小さなギルドからのお誘い
ゲームの世界に入り、しばらくの経った。
多分、1週間は経っていると思う。
その間に、世界中のプレイヤー達はこの世界で死んだ。
話しによると、レベルが低い人物が死亡した場合は消えてしまうが、レベルが高い人物だと
少しだけレベルが下がり、復活できたという。
正確なことは不明だが、もしもこれが本当だとしたら、この世界はレベルの低い者には
情け容赦もないと言うことだ。
その噂が広がるのは必然だろう、特にレベルの低い人物からしてみれば、死=終わりだ。
これは普通のことだろうが、レベルが高い人物は無事で、低い人物はこんな結末。
そんなの状況で理不尽さを感じない人間はいないだろう。
「なぁ、お前らはあの噂、信じるか?」
俺の隣でのそのそ歩いている勇次が、いきなりそんな事を言い出した。
大方、いきなり思い浮かんだとかなんだろうがな。
「レベルが低い奴が死んだら死ぬって奴だろ? 俺は信じる」
俺はこの噂を信じている、なぜなら、この噂が広がることで得をする人間はいないからだ。
それに、正確には分からないが、恐らく死んだら初心者はこの世界から消える。
「わ、私は信じたくありませんね、死ぬなんて」
明美は少し怯えた口調だ。
まぁ、死ぬなんて単語が飛び交ってるし、無理も無い。
「まぁ、死ななきゃ良いんだろ? 簡単な事だ」
「だな、最悪ここに居座れば良いんだし」
俺達はこの会話をここで終わらせ、飯を食いに行くことにした。
その道中のことだ、あるギルドが話しかけてきた。
「すみません、今、メンバー募集中なんですけど・・・どうですか?」
「あぁ、ギルドの勧誘か」
めがねをかけた茶色い髪の毛で髪を括っていない女の人が話しかけてきた。
服装は全体的に灰色で、おしゃれはしていない様だ。
ギルドとは色々な人達が集う、集合住宅のような物だ。
基本的にこのタワーゲームでは、ギルドに入らないとろくに強くなれない。
「え、えっと、その、ぎ、ギルド、ホーリーアップルは! まだ2人しかいない、弱小ですけど!
えっと、お、大きなギルドになるように努力を行いますた! あぁ! す、すみません!」
勧誘してきた女の人はすごくぎこちない態度だ。
明らかにコミュニケーションが苦手なのが分かる。
「あ、えっと、ほ、ホーリーアップルのランクはまだ1でしゅ!」
噛み噛みだ、それだけ人と話すのが苦手なんだろう。
しかし、そんなんでよく勧誘しようと思ったな。
俺はこの女の人はいい人だだと言うことが分かった。
「修介、どうすんだ?」
「修介さん?」
「・・・」
明美も勇次も俺の事を見ている。
何で俺が決めるのかは分からないが、もしも俺に決める権利があるなら・・・
「俺が決めて良いのか?」
「あぁ! 俺はこういう決断は苦手だからな!」
勇次は胸を張ってそう言い放った。
何処にも胸を張れる要素はない・・・まぁ、こいつは昔からこういう奴だからな。
「明美は?」
「私はお二人の意見に付いていきますよ、出来れば、修介さんの意見で」
「え!? 俺は!?」
「なんだか軽そうなので正直嫌です」
「ひどくね!?」
明美も、勇次も俺の意見に着いてきてくれると言ってくれた。
なら、俺の意見は簡単だ、このまま何もしないのはあれだし。
「よし! なら俺はその誘い、受けるぜ!」
「あ、ありがとうございます! ありがち・・・ありがとうございます!」
勧誘の女の人は噛み噛みでそう言った。
それだけ嬉しいのか、ただ滑舌が悪いだけなのかは不明だがな。
「で、では、案内します、つ、付いてきてください」
俺達はその女の人の後に付いていった。
しばらく歩くと、大きく、綺麗な建物の場所に案内された。
「確か、ここはギルド管理所だったか?」
「あぁ、そうだ、ここで武器とか倉庫とか貯金とかギルドの加入とか色々出来るぞ」
