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オーバーリミット  作者: 柊木隼人
第一章:国立ベール学園
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其の七 進展

刹葉を自分の部屋へ帰らせた詩音は着替えていた。

「いくら何でもまたすぐに入ってくるなんて事はないだろうけど……」

そんなことを呟きながら白いシャツにSクラスであることを示す黒と白のストライプのネクタイを締めた。その上に着る黒いブレザーの胸ポケットには金と赤の糸で校章が縫いこまれている。

「……………………」

刹葉が帰ってきた。それは詩音にとってこれまでにない大きな喜びだった。

しかし……

考えごとをしながら詩音は袖に腕を通した。


「お待たせ。行こう」

詩音はドアの隣で待っていた刹葉にそう声をかけた。

「はい」

彼は先ほどと同じ、制服姿で待っていた。

「そういえば、刹葉の制服ってシャツの色違うね」

刹葉の制服は詩音の制服とはズボン、スカート以外にシャツの色が白より若干灰色に近い色合いをしていた。

「そうですね。僕のは少し特別製なので。と言っても色だけですが」

事実、彼の制服も他は通常の男子生徒の制服と何ら変わらず、ズボンの足元には金色のラインが入っていた。

「確かに、シャツ以外変わったところはないね」

「簡単に判断できるようにしてるだけですから」

刹葉が突如にして意味不明な言葉を放つ。

「え?それってどういうこと?」

詩音が気になって聞き返す。

「まあ、それは追々分かりますよ」

あ、これ以上追求しても多分無駄だな……

詩音はそう思った。

大抵こういう時の刹葉ははぐらかすからなぁ。

そんなことを考えていた時に先ほどの古い疑問が浮かび上がる。

着替えていた時に考えていた、三年間考え続けた疑問。

「ねぇ、刹葉……」

詩音が刹葉に話しかける。

「何ですか?」

刹葉が振り向く。

「……ううん、何でもない……」

詩音は喉まで出かかった疑問を飲み込んだ。

この疑問は今はまだ、してはならない気がして……


結局、それ以降は教室に行くまで詩音は二つの疑問については触れなかった。


「おはようシオン」

教室に入った途端、詩音に向かってオレンジ色の髪の少女が挨拶してきた。

「おはよう、シア」

詩音もそれに応える。

「桐無君も、おはよう」

「おはようございます。アーカイプスさん」

刹葉もシアの挨拶に応える。

「アーカイプスさん……か、何だか他人行儀だな。同じクラスなんだし、シアでいいよ」

シアがそう言うと刹葉は笑って、

「では、シアさんと……」

「う~ん。何か違う気もするけど……まあ、今はそれでいいや」

シアは苦笑を浮かべてそう言った。

「よう、転校生」

そう話しかけてきたのは新鳳だった。

「君も転校生じゃないですか」

刹葉が彼に突っ込む。

「ははっ、そうだな。改めて、これからよろしくな、桐無」

「はい、よろしくお願いします。氷君」

氷君、と呼ばれたのが珍しいのか、新鳳は少し強く訂正を口にした。

「氷、もしくは新鳳でいい。「君」付けで呼ばれるのは気持ち悪い。頼むから「君」付けはやめてくれ」

「え、は、はい。分かりました」

刹葉は強く言われたからか、少し驚いた様子だった。

「おーい、席に着けー。出席を確認するぞ」

入ってきたのは男の若い教師だった。

「えーっと、転校生がいるんだっけ?えっと、桐無と氷、だな。俺はこのクラスの副担任、緋宮ひみや・ラストールだ。早めに名前覚えてくれよ」

ラストールが二人に向けて自己紹介する。

