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オーバーリミット  作者: 柊木隼人
第一章:国立ベール学園
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其の四 学園長と6人の真実

教室中は詩音を除いた全員が驚愕した。

にこやかな笑顔を浮かべた彼は言う。

「皆さん。よろしくお願いしますね」

簡単に状況を説明するとこうなる。

教室に入ってきたのは刹葉で間違いない。

そして教師が興奮気味であったのも事実だ。

理由はとても単純、年下好きである。

今までクラスで彼女の抱擁を回避できた者は皆無である。

それもそのはず、彼女はこの学園の教師の中でもトップクラスの実力を持っている。

この学校でもランクが定められているが、それは五大国の基準ではない。

学生に合った基準が設けられているということだ。

つまり早い話、彼女はこのSクラスの生徒1人よりずっと強いのである。

それに刹葉がアイアンクローをかけ、抱擁を回避したのだ。

だから、

「えぇ〜〜〜〜〜〜!!!」

という反応になるわけである。

ちなみに、まだアイアンクローはかかったまま……。

「すいません、遅くなりました」

入ってきたのは新鳳である。

そしてもちろん、

「何してんだ?」

という反応になるのであった。


「では、気を取り直して。自己紹介をお願いします」

教師、もとい変態教師がうながす。

「はい。桐無刹葉です。ランクはSSSです。よろしくお願いします」

さわやかな笑顔を見せながら言った。

「俺は氷新鳳。ランクはSSSだ」

新鳳も笑顔でそう言った。

「氷君に桐無君ね。私はルリエ・ルーチェ。ここの担任よ。呼び方は好きに呼んでくれて構わないわ」

ルリエは刹葉に軽く自己紹介した。

「はい。では、リエ先生と」

刹葉が言うと、

「それでいいわ。あとで部屋の番号教えて」

ルリエは仕事か私情か分からない(もちろん仕事だが)セリフを吐いた。

普通の教師ならすんなりと教えられるだろうが、少し息を荒くしている彼女に話すのは不安が残る。

「席はどこでもいいわ。他のクラスよりこのクラスは人数少ないから空きはあるわよ」

二人は顔を見合わせた後、新鳳は左の窓側の一番前の席に、刹葉は左から二番目の列で前から四番目の席に座った。

その刹葉が座った席は、

「隣、失礼しますね。詩音」

詩音の隣だった。

「あ……うん」

それからはルリエの話が終わるまで詩音は顔を赤くしてうつむいていたのだが、これに気が付いたのは後ろの席のシアだけだった。

もちろん顔が直接見えたわけではなかったが、事情を知っている彼女には詩音がどんな状態なのか容易に想像できたのだ。

ルリエの話の内容はこうだった。

先程のグレイドは同時に数ヵ所に出没していた。

ここ最近ではグレイドは動きを見せなかったため、何かの前触れである可能性があるので戦闘体制を整えておくように、とのことである。

「あと、SSSランクの5人と篠月はこの後学園長室に顔を出すように」

ルリエはそう言って教室を出て行った。

「学園長室ですか……」

刹葉はそう小さく呟く。


----*----*----


学園長室の前。

ここはよっぽどのことがない限り入れない部屋。

そんな部屋の前に彼ら5人は立っていた。

「何もしてないのに緊張してきた……」

ランスリットがそう呟いた。

「確かに。ここに来るなんて、そうはないものね」

シアが応えるように言った。

普段は来ない方がいいのだからこの反応は至極当然である。

後で何を話したのか聞かれるのは避けられないだろう。

しかし、こんな状況でも落ち着いているのが1人。

刹葉だ。

彼は黙って学園長室の扉を叩いた。

「失礼します」

刹葉は扉を開ける。

「いらっしゃい」

そう言った男は髪が白く、手には茶碗の乗ったお盆を持っていた。

学園長室の光景はまるで応接室といった感じだった。

真ん中には木の長い机、それを挟むように五人掛けのソファーが二つ。

そして一番奥には大きな机と一人掛けの回転式の椅子があった。

それ以外には特に目に付くものはなかった。

「そこのソファーに座っててくれ。何か飲みたいものはあるかい?」

男は何気なく話しているが、ランスリットとシアは唖然としていた。

一方、刹葉と詩音、新鳳は、

「じゃあ僕は紅茶いただけますか」

「私、ミルクティーで」

「俺はウーロン茶で」

さらりと流れるようにソファーに座ったのだった。

「いやいや、なんであんたがここに?」

ランスリットが男に質問する。

「ああ、それについては後で……。で、もう1人はどこだい?」

男がそう言った直後、学園長室のドアを勢いよく開け、一人の少年が入ってきた。

少年は息を切らしながら、

「すいません、遅れました」

と言った。

「ずいぶんと遅かったですね。アレイブ」

刹葉が少年にそう話しかけると、

「ああ、色々あってね。しかし、久しぶりだね、刹葉」

アレイブも答える。

「お茶、飲むかい?」

白髪の男がそう言うと、

「レモンティーいただけますか」

アレイブはそう言ったのだった。


「まずは、自己紹介からかな」

白髪の男が一番奥の椅子に座りながら話し始めた。

「僕の名前はブレッド・アリステイル。現在、ここの学園長を務めている」

ブレッドは机に右腕をつき、その手にあごを乗せながら言った。

「普段生徒の前に出ないから、僕の学園での認知度は極端に低いんだよね。入学式も欠席しちゃったし」

ブレッドは姿勢を正し、ため息をついた。

「だからなんで英雄様が学園長なんてやってるんだ?」

ランスリットがブレッドに質問する。

ブレッドは少し顔をしかめたが、ゆっくりと話し始めた。

「僕が英雄だと言うのは、≪第二次悪魔の終日デモンズ・ラグナロク≫のことだろう。でも、あれは世間がそう言ってるだけだよ。僕はそれを利用されて軍の大将を任されてるだけだ。僕はもともとただの教員だったんだよ」

