4 チャンスを掴んだ彼
生徒会の議会は隔週のペースで行われる。行事が近付くと集まる頻度が増えるがこの次期は特に議題に上がる話しもなくほんの数十分で終わってしまう事もある。今日も彼女にじっと見詰められると思うと少し緊張する。緊張と高揚。思いが鬩ぎ合う。
が、彼女の姿が見当たらない。
何時も一番前の席にいる彼女がいない。風邪でも引いたのだろうか。怪訝な顔をしていたのか、1年の女の子から意外な事を聞かされた。
「今日は私が新井さんの変わりに出席しました」
「新井さん今日はお休み?」
「いえ。学校には来てるんですけど、議会は欠席したいと申し出がありまして」
「それは、どうして?」
「理由は3年の女子の皆さんに聞いた方が早いと思いますけど」
「……」
気まずそうな女子の態度は明らかで、僕は事情を飲み込む。それからの僕の行動は早かった。彼女の教室まで行って彼女を捕まえる。
大きな瞳がそれ以上に見開いて僕を見る。驚きと戸惑いが綯い交ぜになって僕を見ている。
心臓がうるさい。
もう耐えられるレベルじゃない。こんな馬鹿げた焼きもちで彼女に会えなくなるなんて冗談じゃない。気が付いたら告白して抱きしめていた。
腕の中にすっぽり納まるサイズの彼女を抱きしめると髪の匂いが鼻腔をくすぐり僕の脳内を侵して行く。
好きだ。
好きだ。
好きだ。
他に言葉が思いつかない。
この子を今失ったらもう息も出来なくなるんじゃないかと思う。許されるなら大切に真綿に包んで誰にも知られずに閉じ込めてしまいたい。
もう誰にも渡さない。
付き合う、付き合わないはこの際後回しだ。とにかく今は彼女を傷付ける者達から守らなければならない。
彼女を教室から連れ出して下駄箱に急ぐと玄関に横付けされている車に乗り込む。
「先輩、何処に行くんですか」
「これから家まで送迎するよ」
「私を、ですか?」
「他に誰がいるの。もう回りから酷いことを言わせないから安心して」
「それは……どうかな。ちょっと心配かも……」
「だって、新井さんが僕に片思いしてると思ってたんでしょう? ふたりが両思いなら問題無いじゃない」
「ん~そうなのかなー」
「そうだよ。だから今日からふたりは付き合ってるって事でいいよね」
「でも先輩、私……」
「新井さんの気持ちは取りあえず保留にしない? 僕は君が好きで、君を悲しませたくないんだ。生徒会の仕事も今まで通り手伝って欲しい。騒ぎが落ち着くまでこうするのが1番だと思うよ」
「それで先輩はいいの?」
「もちろん。僕はかまわないよ」
「……分りました。そう言う事でお願いします」
甘いよ。甘過ぎる。
お願いしなきゃいけないのは僕の方なのに律儀に頭を下げる彼女。
結構呑気な僕だけど、僕以上に危機管理に問題ありな気がする。思った以上に精神は幼いのかも知れない。
「じゃあ取りあえず連絡先を交換しようか」
「はい」
疑いもせずに携帯を差し出す彼女に対して犯罪者になった気がするのは何故だろう。驚く事に彼女のアドレス欄はほぼゼロだ。
「入学祝いで携帯を買って貰ったばかりで、電話する相手もいなかったんです。わあー登録出来てるー。うれしいな~」
可愛い。
抱きしめたい。
キスしたい。
……それ以上もしたい。
全部経験済みの僕の煩悩が頭の中で爆発しそうだ。
僕の隣で可愛く笑う彼女を恨めしく感じてしまうのは、『可愛さ余って憎さ百倍』か?
お預けをされている犬の気分だ。
本性を出すのは、今はまだ早い。




