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オーバーリミット  作者: 柊木隼人
第一章:国立ベール学園
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其の三 戦闘と招集

「では、出撃といきますか」

刹葉は黒いエリクサーを左手首に差し込んだ。

「オーバーリミット」

驚いているのはランスリットである。

「何だ?いきなりどうした?」

彼は何も理解していないようだ。

しかし、まだ状況は変わらない。

「で、いつまで隠れているんですか」

刹葉が問う。

「あの数だしな。ここは俺の遠距離格闘で先制攻撃をかけるから、二人は隙をついて突っ込んでくれ」

ランスリットは前を向いたまま刹葉と詩音に作戦を伝える。

即席の作戦ではあるが無いまま突っ込むよりはまだいい……はずである。

刹葉は何かを考え込むようにうつむいている。

そして刹葉は詩音に何かを呟いた。

「……おい、話聞いてるなら返事しろよ」

ランスリットが二人のいる方を向いた。

しかし、そこに二人はいなかった。

ランスリットが辺りを見回したが、近くにはいないようだ。

「あの二人、こんな時にどこに行きやがった」

ランスリットがグレイドがいる方向に視線を向けた。

そしてその先には……。

「あいつら!何やってんだ!」

敵に向かって走っている刹葉と詩音の姿があった。

「敵は増えています。これ以上は本当に手に負えなくなる」

実際、今も門からはグレイドが這い出ている。

「クソッ」

ランスリットはグレイドの群れに走り出した。


「私が先行する!」

詩音は刹葉の前に出た。

「お願いできますか?」

その言葉に詩音が答える。

「任せて。私の空玖璃カラクリなら」

詩音は太刀を水平に持ち、手をかざした。

徐々に刹葉との差が開いていく。

刹葉よりも速く、更に速くなっていく。

「斬りこむ!」

詩音はグレイドの群れを斬り倒して行く。

「……何だよそれ……」

ランスリットは驚愕していた。

そしてその驚愕はまだ続く。

「大丈夫ですか。詩音」

刹葉は詩音と背中合わせに立っていた。

……今、そこにいたのに……。

「どういうことだよ……」

刹葉は確かにそこにいた。

詩音は刹葉のずっと前で戦っていた。

刹葉の速度は変わっていなかった。

二人の間には一瞬では埋められない距離があった。

なのに……何故?

