、あいつらが協力的だったのは。