「へぇ、外観よりも大きいんですね」
「ま、元ゲームだからな、外観は当てにならないんじゃね?」
「あ、あの、こ、こちらです」
俺達は案内されるがまま、ギルドの加入申請場所と書かれた窓口に行った。
「こ、ここで、ギルド、申請を・・・」
「あぁ、分かった」
俺達はそのギルド申請に自分の名前、職業、加入するギルドの名前等を書き込んだ。
「これで加入手続きはお終いです」
「じゃ、じゃあ、あ、案内、します・・・」
俺達は勧誘してきた女の人の後に付いていった。
そして、沢山の魔法陣がある場所にやってきた。
「ここは?」
「ギルド、に、向かう、道・・・です」
魔法陣はいくつもあり、全ての場所に、鍵のような物が着いている。
その横には数字が書かれてあり、レベル1からレベル100まであった。
「どうなってんだ?」
「確か、この魔法陣はギルドのレベルによって分けられているらしいぞ」
「はい、わ、私達のギルドは、まだ、レベル、1ですから、この、魔法陣、からいけるです」
「レベルはどうやったら上がるのですか?」
明美は疑問に思ったのか、その事について聞き始めた。
女の人の話を要約するとこうなる。
ギルドのレベルはギルド人数、全員の総合レベル、ギルドのメンバーが魔物を倒した数
ギルドメンバーの塔の制圧数、ダンジョン攻略数で決まるそうだ。
これが本当なら人数が少なかろうと上位に行くことは可能だ。
まぁ、人数が少ないと難しいだろうがな。
「く、詳しい、話は、私のお姉ちゃんに、聞いて?」
女の人は魔法陣の中に入っていった。
俺達もその中に入ることにした、すると、ステータス画面が現れ、少しして転送された。
「こ、ここは?」
俺達の目の前に現れた景色は異様な物だった。
小さなちゃぶ台、そして、上座にはもし訳程度のいすがあった。
「はは、まるで家賃数万のアパートみたいだな」
「来て早々、ずいぶんな物言いね」
部屋の奥の方から黒い髪の毛、黒い兎耳が生えた女の人が姿を現した。
容姿は黒い兎耳を帽子で無理矢理垂らし、瞳は赤く、黒い軍服を着ている。
雰囲気はガンナーのようだが、少し違う。
「あぁ! その、すみません!」
「謝らないで良いわ、あなたの言うとおりだしね」
女の人は笑いながらそう言った。
しかし、この人がもし、ギルマスなら、この人はこんな見た目でも、結構乙女チックなんだろう。
ギルドの名前がホーリーアップルだからな。
「まぁ、前座はここまでにして、ようこそ、我がホーリーアップルへ、歓迎するわ」
「ありがとうございます」
「では、まずは自己紹介ね」
「はい」
俺達の自己紹介は終わり、次は先輩方お二人の自己紹介だ。
「私はりえる、当然本名じゃないけどね、職業は狙撃手よ、レベルはまだ40程度ね
サブ職業は司令官よ」
「スナイパー? サブ職業? 司令官? よく分からない単語が沢山出てきてるんですけど?」
「あぁ、あなた達は初心者だったわね、良いわ、先輩として教えてあげる
まぁ、先にこの子の自己紹介が終わったらね」
「わ、私ですか!?」
俺達を勧誘してきた女の人は酷く動揺した。
ただ、せめて名前くらいは知りたい、いつまでも勧誘してきた女の人じゃあれだからな。
「わ、分かった、じゃあ、じ、自己紹介・・・するわ」
女の人は深呼吸の後に、口を開いた。
「私の名前はリエ、この人の妹です、職業はプリーストで、レベルは15です。
サブ職業は学者で、色々な言語を理解することが出来ます、はぁ、はぁ」
リエさんは今まで噛み噛みだったが、自己紹介の時はペラペラと噛まずに話した。
しかし、その後は妙に疲れているようだが。
「自己紹介も終わったわね、じゃあ、色々と教えてあげましょうか」
りえるさんはスナイパーとサブ職業についてじっくり話してくれるそうだ。
俺達は固唾をのみながら、その説明が始まるのを待った。