「で、現在の人数は全員で22人になったわけだ。しかし、今このクラスには20人しか居ない。あと二人、ハイントとジークスはどうした?誰か連絡を受けてないか?」

教室内からは全く声が上がらず、

「また遅刻か?あいつらは懲りないな。全く……」

「ギリギリセーーーーーッフ!」

とんでもない速度でドアを開け、そのスピードのままランスリットとアレイブが教室に突っ込んできた。

「先生!セーフ!セーフでしょ?」

ランスリットがラストールに向かって怒鳴る。

「そんなワケがあるか。アウトに決まってんだろ!」

当然である。

「先生、僕は?僕も遅刻ですか?」

「当たり前だろ。自分で分からんのか」

アレイブの疑問にラストールは静かに答える。

「一応聞くが、何故遅れた?」

「寝坊しました」

「正直なのは良いが、ユニゾンして答えんな」

二人が同時に答えたところにラストールが突っ込む。

「もういいから席につけ……」

「やった!セーフ扱いだ!」

「ハイント、やっぱりお前は立ってろ」

結果、席に座れていないのはランスリットだけとなった。


----*----*----


≪エリクサー≫についての授業。「紅石学こうせきがく」と呼ばれるその学問は、今ではほとんどの学校で取り扱われている。

ベール学園にも八人、紅石学の専門家が居る。そのひとりが緋宮・ラストールである。


「≪エリクサー≫。それは97年前に見つかった謎の多い物質。研究の結果で分かったのは、携帯端末であることと、人間を兵器へと変貌させるということ。他にも機械などに使えば性能が上がったり、処理能力が格段に上がったりするが、今現在の主な使い方と言えば前者であることが圧倒的に多い」


≪エリクサー≫は使用者がいない、または生物が使用していない時の色は黒い赤である。

そこらに転がっている石とほとんど同じなのである。

しかし、それに使用者が現れた場合、それは文字通り色を変える。

それは白から黒まで使用者で様々な色に変化する。

そしてそれは大まかに特性を分ける基準にもなり得る。


「例えば色が≪赤≫の場合、武器による高火力が望める。他には≪緑≫、≪青≫、≪黄≫、≪白≫、≪黒≫が存在する。大まかに分けたこれらの色を属性と呼ぶ。属性によって得意な戦法が異なるから、自分の属性をしっかり把握しなければならないぞ」

ラストールはチョークで黒板を軽く叩く。

「≪緑≫は主に特殊能力が強力な者が多い。代わりに武器は凡庸的で性能はそこそこ、持てる数も少ない。≪青≫は武器の選択肢が多いが、能力はあまり強くならない。≪黄≫はバランスがいい属性だ。武器は近接系統しか使えないが、能力には遠距離が多い。≪白≫と≪黒≫は純粋な色が少なく属性の中では珍しいタイプだ。≪白≫は近距離から中距離をカバーできるタイプで、≪黒≫は凡庸製が高い武器や能力を持っていることが多い」

ラストールは滑らせていたチョークを止めて生徒の方に向き直る。

「ここからも重要なところがまだ続くからな。しっかり写しておけよ!」


エリクサーは97年前、突如として世界中で大量に発見された。発見当初は研究する学者が非常に少数であり、期待を寄せられることは無かった。


「先生、期待されていなかったのに、何故エリクサーは発展したんですか?」

アレイブがラストールに質問する。

「いい質問だ!アレイブ。今からそれを説明しよう」


ある研究所で人体に多大な影響を及ぼすことが判明した後は研究者が何百倍にも増大した。それにより研究は著しい加速をし、たった16年で現在の状態に一気に近づいた。

燃料が枯渇しかけていた地球はそのまま世界戦争へと発展した。

戦争の主力となったのはやはりエリクサーであった。エリクサーを装備した人間が同じくエリクサーを装備した人間を殺し、結果的にエリクサーを上手く使った国が生き残っていった。


