1 罠に掛かった彼女
女の意地悪の原因は大概焼き持ちだと確信している。昔から言われのない意地悪は数知れずその度にまたかぁーとため息をついて諦めて来たけれど、今日のはちょっと酷いと思う。
こんな盛大なパーティー会場にひとり普段着の子が紛れていたらどう考えても可笑しいでしょう。伝え忘れた? ---いやいや、普段着で良いとはっきり聞きましたよ。言った本人はしっかりおしゃれをして冴えない私をその他の人と囲んで楽しそうに見下している
この仕打ちはさすがに参った。
「生徒会のメンバーとして忠告してあげる。会長に色目を使っても無駄だから。外部受験で高等部からの編入入学の貧乏人がこんな集まりに来るなんておこがましいと思いなさいよ」
「バーカ! ほんとムカつく!」
「かわいいと思ったら大間違いなんだから!」
……こらこら。
お嬢様がそんな口の聞き方をしたらだめでしょう。庶民の代表である私でも『いざ』と言う時にしか使わない。今がその時なのかも知れないけど、ここで騒ぎを起こしたら生徒会長に迷惑が掛かる。そう思ってただひたすら黙って聞いている。
しかし、しおらしくしているのもお気に召さないのか、手にしたグラスを私のブラウスに押し付ける。白い生地が見る見るオレンジに染まる。
「白のブラウスなんか着て純情ぶって本当は陰でやってんでしょう」
純情ですよ。
処女ですとも。
悪いですか。
だって私3月まで中学生だったんですよ。
世の中はどれだけ乱れていると思っているんですか。泣いたら負けだ。そう思ってぐっと耐える。
「まあまあ! どうなさいました? ブラウスが大変! ……とにかく、こちらへいらして下さい」
会場にいる使用人さんに連れられて奥の部屋に通される。会場と変わって働いている人たちがバタバタと忙しそうに動いている。のんびり会場で罵詈雑言を聞いている場合じゃない。手伝ってあげたくてウズウズしてしまう。私は絶対こっち側の人間だ。
「使用人頭の宇佐美と申します。染み抜きは早いに超した事はありませんからね。お着替え下さい」
「すみません。ご迷惑をお掛けしてしまって」
「いいえ。秀明様のご学友の方でいらっしゃいますか」
「あの生徒会のメンバーで、私は二個下の後輩です」
「左様でございますか。お友だちがお探しかも知れませんね。会場にご案内いたします」
いや、友達はいないし、もう帰ってもいいんだけど。そう思ってトボトボ歩いていると当の生徒会長が向こうからやって来る。
「新井さん探したよ。あれ……その服」
「会場で御召し物を汚されましたので着替えを。帰りまでにはお渡し出来ると思います」
「何から何まですみません」
「ごめんね新井さん。挨拶に回っていて気が付かなくて」
「いいえ。私がおっちょこちょいで溢しちゃったんです」
一部始終を見られていたかも知れないがこの人は黙っていてくれる。そう確信した。
「迷子にならないように秀明様に付いてもらって下さいね」
宇佐美さんはプロだ。主のお客さまに恥をかかせる事もなく、主に余計な心配もさせない。出来る人は仕事運びが完璧だ。宇佐美さん超かっこ良い。
「行こうか」
そう言って手を握ってくる。
「あの……」
「迷子になっちゃうよ」
無邪気だ。
私は先輩のせいで恥を掻かされたり、服を汚されたりしているのに、当人は悪気がなくて親切心でやさしくしてくれている。
幼稚園からの私立一環教育の学園は超有名ブルジョア学校で全国のお坊ちゃんお嬢ちゃんが通っている。制服が有名なデザイナーの手掛けた作品で激かわいいと巷で話題に挙がるほど人気で、盗難を防止する為にシリアルナンバーがそれぞれに刺繍されている。新調するのにも学校の許可がいるのだ。
そんな制服に焦がれて無謀にも受験に挑み、見事合格を果たし、なんと奇跡的に特待の権利を得る事が出来た。
死んだつもりで猛勉強した賜だ。
そうでなければこんな庶民の私はここに居ない。
私のクラスにはもうひとり特待生の子が居て、その子は一番の成績で入学した特別特待生で学資の全額免除が与えられ、部活や委員会など勉強以外の活動の免除もされている。お勉強する為の妨げになる物はすべて排除されるのだ。
そんなわけで委員会の仕事が私に回って来て、生徒会のメンバーになってしまった。
生徒会長の世良秀明先輩は所謂学園のアイドル的存在で女子の皆さんの憧れの人。家柄も良く、温厚で、顔良し、頭良しの二重丸人間なのだ。
そんな人に1年の私が色目を使ったってどうなる物でもない。(いや使ってないけどね)
傍迷惑な誤解をこれ以上広げない為にはどうすればいいのかホトホト困り果てている私なのだ。




