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オーバーリミット  作者: 柊木隼人
第一章:国立ベール学園
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其の五 一歩目

学園長室。

「さて、そうとなれば説明することがある」

ブレッドは自分のエリクサーを取り出しデータファイルを開いた。

「このデータは研究室にあったもののひとつだ」

そのデータはエリクサーの研究とその結果が書かれているものだった。

しかしそれは目を通すだけでも苦労する代物で、軽く見ただけでも250以上は書かれているらしい。

「僕が入手できたのはそれだけだ。もっと数は多いかも知れない。それに覚醒するまでは普通のエリクサーと何ら変わりはないからね。探し出すのは結構骨が折れるかも知れないよ」

ブレッドはやる気が萎えるような言葉を長々と口にした。

しかし彼の言うことも正しい。

考えてみればそこまで上手くいく保障など何処にもないのだ。

そこは彼らも承知の上だった。

「でも、アレイブ君が既に覚醒しているというのは大きな助けになると思うよ」

ブレッドはようやく希望を感じるセリフを発する。

「僕のレーダーですね」

アレイブの言葉にブレッドはうなずいた。

「僕のエリクサーは中~超長距離に特化したもので、故にレーダーの範囲は通常では有り得ないほどの広域を察知できるものが使用できるんだよ。僕が直接手を加えてジャミングにも対応させてあるからジャミングに特化した≪Level6≫以上でなければ僕にジャミングなんてできない。例えできても僕なら10秒で解析、解除できる」

この自信、どこから来るのやら……

「流石、学年1位ね」

シアは呆れたように言った。

しかし、彼はやってのけるだろう。

アレイブはそういう男なのだ。

「でも、今提示すべき能力はそこじゃない。ジャミングでも範囲の広さでもない。固体識別能力だよ。僕ならそれができる」

ここでようやく本題である。

「そう。彼の固体識別能力は僕が知っている他のどれより高いんだ。何しろエリクサーをタイプ別に判断できるからね」

「だから、研究室のデータと合わせれば大体の目星はつくはずだよ。もちろん完全なデータさえあれば学園のデータと照合して見つけるなんてこともできるだろうけど、このデータだけだと確立は五分五分かな」

そう、アレイブが付け加えた通り確立は決して高くはない。

学園の戦闘試験のデータと研究結果のデータを比べれば覚醒したときと大きな能力の違いがなければ見つけるのは容易いはずなのだ。

しかし、研究室のエリクサーが全て学園内にあるとは限らない。

五大国が抱える軍隊に所持者がいる可能性は高い。

学園内で探しても成果は半分にも満たないだろう。

「覚醒の条件は『自覚』だからね。自分の能力が強化された一瞬に使用者が気付けば、覚醒は形になるだろう」

ブレッドの言葉が部屋に響く。

6人の眼差しがブレッドに集中する。

「……皆に見てほしいデータがある……」

ブレッドがそう呟き、データファイルから違うデータを取り出した。

そのデータを見て言葉を放ったのはアレイブだった。

「学園長、これってさっき僕が言った……」

「そう、実は学園内の生徒、教師のデータの照合はある程度は終わってるんだ。アレイブ君のように正確にとまではいかなかったけど、僕なりにやったつもりだよ」

そのデータは確かに一般生徒にもできそうなものだったが、手間は確実に省けた。

「助かりました。これなら学園内の人間は思ったより早く終わりそうです」

アレイブはそのデータをコピーし始めた。


----*----*----


「ルーチェ先生、新しい生徒どうだった?」

「超好みだった!」

「そういうことじゃねえ」

二人の教師の会話は始まって早々漫才へと化してしまった。

3階の職員室でのことである。

「はあ……、あなたもいい加減に卒業しなさいよ……」

ルリエはその言葉に頬を膨らませた。

好きなものは好きなんだもの、いいじゃない……

「そんな顔しないの……」

彼女、リアラ・クァールはルリエの顔を見て呆れた。

「それで、どんな生徒なの?転校生は」

リアラがそう質問する。

「氷君は小さくてねぇ、それでいて凛々しい顔してんのよ。髪が赤くて、目がぱっちりしててね。もう一人の桐無君は背が結構高くて、顔が中性的でね、さらさらの黒い髪がまたいいのぉ。でも、抱きつこうとしたらアイアンクローかけられて避けられちゃった。思い出すだけでゾクゾクするわぁ」