「しかし、ここで人類に大きな出来事が起こる。それが……」


≪第一次悪魔の終日デモンズ・ラグナロク≫。

17年に亘って続いた戦争が収まりかけた時だった。

何の前触れもなく、≪グレイド≫は襲って来た。

当時の世界の人口は約4億4500万人。対してグレイドは2000万という数だった。

数だけ見れば人間が優勢に見えるが、結果人間は半分ほどにまで激減した。

人類は絶滅に追いやられたも同然の状態になった。


「人類が半分にまで減らされても勝利を掴むことができたのは、≪Level7≫たちの活躍におけるところが大きい」

ラストールが書いたところを赤いチョークで丸く囲んだ。

「先生。俺その≪Level7≫ってのがよく分からないんだけど」

ランスリットの質問にラストールがため息をついた。

「コレくらいは分かってもらわなきゃ困るんだがな……仕方ない、説明してやるから復習しておけよ」


エリクサーには≪Level≫が存在する。

簡単に言えば熟練度みたいなもので、どれくらい上手く扱えるかという値である。

初めは≪Level1≫からで、最初のうちは上手く反応しないなんてこともある。

自分の体にエリクサーを入れるにはイメージをはっきりさせる必要があり、そのためには掛け声が最も効果的であるとされている。限界を超えるイメージを確立させるために教えられている掛け声は『オーバーリミット』という掛け声が基本的に使われている。文字通りなのでイメージがし易く、Levelが上がっても言う人もいる。


学校中にチャイムが響く。

「よし、じゃあしっかり復習しておくように!」

時刻は12時45分だった。


----*----*----


昼休み。

「おい」

ランスリットが刹葉に話しかけた。

「何でしょう?」

「何でしょうって、昼飯行こうぜって事だよ」

そう言われて刹葉も納得した様子だった。

「それに、話さなきゃならないこともあるしな」

「そうですね」


「あっ、刹葉~」

屋上のベンチには三人の人影があった。

「ようやく来たわね」

「悪い、ちょっと遅くなった」

ランスリットがベンチに走って行く。

刹葉もその後を追うようにベンチに寄っていった。


「で、最初はどうするよ?」

新鳳が話を切り出す。

「そうね。データを基にひとりずつ探すしかないかしら……」

シアがそう呟いた。実際、彼らには今のところ方法と呼べるモノが存在していなかった。引き受けはしたものの、いきなり壁に当たってしまった。

「やっぱり、アレイブのレーダーに頼るしかないのか……」

ランスリットがうなだれる。

詩音を含めた三人が頭を抱えているのに対して、あと二人、アレイブと刹葉は悩む様子もなく三人をベンチの両側から見つめていた。

「それでいいじゃないですか」

「は?」

刹葉の突然の発言にランスリットは思わず聞き返した。

「それってどれ?」

「だから、アレイブのレーダーを使うんです。僕はそれでいいと思いますが……」

ランスリットは訳がわからず固まった。

「そうだよ。僕のレーダー使えばいいじゃないか。別に制限なんてないんだしさ。何も問題は無いよ」

アレイブも刹葉と同じことを言う。

「いや、でも……」

ランスリットがそう言いかけると刹葉がそれを遮った。

「工夫なんてできなくていいんですよ。方法を提示されたのなら、それを試しましょう」

その一言でランスリットを黙らせてしまった。

「確かにそうね。でも何だか考えようとした私たちがバカみたい。ランスリットなんて無い頭使って考えようとしたのに」

シアはベンチから立ち上がりながらそう言った。

「って、ひでぇことを言いますなぁシアさんは」

ランスリットもベンチから立ち上がる。

「やっぱり刹葉、変わってないよ」

詩音は刹葉に微笑んだ。

「じゃあ、さっさと当たってみるか」

新鳳はそう言って屋上のドアに向かって歩き出す。

アレイブも何も言わずに新鳳に続く。

「行きましょうか、詩音さん」

刹葉は立ち上がり詩音に手を伸ばした。

詩音はゆっくりとその手を取った。

今回は早めの投稿です。

今月中にもう一回くらい更新したいです。

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