ここまで考えてランスリットは思考を停止した。

今はそれよりもやるべきことがあるから。

ランスリットは自分に言い聞かせるように頭を振った。


「やっぱりここだったのね!」

シアはようやく3人に追いついた。

「あいつらが戦ってる!助けに入るぞ!」

新鳳がそう言って走り出した。

「そうね。流石にあの数は多すぎね」

シアも走り出した。

「あ!お前ら、もういいのか?」

ランスリットが二人を見つけてそう言った。

「ええ、来る途中でほとんどは倒したはずよ。あと残ってるのはここだけだと思うわ」

シアが問いに答えた。

「そうか。じゃあ二人も頼む」

「ああ!」

新鳳はランスリットの言葉に二つ返事で答えた。

「さて、俺もやるか」

ランスリットは手に持った剣を一振りした。


「こうして背中を合わせると、負ける気がしませんね」

刹葉が詩音に言った。

「うん。一緒なら負けない」

詩音がうなずく。

「まだまだ!」

刹葉は攻撃のスピードを更に加速させた。


「ちょっと、あの二人どうなってるのよ……」

シアは驚きのあまりに足を止めた。

沸き出るグレイドの中心では刹葉と詩音の刃が異様な速さで乱舞していた。

グレイドを斬り裂く生々しい音が辺りに響き渡る。

「シオンのあんな動き、今まで見たことない……」

グレイドが沸き出るより早く、二人はグレイドを斬り刻んでいく。

その光景はまるで…………

「……うぅっ……!」

シアは小さくうずくまった。

「おい、アーカイプス!どうした?」

新鳳がシアに近寄る。

「……ううん、なんでもない」

二人は再び走り出した。


「アシルレイトで叩く」

ランスリットは腰についた自立機動兵器を起動させる。

「アシルレイト!命令だ!門に攻撃しろ!」

ランスリットの音声に反応してアシルレイトは門に向かって行った。

「あれは……?」

刹葉が呟いた。

「ランスの自立機動兵器、アシルレイトよ。今では珍しい近接格闘型のビットなの」

詩音が刹葉に説明した。

「なるほど」

刹葉がそれに納得した。

「ランス!」

新鳳が叫ぶ。

「おう!」

ランスリットが答え、大きく前方にジャンプした。

新鳳が後ろから思い切り加速し、上空のランスリットの下で止まった。

「合わせろよ!」

新鳳がそう言うと、後ろを向き、両手を組んだ。

ランスリットは新鳳の上に落ちてくる。

「うおらぁ!」

新鳳はランスリットを一瞬その手に乗せ、後ろを向いたまま門に向けて投げた。

「何ですかその技は!」

刹葉の声が響いた。

ランスリットは弧を描いて跳び、アシルレイトの攻撃で傷ついた門を剣で両断した。

門は音を立てて崩れ落ちた。


----*----*----


「ふう。終わった」

ランスリットは息をついた。

門が壊れるとグレイドは1体も残らず、それも一瞬で消える。

ただ今回は数が多すぎたらしい。

「時間かかっちまったなぁ」

門までの道を刹葉と詩音は確保しようとしていたのだが、

「まさか上を跳んでいかれるとは……」

「……思わなかったわ」

刹葉と詩音が言った。

「はっはっは」

新鳳がわざとらしい笑い声を出した。

「……………………」

シアはずっと黙っている。

「どうしたの、シア?」

詩音が尋ねる。

「……シオン、今まであんな実力を隠していたの?」

シアは疑問をぶつける。

「正直、今までからは想像できない実力だったわ」

シアがそう言って、詩音に視線を向けた。

「それは……」

詩音がそう言い出したとき、

「ん、メールですね」

刹葉はエリクサーを取り出し、メールを開いた。

他の四人もメールを開く。

「1年Sクラスに通達。今すぐ学園の1年Sクラス教室に集合せよ。だって」

ランスリットが言った。

「転入生は学園長室に一度寄るように、だってさ」

新鳳がため息をついた。

「シオン、それと転入生。また後で説明してもらえるわね」

シアは二人に念を押すように言った。

「ええ、必ず説明します」

刹葉の答えにシアはうなずいた。

「では、僕はお先に行かせてもらいます」

刹葉は走って行った。

「じゃあ、俺らも行くか」

ランスリットたちも歩き出した。


----*----*----


「じゃあ、俺は学園長室に寄らなきゃいけないから、またな」

新鳳がそう言って3人と別れたのは3分ほど前だった。

「しかし、なんでまた1年Sクラス全員を招集したんだ?」

ランスリットがそう言うと、シアがそれに答えるかのように呟く。

「あそこ以外にもグレイドが出現していたのかしら」

何にせよ呼ばれたのだから行くしかない。

その移動の間も詩音はずっと黙ったままだった。

暗くうつむいているわけではなかったが、困ったような難しい顔をしていた。

そして3人はようやく自分たちのクラスに到着した。

「ふぃ~。ようやく到着っと」

ランスリットはさっさと自分の席についた。

クラスは全員そろっていた。

それを確認した後、シアと詩音もランスリットに続いて座った。

「ええ、皆さんそろったようですので、用件を説明します」

教卓に立っている青い髪の女が言った。

「まあ、皆さんも察しての通り先ほどのグレイドについてもお話します。それとその前にあともう1つ」

首まで伸びた青い髪が揺れた。

「て、転入生を紹介します」

女は息を荒くして、興奮気味に言った。

その光景に生徒たちは若干引きつつ、転入生という単語にどよめいた。

「先生、生徒が増えるのはとてもうれしいです!」

そんなの見れば分かるって!

生徒全員が心の中で突っ込んでいるのだが、息を荒らげている本人は気付かずに話を進める。

「じゃあ、二人入ってきて!」

その声に応じて扉が開いた。

「失礼します」

丁寧な言葉使いの後に入ってきたのは身長175cmくらいの少年1人だった。

「……………………!!」

クラス中が驚きで溢れた。

クラスの中で唯一人、詩音だけは落ち着いていた。

それ以外の生徒は全員もれなく驚愕している。

少年はにこやかに笑いながら言った。

「皆さん。よろしくお願いしますね」

どうも柊城です。

『其の三』更新です。

感想などいただけたらうれしいです。

では、『其の四』でお会いしましょう。

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