3 墓穴を掘った彼女
「新井さんまた何かやったの? 女子の皆さんお怒りモードですよ」
このクラスで唯一外部受験組の金森さんが声を掛ける。
「生徒会長のお宅でパーティーがあってね、色々とね」
「皆さんお暇なのねー。お嬢様って顔も心も不細工なのばっか!」
「ちょっとそれは言い過ぎですよ金森さん」
「新井さんは人が良いから付け込まれるのよ。顔が良くて、頭も良いって条件突き付けられたら、そりゃ、太刀打ち出来ないものねー意地悪もしたくなりますよ」
学校1番の賢い人が何を言うやら。一生に1度の大博打をして言葉や数式が毛穴から溶け出す位勉強したのに私の遥か上を行く成績の金森さん。私なんて足元にも及ばない。つい弱い自分を曝け出してしまう。
「もう生徒会の仕事行きたくないよ。3年の女子の皆さんと顔を会わせたくない」
「それは大変だ。会長もピンチだね」
ピンチなのは私で会長じゃない。何を言っているのだ金森さん。
「この自覚症状のない所がまたムカつく要因なんだな。よし分った。一回だけ変わってあげよう。こっちは傍観者だから揉めた方が面白いからね」
随分な言い方だけど取りあえず距離を置くことに成功する。一年生が会議に1度くらい変わって貰っても誰も気付かないだろう。
セレブな世界を覗き見したくてこの学校を選んだ。
けれどその世界は想像以上に生活格差がありクラスメート達に付いて行けずに気分が滅入る日々。成績だけは落としたくなくてがんばっているけれど其れさえも意地悪の原因になってしまう。
でたらめな噂に振り回される位ならいっそのこと本当に会長を誘惑してやろうかと滅茶苦茶な考えが頭を過ぎる。
「有り得ないよね」
自分の机に突っ伏してため息を漏らす。
その時、物凄い勢いで教室のドアが開けられる。
息を切らして入って来たのは会議中の筈の生徒会長だった。
びっくりして声も出ないのでじっと見詰めると何かに耐える様な顔をして近付いて来る
「新井さん」
「はい」
「今、会議に来てるクラスの子に聞いた事は本当なの?」
「え……」
「君が女子に意地悪されているって。週末のパーティーの件で服を汚したのも……皆にワザとやられたの?」
「えっと……」
金森さんめ。会議に出てくれたのは有り難いけど余計な事を言うのは良くない。どう言い繕おうか考えていると、いきなり抱き締められた。
頬に当るブレザーの生地から良い匂いがする。ちびっこな私は完全に先輩に包まれて身動き出来ない。
これは放課後の危険なラブゲームか何かか?乙女ゲームに興味は無いんだけどな。
「ごめんね。僕のせいだよね」
「ち……違います。多分何か誤解があって、その、えっと」
「こんなに可愛い子を苛めるなんてあいつら馬鹿だ」
恥ずかしい。
やってる事も言ってる事もすべて甘くてお尻の奥がムズムズする。緩むどころか益々強く抱き締められて息が苦しい。
「先、輩、苦しいデス」
「あっごめん!」
「……」
何とか腕の中からの奪出は成功したものの距離は近いまま両手を掴まれている。向かい合って見詰め合う私と先輩。これはどうしたらいいんだ。
「新井さん」
「はい」
「好きだよ」
「はい……って、え!」
「君の事を特別な気持ちで見ていたのは僕の方なのにね。初めて会った時からずっと好きだよ」
この人は何を言ってるんだろう。全然頭が理解してくれない。好きってどう言う意味なんだろう。
LOVEではなくてLIKEの方?
どうしよう。どうしたらいいんだろう。思わず自分で自分を抱きしめる。
「やばい……。可愛い過ぎ」
そう言ってやっぱり抱き締めて来る先輩。
やばいのは私の方なんですけど… …。