ブレッドは続ける。

「確かに、七星の戦争に巻き込まれて直後にあの事件だ。その上僕はあの戦場にいたからね。誰かが勘違いしたんだろう。でも、僕はただの仮の英雄なんだ。真の英雄の手助けをしたに過ぎないんだよ」

ランスリットは話を聞いて息を呑んだ。

「真の英雄……」

そんな奴が……

一体誰なんだ……

「で、何故僕らを集めたんですか」

アレイブが話を戻した。

「ああ、それは話しておきたい話があってね」

ブレッドは本題を話し始める。

「君たちを集めたのは他でもない。君たちのエリクサーについてだよ。君たち、エリクサーについてどれだけ知ってる?」

その問いに最初に答えたのはアレイブだった。

「エリクサーは現代における通信手段の一つ、≪携帯端末≫です」

ブレッドはアレイブを指差して言う。

「正解だ。容量、性能が20世紀ほど前のスーパーコンピュータを上回っている現代の携帯端末と全く変わらないスペックを持っている」

次にシアが答える。

「それに加えて、現在≪歴史上最高の兵器≫ですよね」

ブレッドは立ち上がって言った。

「正解。97年前に見つかったこれは16年間の研究の末に『兵器』であることが判明してからここまで来るのに大量の死者を出した≪人間史上最悪の兵器≫とも言える」

ブレッドはタバコに火をつけた。

「君たちのエリクサーはただのエリクサーじゃない。自覚もしていることだと思う。そしてもちろん理由もある」

ブレッドはタバコを吹き、灰皿にこすりつけ、話し続ける。

「君たちのエリクサーは25年前から研究で使用されていたエリクサーなんだ。最初に二つの試作品が作られた。それは普通のエリクサーとは比べ物にならない能力を有していた。ただ試作品だけあって欠陥があったんだ。しかし、その前進を糧に、遂に完成品が完成した。能力は試作品をベースに調整され、安定した能力を実現したエリクサー。それが君たちのエリクサーだ」

ブレッドはゆっくり出入り口の扉に向かって歩きながら言った。

「ランスリット・L・ハイント、君のエリクサーは様々な状況において最高の一手になり得る万能の切り札『ジョーカー』」

ランスリットがうなずく。

「シア・アーカイプス、君は人間の罪、つまりは≪七つの大罪≫を元にしたそれらの感情を本人のイマジネーションで武器化する『ギルティ』」

シアは黙ったままブレッドに視線を送る。

「それに対し氷新鳳、君のエリクサーは人間の美徳、≪七つの美徳≫を元にした使用者の感情を最も表しやすい形で具現化する『バーチャー』」

新鳳は少し微笑んだ。

「アレイブ・ジークス、君は全ての距離において最も速く正確な一撃を繰り出す『スナイプ』だ」

アレイブはゆっくり目を閉じた。

「それが君たち4人のエリクサーだ」

そこにシアがすかさず疑問を投じる。

「ちょっと待ってください、あとの2人は?」

それはランスリット、アレイブ、新鳳も気になったことだった。

ブレッドは数秒の間を置いた後、ゆっくりと話し始める。

「さっき試作品が存在すると言ったね。何故僕がそのことを知っているかと言うと、親友がその研究室でエリクサーの研究をしていたからなんだ」

「そんなことが聞きたいんじゃありません!」

シアが攻め立てる。

「黙って聞いてくれ」

ブレッドが小さな、しかしとてつもない威圧のこもった声で言った。

「…………っ」

シアは黙り込んだ。

「試作品には欠陥があった。それはさっきも言った通りだよ。その欠陥はね、片方は武器を一つしか使えないというもので、もう片方は使用者を危険にさらすことがあるというものだ」

今度はアレイブが口を挟んだ。

「つまり、その試作品の所持者が刹葉と詩音だと……、そういうわけですね。学園長」

ブレッドは一度うなずいて、再び話し始めた。

「そう。その名も『ゼロ』と『インフィニティ』。万物の起源と終点である『ゼロ』、そして万物の継続と連鎖である『インフィニティ』、それを言葉のまま能力にしたエリクサーが桐無刹葉と篠月詩音のエリクサーなんだ」


それから数分の沈黙の後、ブレッドが口を開いた。

「ねえ、僕こういう重い空気苦手なんだけど……」

「貴方の話でこうなっているのですが……」

刹葉がそう呟いた。

刹葉が続ける。

「で、今さらそんなことを話して僕らに何をさせる気ですか?」

ブレッドが答える。

「うん。それなんだけどね。他のエリクサーを探してほしいんだ。事情を理解した君たちならきっと引き受けてくれると思ってね」

刹葉は小さくため息をついた。

そんなことだろうと思った……

「最近、グレイドの動きに異変がありました。近く≪Level7≫が動く可能性が高いでしょう。そうなれば少しでも戦力は多い方がいい。僕は探します。向こうも力を蓄えてる」

他の5人もうなずく。

「…………ありがとう…………」

ブレッドはそう口にしたのだった。

『其の四』

楽しんでいただけましたでしょうか?

感想など書き込んでいただけると嬉しいです。

ではまた次回お会いしましょう。

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