脅威の吸血少女
少女はすぐに姿を消してしまった。
この状態で俺達はすぐに警戒を強化したが、かなりの緊張感が俺達の間に起こる。
何せ、いつ出てくるか分からない吸血鬼の少女が相手だからな。
「何処からだ?」
俺は周囲を見渡しながら、警戒を強めていった。
どう行動してくる? 上手く行けば一撃で倒せる俺を狙ってくるか?
それとも、俺を守っている真野とシルスを狙ってくるか?
いや、りえるさん達の方を狙ってくる可能性も十分ある。
こう言う頭がよくて、行動が予想できない相手ってのは本当に厄介だな。
「来ない?」
しばらくの間俺達はずっと警戒をしていたが、それでも奴は全く姿を現さなかった。
だが、ここで警戒を解くわけにはいかない、俺はさっき以上に警戒を強めて周りに集中した。
その時、上の方から指を鳴らすような音が聞えてきた。
明らかに不自然な音だ、罠の可能性もあるが、確認しないままではいられず、俺は上を向いてみた。
俺はすぐに、その判断は正しかったと言う事を理解できた。
「な! どうなってる!?」
急いで上を見ると、そこにはさっきの少女が浮いていた、それも、1人じゃない
同じ容姿の彼女が天井を覆い尽くすくらいに沢山浮遊していた!
「クク、さぁ、お主らに本物の儂が分かるか!? 何処から攻撃が来るか分かるか!?」
その沢山の吸血鬼の少女達は一斉に何かを投げるような体勢を取った。
普通、こう言う分身とかだと、全員同じ方向を狙うのがよくあるが、あの分身達は違った。
全員が全員バラバラの方向を狙っているようだ。
ある少女は俺を、ある少女は真野をと言うように、各々が別々の攻撃対象を狙っている!
こんな状況だと何処が本体で、誰を狙っているか分からないぞ!?
「ゆくぞ、避けれる物なら避けてみぃ!」
少女達が一気に武器を振り上げた、このままじゃ、ヤバいぞ!
「あたしは皆の盾!{オールホール}」
危うく攻撃が飛んできそうなときだった、愛がオールホールのスキルを使った。
確か、このスキルは自分たちに敵対している相手の攻撃全てを距離に関係なく引き寄せるスキルだ!
この状況下では、1番有効的なスキルかも知れない!
「ぐ! や、厄介な事を! 仕方ない! お主から仕留めてやる!」
そのスキルを受けた吸血鬼の少女の分身は、全員愛の方を向き、攻撃をしてきた。
「来い! 止めてみせる!」
愛はシールドを前に出し、攻撃を受ける体勢を取った。
そして、最初に接触してきたナイフのような攻撃を弾いた。
どうやら、あれが本体だったようだ。
「よし、これが本体・・・!? に、2発目!?」
「な!?」
だが、次に接触してきた攻撃も、愛の盾に直撃して、弾き飛んだ。
そんな馬鹿な! 何でだ!? 最初に攻撃して、それを弾いたのなら、その最初が本体の攻撃じゃ!?
「う、うぐぅぅ!」
どうやら、その分身が放った攻撃全てにダメージ判定があるようだ!
愛はその攻撃を必死に受け止めているが、かなり辛そうだぞ!?
盾で防いだとしても、ダメージの一部は本人に来る!
それに、受けすぎると盾が消耗して、ほぼ軽減が無い状態で愛にダメージが行くことになる!
このままじゃ、愛がほぼ生身の状態でダメージを受けるって事になるぞ!?
「クク! さぁ、いつまで耐えれるのかのぅ」
「ヤバいわよ! このままじゃ・・・愛ちゃんが持たないわ!」
「早く本体見付けて、倒さないと駄目そうだね!」
「あわわ・・・ど、どうしよう!」
・・・相手の本体が何処にいるか分からないが、このままだと愛がやられる。
仕方ない、こうなったら、勝負に出るしか無さそうだな!
「やるしか無いか{ファイアーストーム}」
俺はこの部屋の中心辺りに、ファイアーストームを展開した。
この魔法は引き寄せる魔法だ、引き寄せる力が足りるか分からないが、やらないよりはマシだ!
部屋の中心に展開したファイアーストームは、上の奴らを引き寄せているようだ。
「ふむ、引き寄せる魔法か、じゃが! この程度で吸血鬼たる儂が後れを取るわけがなかろう!」
中心辺りにいた少女の分身は倒せた物の、そこ以外の分身は、引き寄せる力に打ち勝っている!
やっぱり、吸血鬼ってだけあって、かなりのパワーだ!
このままじゃあ、引き寄せきれずに効果が切れる、だが、例え引き寄せられなくても
その引き寄せに対抗しているってだけで、隙は十分生まれるはず!
「りえるさん!」
「ふふ、分かってるわ、私に任せなさい!{パーフェクトスナイパー}」
俺がりえるさんを呼んだ理由を、あの人はすぐに理解したようで、スキルを発動させてくれた。
あのスキルは、確定でクリティカルを出すスキルらしいが、その確定クリティカルの理由としては
勝手に相手の弱点を狙ってくれるからだ、なら、この状況下ならば!