「質問しておいて何だけど、貴女って本当に怖いわね……。いや、本当に」

ルリエとの付き合いも長いがリアラは未だにここだけはドン引きである。

まあ、ルリエが好みだったって言ったから、聞いたらこうなるとは思ったけど……

「でも貴女の抱擁を避けるなんて、その生徒ただ者じゃないわね。国家資格でAランクを持つ貴女の突撃をアイアンクローでなんて……とても私にはできないわ」

「そうね、私の得意技なんだけど」

と言うより彼女は抱擁するために磨いたところもあるため、この技は彼女の象徴とも言えるのだ。

「ちゃんと仕事しなさいよ」

リアラはそう言いながら書類を整理し始めた。

「分かってるわよ。ちゃんと部屋番号も聞いておいたからデータを書き換えればそれで終了よ」

ルリエは自分で書いたメモを取り出し読み返す。

「あれ、桐無君の部屋番号って……501号室?でもあそこって確か……」


----*----*----


「さて、今話せる情報は大体こんな感じだよ」

ブレッドは椅子の背もたれに寄りかかった。

話では学年に関わらず生徒は全員その可能性があるため、まずは学園内から探すことになった。

どうも戦闘向きの能力はそこまで多いわけではないらしく、全体的な能力よりむしろ一芸に秀でたものが多いらしい。

アレイブの『スナイプ』がいい例だ。

「じゃあ、僕は研究室のデータが他にないか探りを入れてみるとするよ。後は君たちに任せた」

そう言ってブレッドはスーツの上に白衣を着た。

「話は以上だよ。何かあればまた連絡する」

ブレッドの言葉に彼らは立ち上がって一礼した後静かに部屋を出た。

「失礼しました」

きっと彼らなら……

ブレッドはそんな期待を胸に寄せながら自分も部屋を出るのだった。


----*----*----


場所は変わって一年生徒寮の一階の一室。

「で、何で俺の部屋なんだ!」

新鳳の声が響く。

一階の147号室に先ほどの6人は集まっていた。

「何でナチュラルに俺の部屋に集まってるんだお前ら!」

「いいじゃない、そんなこと。それとも何?見られちゃいけないモノでもあるわけ?」

シアに言われて新鳳は口を結んだ。

何でこうなったんだ……

折角遠くから引っ越してきたのに……

「で、さっきの戦闘、アレはどういうことなの。とてもSSダブルエスランクの動きとは思えないんだけど」

シアはずっと気になっていたことを口にした。

今までずっと引っかかっていたらしい。

「あれはね……」

そう言いながら詩音は自分の右目を指差した。

「これよ」

「………………」

「………………」

「………………」

え?まさか誰も解ってない?

詩音はあまりの反応の無さにかなりの衝撃を受けた。

何か自分がかなりイタイことを言ってしまったような、そんな気まずさを詩音は感じていた。

「『魔眼』ですよ」

その言葉はいずれでもない刹葉の言葉だった。

「そう。あの力は私の魔眼、『双対眼セイ・クウィル』によるものなの」

その言葉には誰もが耳を疑った。



それは65年前の話。

当時エリクサーは科学の最先端だった。

発見されて32年。分かったことは携帯端末として使用できることと体に接続することで身体能力が大きく上昇すること位だった。

しかし、ある研究所がエリクサーの影響による≪魔眼≫を見つけ出した。

研究所の数人の被験者が≪魔眼≫をその瞳に宿したのだ。

この実験の報告はすぐに五大国の上層部にも知れ渡り、≪魔眼≫は一気に重要機密とされた。

そして事件は起きる。


魔眼を覚醒させた被験者の一人が逃亡したのだ。

その被験者の魔眼は他の魔眼よりも強力だった。

研究所が送った魔眼覚醒者たちすら彼の魔眼に一歩及ばなかった。


魔眼の男が逃亡して一週間が過ぎた日、逃亡した魔眼の男と共に研究に参加していた被験者が新たな魔眼に覚醒した。

その力は凄まじく、彼の魔眼の男とも勝るとも劣らない魔眼を有した。

彼は男の元に派遣された。

そして、暴走状態にあった魔眼の男を見事に連れ帰った。



「それからというもの、政府から特別な許可が下りなければ『魔眼』の研究は禁止になったそうな」

「アレイブ君知ってたの?」

詩音は少し驚いた表情でアレイブを見る。

「最近調べたことがあってね。それで」

さっき反応してくれればよかったのに……

「つまり、その魔眼ってやつがシオンの目に宿ってるわけね」

シアはやっと納得したようにうなずいた。

「でも、『双対』ってどういう意味だ?」

ランスリットがふと思い立ったように呟く。

「ああ、それはね……」

詩音が目を閉じる。

そして開く。

すると詩音の右目だけが淡く光り始めた。

「へえ、何だか綺麗ね。これが『魔眼』なの?」

シアが呟く。

「電気を消してみて。それで『双対』の意味が分かると思う」

「そうか?じゃあ消してみるか」

ランスリットは詩音に言われた通り部屋の電気を消した。

時刻は6時30分をまわっている。

既に日も落ちていることから、新鳳の部屋は真っ暗になった。

その暗闇の中、二つの淡い碧色の光が別々の場所で光っていた。

「うわっ!眩しっ!」

急に部屋の電気が点く。

新鳳が目を開けるとアレイブ、シア、ランスリットの視線がある一点に向いていた。

その先は淡い光があった場所。

詩音の右目の光ではなく、もう一つの光があったところだった。

「皆さん、分かりましたか。そういうことです」

全員の視線の先の人物が言葉を発した。

視線を浴びていたのは刹葉だった。

刹葉は左目が光っていた。

彼の碧い左目が……

双対眼セイ・クウィルは二人で片目ずつ所有する魔眼なの」

詩音の言葉は今の状況を納得させるだけの力を持っていた。

「それで『双対』か」

ランスリットも納得した。


ここでアレイブが思いついた疑問を提示する。

「魔眼はそれぞれ覚醒するときの状況が似ているという仮説があるけど、双対眼セイ・クウィルなんて魔眼は知らなかった。覚醒したときはどんな状況だったんだ?」

瞬間。

詩音と刹葉が真面目な顔になる。

そして詩音が刹葉に顔を向ける。

刹葉は詩音に笑顔を返した。

詩音が微笑む。

詩音は口を開いた。

「私が覚醒したのは7年前の7月。刹葉を召喚した時よ」

その言葉の意味が4人には解らなかった。

「7年前の夏。私は奇跡的に召喚した刹葉と双対眼セイ・クウィルに覚醒したの」

『其の五』

どうでしょうか。

上手くできているでしょうか。

よろしければ感想お願いします。

ではまた次回。

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