其の三十一 問答と駆け引き
大分長いこと空いてますがまだまだ続きます
今日で高校を卒業し、今月27から会社に勤めるので更新は更に遅れるかと思われますが止めるつもりはありません
……ので、ゆっくりやってきます。
「見つけた……」
アレイブの視線の先にはサテライトビットを撃ち回し辺り一帯の建物を全て消し飛ばしていくシアの姿があった。何をしているのかは想像がつく。
なるほどな……。打開策としてかなり有効かもしれない。僕からは一方的に攻撃され、シアからは捕捉すらできない。一因はステージの建物なわけだ。捕捉するのに邪魔な建物を壊してしまえば、どこから来るのか解らない弾丸もどこにいるのかわからない敵も解決すると踏んだんだろう。そしてそれは半分正しい。
「けど、その答えじゃまだ50点だね」
アレイブは銃口を空に向け、弾丸を放つ。その弾丸は奇怪な軌道を描いた。
上空で曲がったのだ。“弧”ではなく“角”を描いて。
そしてそれは直撃する。シアの胸を目掛けて貫いたのだ。それと同時にアレイブは何かに殴り飛ばされるようにして吹っ飛ぶ。
0.5秒あとに、アレイブがいた場所には緋の閃光が撃ち込まれた。シアは流石に驚愕を隠せないまま、地上に突っ伏したアレイブを見た。
避けた!?どうして判ったの!?アレイブのレーダーでも反応は二つ映っていたはずなのに……
だからこそ私が偽者だと思って、放置しておいたんじゃないの?アトラクトの能力なら絶対に判るはずないのに。
いや、それよりも……
「ゲホッ!いや、危ない危ない……。ちょっとガードの魔力削っちゃったな。ま、直撃するよりはマシだし、いいけどね」
アレイブは脇腹をさすりながら立ち上がる。ゆらゆらと頼りなくも真っ直ぐこちらを見つめる二人のシアに両手の銃をそれぞれ向けた。
その口元は緩み、してやったりのしたり顔で二人を視界に捉えている。
「しかし、こんな強風の中で確実に当ててくる技量!僕ほどではないにしろ、どこか別のところで特別な訓練受けてたんだろ!」
アレイブは二人に話しかける。実はアレイブ自身、今はどちらが本物なのか判っていない。だからこそ両方の銃で二人を狙っているのだ。今話しかけているのは、単純に興味もあるが、それ以上に時間稼ぎの側面が大きい。この間に二人を観察し、何かしら見ただけですぐに判るような特徴を見つけ出さねばならなかった。
そしてシアはアレイブがそれを探していることに気付いていた。しかし、それでも辻褄が合わないことがある。
「質問には答えない。それはプライバシーだから、また今度ね。それよりも、どうやって攻撃を避けたの?」
「えぇ、こっちの質問に答えないのにか?こっちだってネタばらしは後にとっておきたいんだけど……」
アレイブは少し困った様子で二人を視界に捉え続ける。両耳に全く同じ音声が同じ声量で届くという現実ではあまり類を見ない貴重体験をしているのだが、あまり喜べる状況ではないようだった。
今回は部の皆の希望を託されているんだ。負けられない。
この大会では、優勝した者が所属している部活に特別賞金が与えられることになっている。所属していない者は別の形で恩恵を受けられるので生徒がこぞって参加する。トーナメントもEとD、CとB、AとSでそれぞれ分けられているため、Eクラスでも、Dクラスを制する実力をつければ優勝できるのである。何よりも学校行事ということで単純に力比べ感覚で参加する者も少なくない。
ちなみに、アレイブはゲーム研究会に所属している。
「じゃあ、一つだけ。今の攻撃を避けられたのが解らない」
シアの問いに答える義務はない。試合とはいえ戦場である。
けど、まあ、それくらいならいいかな……
アレイブもそんな風に考えてしまう。一対一というのもあるのだろうが、質問にはできるだけの答えを出してしまう性格なのだ。
「それはだな。まず、僕の銃弾を通したことかな。ガードエリクサーによる自動防御なら弾丸は弾き返していた。けど、さっきのシアは弾丸を弾かなかった。つまりは二つの反応のうちの偽者ってことになる。この試合でガードエリクサーは怪我しないための必須条件だからね。こうなればもう一つの反応から撃たれると思った。だから自分を殴ったのさ」
ここまでなら話しても問題無いだろう。
アレイブのその考えは間違っていなかった。シアがこの答えから得たのは“どうして攻撃がくると判ったか”だけ。“どうやって空中で避けたか”は教えてはくれないらしい。
そこから先は試合後にってワケね。
これ以上聞いても仕方がないことはシアも理解していた。入学から一応観察対象の一人としてたまに観察していた。それくらいは分かっているつもりである。
つまり、“空中で何でどうやって自分を殴ったか”と、“空中で軌道が曲がった弾丸”は自分で調べなければならないということ。
考えられる可能性としては能力を使っていると思うんだけど、見ていた限りではそういう挙動は見えなかった。いや、挙動を必要としない能力であると考える方が自然かもしれない。
能力はそれ自体が微弱だったり、大きな力を必要としなかったり、または使うのに慣れていたりすれば挙動や詠唱が必要無い場合がある。
例として挙げるならブルレットと刹葉の能力。ブルレットは自身の能力の発動にラテン語の詠唱を行っていたが、刹葉は発動をする際にそういったことを必要としなかった。詠唱が必要な理由は能力の発動が想像しやすいからである。詠唱や挙動などは熟練による慣れで能力の発動の際の詠唱は省略できるようになるが、どれだけ熟練しようと最低限の詠唱、挙動、条件が必要なものもあり、逆に初めから詠唱や挙動の無いものも存在する。
彼女が予想できる範囲ではこの程度だった。シアの武器は火力が高いものが多く、赤属性の傾向が非常に強いために攻撃や弱点などの予想が容易なのである。しかし、相対するアレイブの銃は緑と黄色属性以外ならどの属性でも使える可能性がある。現状で属性を割り出して弱点を探すのは厳しいだろう。
結局のところ、この試合はシアが不利を抱えているのだ。
それでも勝てない試合ではない。アトラクトが残っている限りは可能性は大いにある。シアの唯一の守備武装は火力ではなく、誘導のみに力を発揮する。
特性を上手く使うことさえできれば充分勝機がある。
そのために最も必要なこと。それはアトラクトを維持すること。維持し続けることができればそれだけアレイブを欺ける。欺き続けることができればそれだけ勝機は大きくなる。
欺いた隙を突く。最も可能性が高い勝ち筋だとシアは考える。
シアとアトラクトは同時に踏み出す。獲るは勝利。それだけを見据えて。