「これでも食らいなさい!{トリプルショット}」
りえるさんが持つ狙撃銃はさっきまでりえるさんが狙っていた場所から変な風に動いた。
そして、俺達の方の左側まで移動して、銃口が止まって、3発の弾丸が放たれた。
「ぬ、うぐぅ!」
上の方で停滞していた分身に、その弾丸は直撃して、その分身は下に落ちてきた。
それと同時に、上空で俺のファイアーストームに対抗していた分身達も同時に消えた。
「撃ち抜いたわ!」
「ぐぅ・・・な、何故儂の位置が・・・」
吸血鬼の少女は腹部3カ所にりえるさんの弾丸を受け、胸を押えて壁にもたれ掛かった。
1発だけなら瞬時に回復できる吸血鬼でも流石に心臓付近に3発も弾丸を受けると動けなくなるか。
俺達は全員でその少女の周りを取り囲んだ。
「く、わ、儂が追い込まれるなど・・・」
「チェックメイトよ、もう、あなたはここまで」
「クク、兎の耳を生やした女子よ・・・儂はお主に負けたのではないぞ・・・そこの男と
儂の攻撃を全て受け止めおった、そこのオレンジの髪の女子に敗れたのだ・・・」
「そうね、でも、あまりごちゃごちゃ言ってる暇は無いの」
りえるさんは瀕死の少女に銃口を向けた。
狙いは多分吸血鬼の少女の頭だろう。
「クク、な、中々に非情な奴じゃ・・・じゃが、儂とて最後の真祖、ここで大人しく殺される訳にはいかぬ!
誇り高き吸血鬼、最後の血統として!」
少女はこの状況下で目を見開き、俺達の方をにらみつけた。
その効果か分からないが、周囲は一瞬だけ暗くなった。
「この!」
りえるさんの声と大きな銃声が聞えたが、その後に聞えてきた音は石を貫くような音だった。
そして、俺はほんの少しして、視点が明るくなり、すぐ目の前までさっきの少女が迫っていた。
「なに!?」
「もう視界が戻るか、じゃが! 噛みついてしまえば儂の勝ちじゃ!」
俺は急いで後ろに飛び退いたが、飛びかかってきた少女に押し倒されるような感じに地面に倒れた。
だが、反射的に俺は少女の腹部を剣で貫いていた。
「ぐぅ・・・」
貫いた腹部から、かなりの量の出血をしながらも、少女は執念で俺に噛みつこうと必死だ。
「うぐぅぅ!」
「この! 離れろ!」
「儂はこの血統を潰えさせる訳にはいかぬのじゃぁ!」
その執念は俺の剣を完全に無視し、彼女は俺の肩に思いっきり噛みついてきた。
だが、少し噛みついてすぐに視界が戻ったミミさんがその吸血鬼の少女を思いっきり殴打した。
「ぬぐぅ!」
威力は十分あった様で、吸血鬼の少女は俺の剣から抜けて、少し遠くに飛ばされた。
「修介! 大丈夫かい!? 血を吸われたりてないかい!?」
「あぁ、な、何とか・・・」
「あと少しじゃった・・・あと少しで、儂の勝ちじゃったのに、運の悪い・・・」
吸血鬼の少女のかなり悲痛な声が小さく聞えてきた。
あんな状態でも少女はゆっくりと立ち上がった。
「あんなに血だらけなのに・・・た、立てるのか!?」
「修介とやら、やはりお主が気に入った・・・必ずじゃ・・・必ずお主を我が下僕にして見せよう・・・
じゃから、死ぬ出ないぞ・・・」
少女は血を流しながらも姿を消して、何処かに行った。
いや、姿を消そうと、血は止まっていないようで、どう動いたかはよく分かる。
どうやら、壁を破壊して、外に出たようだ・・・そして、その壊れた壁から、淡い月の光が入っていた。
「うぐぅ、抵抗を・・・あ、い、いなくなってる!」
「りえるさん、皆、視界が戻ったんですね!」
「え、えぇ・・・あの吸血鬼は何処に行ったの!?」
「あそこです」
俺は壁が壊された辺りを指さした。
「逃げたのね・・・」
「修介、首の辺りで血が出てる!」
「さっき、血を吸われそうになってな」
「うぅ、私がしっかりしてなかったせいで」
「癒子、大丈夫だ、血は吸われてない」
「うぅ」
皆が俺の首辺りの傷を心配してくれてる。
実際、危うく血を吸われそうになったからな。
でも、結果として吸血はされてないし、あいつの下僕にもなってないから良いんだけどな。
しかし、まぁ、これで俺には新しい敵が出来たわけだ、その相手は神出鬼没の吸血鬼ってね
ま、夜に出歩かなければ良いんだし、問題は無いか。
それにしても、今日の月って、上弦の月だったのか、吸血鬼は満月の日に強くなると言うが
上弦の月であんなに強いんじゃ、満月の時はどれだけ強いんだか、厄介だな。
とりあえず、俺達はこの階を突破して、3階の休憩室で休む事になった。
激戦の後に食う明美の飯はきっと格別だろうな。




