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欲にまみれて君に溺れる  作者: zaizai
9/9

閑話 少女Kは知っている

 犯罪ニュースを見ると女子高生の需要は相変わらず高い様だが、世の男性は女子高生の実態を知っているだろうか。

 巷で流行のスイーツを買い漁る子。

 ファッション誌で活躍するモデルのまんまコピーの私服姿の子。

 露出度の高い某グループのアイドルを追っかける子。

 皆、全ての時間を費やして自分の欲望を満たす為に努力を重ねている。

 いつの世にも共通する女子高生の生態はこんな物だろう。

 

 情報が錯綜する世の中でアンテナを張り巡らし、蜘蛛の糸に伝わる僅かな振動を隈なくキャッチして聞き漏らさない地獄耳。

 知った事は仲間と共有して、やや誇大な言葉回しで知識を披露するお笑い芸人の様な話芸。

 噂の相手は良く知りもしない遠い他人だから傷付けたって平気の図太い神経。

 コンビニの店舗の外で何時までも話を続ける足腰の強さ。

 幼稚園の送迎で何時までも井戸端会議を続ける主婦の予備軍が此処に生息している。

 

 自分の提供した話題で盛り上がる会話が楽しくて仕方がないのだ。

 まったく時間の無駄使いだ。

 そんな物にいくら時間を費やしても得るものは何もないと気付いた時には棺桶に足を突っ込んでいるだろう。

 結局、何がしたいのかと言えば、自分がかわいいのだ。

 自分が1番で、友だちは2番め。だから意見の合わないクラスメートは認めない。

 同じ価値観。

 同じ趣味。

 同じ敵。

 これらが合わさって初めて仲間と認めるのだ。


 私の通う私立有名学園には井戸端会議予備軍に尽く目を付けられ、省けにされている生贄の少女がひとり存在している。

 彼女は私と同じく高等部から外部受験をして入学した特待生だ。

 私立の学校に寄付と言う形ではなく、学力で貢献をする肉体労働派の私たちは裕福なお嬢さん方からただでさえ疎ましがられている。何でか知らないが自分達の方が格が上だと勘違いをしているお嬢さんたちは私達が少しでも目立つのを良しとしない。親の庇護の元、金に糸目を付けず自分を飾り立てて存在をアピールしている。

 

 朝から香水の匂いが教室を覆い、吐き気がするのをぐっと堪えて静かに座につく。

 暫くすると教室が静まりかえる瞬間がやってくる。


「金森さんお早う!」

 生贄ちゃんの登場だ。

 その姿は正しく天使のようで普通なら今をときめくアイドルの如く扱われて然りの筈なのに殺気が彼女に集中する。


「今日も暑くなりそうだね」

 少し頬を染めた彼女からは香水ではなく、何か芳しい香りが漂ってくる。それは彼女自身の体臭なのか、特別な洗剤や入浴剤などの類なのか私には分からないが、お嬢さん方のキツイ香水とは別物なのは間違いない。清廉で楚々としていながら魅惑的な彼女の汗ばんだ姿をうっとりと見ている男子数名の欲望がお嬢さん方の嫉妬の炎を更に燃やす。

 彼女は自分を飾り立てている訳じゃない。

 小さな彼女の手の爪は綺麗に切りそろえられてはいるが、ネイルを施したり、甘皮が取り除かれている訳でもない。肩まで伸びたストレートの髪は邪魔にならないようにピンで留められ、キューティクルの輪を乗せた漆黒の艶やかさを放っている。くっきり二重の大きな瞳と程よい大きさの鼻と唇。それらがバランス良く配置され彼女を創っている。

 彼女の美しさは遺伝子によるものだ。

 入学式に見た彼女の母親の見事な美人っぷりは同じ日本人ながらあっぱれであった。そこらの女優よりも美しい人で、悪目立ちしまくっていた。裕福でもない一般試験の特待生なのに余りに堂々としているその母子は注目の的だった。

 

 勉強が出来て、美人で、性格も良いなんて、中々いるもんじゃない。どうしたって目立ってしまう彼女は学校中のお嬢さん方の敵になった。


 そんな彼女に更なる不幸が起きてしまう。

 学園のアイドルの生徒会長さまが恋に落ちたのだ。

 もうこうなっては運命を呪うしかない。

 あからさまに生徒会長さまは彼女に好意的な態度を取る。生徒会のメンバー全員を私的なパーティーに招待した時点で決定的なのに、天然の生贄ちゃんだけは気付かない。


「生徒会長さん太っ腹だよねー」

 のん気な彼女の運命を思うと、先々が楽しみになってくる。

 私は傍観者だから実害はない。自分がどんな立場でどうしたら目立たず、静かな生活が送れるのかよく心得ている。なにせ主席入学を果たした特待生で頭だけは良いのだ。

 彼女のように特別な容姿に恵まれず本当に良かったと心から思う。彼女の傍にいて引け目を感じるとか、引き立て役? なんて感じる隙もない。天と地程の次元の違いなのだ。


 その後想像通りパーティーで事件は起き、事件を切欠に生徒会長さまが彼女の捕獲に乗り出し、まんまと吊り上げてしまうと言う出来レースが起きる。


 その生徒会長さまの彼女に対する執着が常軌を逸脱する類の物だといったい何人の人が気付いているだろう。要するにあれだ。腹の中が真っ黒な粘着体質の独占欲。彼の興味は生贄ちゃん限定で1点集中している。何でも持っているイケメンは恋愛にも淡白だと思っていたけど、そうでもないみたいだ。

 相手が危ない思考の持ち主でも彼女のように気付かなければまるで問題ないように思う。

 ふたりは天然対天然のコンビだからじれったくて乙女心を刺激してくれる。

 生徒会長さまの欲が染み出て来る前に第2、第3の恋敵が現れ、ふたりの恋路を障害だらけにしてくれる事を心から願っている。


 他人の不幸ほど楽しいものはない。

 だって、私も今時の女子高校生ですから。2次元のフィクションも楽しいが、リアルのトラブルも中々刺激的だ。先が読めない展開がたまらない。

 

 これからもずっと仲良くしようね生贄ちゃん。



 

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